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これでも勇者ですが、何か?  作者: 『螺旋 螺子』
彼が勇者ですか? 「はい。あの人と同じオーラがします(エキドナ談)」
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文化の違い

「コナタ殿!!」


 バァン、と宿屋の扉を開けてベッドで眠るコナタにすがった。宿屋を出てから二時間も経っていないためか、コナタはまだ眠たそうな顔で視線を私に向けた。


「あぁ?」


 むちゃくちゃ機嫌の悪そうな声が帰ってくる。普段の私ならここで怯みしようが非常事態である私にそんなことを気にしていられる余裕が無かった。

 眉間にしわを寄せて殺意でもこもってそうな視線を送ってくる。必死な私はそれに気付かず、体を起こしたコナタの右腕に抱き着いた。


「コナタ殿! 頼む、話を聞いてくれ!!」

「え、ちょ!? クレア!? 近いです! いったん、離れて下さい!!」


 先程とは打って変わってコナタは慌てたような声を出して私を押しのけようと左腕で肩を押す。


「えぇい、そんな絶望したような顔で見ないで下さいよ! 言ってあげますよ、胸が当たってるんです!!」

「え? あ、あぁ!? すまない!!」


 今度は慌てて離れようとして抱き着く右腕を引っ張ってしまい、私に覆いかぶさるようにコナタはベッドから落ちてしまう。ダンッ、と私の顔の真横に手をついて、コナタは何とか倒れこむのを支えた。コナタの息が私の顔にかかるほど近く、私の胸が高鳴った。

 ――なぜだ、戦場でもないのに、この胸の高揚感は。


「壁ドンの床バージョン、ですか」

「え?!」

「つべこべ言わず、さっさと退いて貰えますかーー!!!」


 私は慌てて這い出て、コナタは体を下ろす。足を引きずったままの状態でコナタの方に振り返ると、コナタは仰向けに起き上がると、そのままの姿勢で私に眠そうな目をやった。


「で?」

「あ、えっと……。そ、そうだ。実はな――」


 私は男尊女卑の村であること、一人の娘を傷つけさせてしまったことを話した。


「クソですね」


 私の長い話を聞いて、コナタはそう評価を下した。


「どうすれば良いだろう!? 私は、どう贖罪すれば!?」

「どうもしなくて良いでしょう。むしろ、どうもしない事こそがこの村にとって一番良いのです」

「だが、そのままではこの村は何時まで経っても変われないではないか!」

「必要があれば変わりますよ。必要が無いから変わらないんです。ここの男たちも、女たちも。今で満足しているから、変わろうとしないんですよ」

「それではダメだ。こんなのは間違っている!」

「それは価値観の違いですよ。それぞれの伝統・文化があるんです」

「しかし――!」

「僕ら――旅人風情が口を出す事ではありません。それよりも、あのメデューサを穴から出す方法を教えて貰えますか?」


 コナタは聞く耳を持たない。

 ――どうしてコナタ殿はこんなにも冷たいのだ!!

 内心では不満を押し殺しながらも考えていた作戦を告げる。


「一緒に遊びに誘って、仲良くなる」

「……見かけと性格の割に、クレアって結構乙女ですよね」


 何やらバカにされた気がする。


「まぁ、引きこもりの――いや、それよりも深刻か。完全に病んでるな、アレ」

「って思ったのだが、どうだろう? 上手く行くだろうか?」

「作戦としては間違って無いんじゃないですかね。外に出ることは効果的ですし、まず話しかける事が出来たなら第一段階はよしとしましょうか」

「う、うむ」


 何やら難しいことを言っているが、褒められたとみて間違いないだろう。


「さて、と。それじゃあ、僕も行きますか」

「コナタ殿も来てくれるのか!」


 そうなると心強い、と思ったのだが、期待は裏切られた。


「いえ、違いますよ。野暮用で他の所へ行ってきます」

「どこへ、っと聞いても教えてくれないのだな」

「いずれ分かりますよ。気にしないで下さい。それよりも、あのメデューサとしっかり仲良くなって下さいね?」

「分かったぞ!!」


 着替える、っと言って私の退出を促すコナタを部屋に残して、私は再び目的地へと向かう。嫌な目線で見てくるが、むしろ胸を張って歩いた。すると、近くにいた村人が駆け寄ってきてこんなことを言う。


「おぉ、勇者様のお連れ様! とうとうあの化け物を処分して頂けるのですね!?」

「え? あ、いや……」


 まさか、仲良くなりに行こうとしているとは言えない。だからと言って、嘘を吐くのもどうかと思う。

 ここは本当の事を言うのが一番いいかもしれない。


「ソナタらには言いたい事があったんだ」

「はて、なんでしょうか?」


 まるで見当がつかない、という表情に苛立ちを覚える。


「ソナタには――」

「もう少し待って貰いたいんです。昨日にも言いました通り、結界が強固で例え勇者と言えども突破するには時間がかかります。そこで、あの怪物を外におびき寄せて、そこを叩こうと思います。その作戦の完遂の為には、あの怪物の気を緩める機会を作らなければなりません」

「おぉー!!!」


 私の言葉を遮るようにコナタが話をまくしたてた。

 しかしそれはどういうことだ。さっきまでの話と、まるで違うではないか!!

 と言おうとしたら、コナタの背中に回っていた右手が親指を立てた。

――大丈夫、だということだろうか?


「今、そのチャンスを作るために部下を派遣しています。何分、昨晩に計画したものですから知らせるのが遅れてしまいまして申し訳ございません。詳しくは村長さんの家で皆様にお話し致します」


 笑顔で村長の家へと歩き去っていく。

 信じているぞ、コナタ殿。

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