宿のベット上会議【下】
投稿予約設定をミスりましたw
少し早いですが、これが2014/3/10分です。
ここで宿屋の従業員が料理を運んできたので、一度会話を中断して、出て行くのを待った。
続きは、椅子に座って食事をしながらすることにした。
しばらく、薬屋が新しく注文する声と、ナイフとフォークが食器に触れる金属音ばかりが続いた。
「あー。その……惨い話って?」
若干落ち着いたので、打ち切りになった話題に触れてみた。
「ふぁ。ふほふのひはいほ」
「飲み込んでから喋れバカ野郎」
「種族の違い、だと?」
聞き取れたのな!?
薬屋は首を縦に振り、残りを全て口に入れて水で流し込むと、再び話し始めた。
「ふぅ~。そりゃあ、貴方達はモンスター慣れ――言い換えるなら異生物慣れをしてるけどね。人間がエルフを嫌うように。白人が黄色人種を嫌うように。ただ自分と違うだけで、迫害したってわけ」
「……」
これが人間。とでも言いたげな顔をする薬屋。
「そして、事件は起きた」
「えっと。メデューサが人を襲ったって話ですか?」
「そうよ」
正確には馬車だったらしいけど……、と補足を入れた。
「勿論、メデューサに悪意があったのか、それとも理由があったのかは分からない。これで村人から『敵』と完全に認識してしまった。けれども元々、メデューサ自身は何もしていないのだけれど、評判は悪かったからそれに尾ひれが付くのは直ぐだったでしょうよ」
「でも、実際に被害は無かったんだろ?」
「『正確には』ね。でも、そんなことよりも勝手な妄想が膨らんだ悪質な話の方が人間は好きでしょ?」
クレアが黙り、突然席を立つ。
「よし」
そのまま壁まで歩いて剣を手に取った。
「どうしたんですか?」
「村長殴ってくる」
「――ちょっと待って!?」
剣で? 本当に殴るだけで済むの!?
もう、無茶苦茶純粋だなぁ……。
いつまでもこうあって欲しいもんだわ。
「あははは。そうね。それがいいかもねぇ」
「煽るなっ!!」
ちょ、クレア!? お願いだから、剣を置いて! 立ち塞がる身にもなって。目が怖いから!
こう……俺を切り捨ててから行け! みたいな。
あっ。この前、ミクラエドで切り捨てらそうになったっけ?
それを思い出したから、クレアはバツが悪そうに剣を置いた。
「さて。私の情報はここまでよ。有効に使ってね?」
「珍しく、対価は求めないのだな」
感心したようにクレアが頷く。
「あ、晩御飯ご馳走様」
「そういえば、一緒に食べてましたね……」
ジト目で見てみる。
……なんか、合間合間に勝手に新しく注文もしてなかったっけ?
「今回は多めに見ておきますよ」
「まぁ、有益だったからな!」
「そう。また面白い話が手に入ったら、教えてあげるわ」
「あ、薬屋さん」
手をひらひら振りながら部屋を去ろうとする薬屋。
「んー? 私の名前はライトよ」
「では、ライトさん。貴方は……どこかのスパイですか?」
薬屋――もとい、ライトは足を止めた。
そして、振り返るとこう笑顔を添えて言った。
「ご想像にお任せするわ」
ライトの突然の参加で話題が逸れたりもしたが、本題に戻ろうと思う。
「では、ヤンデューサの対応についてですが……」
「ヤンデューサ?」
「あぁ。心が病んでるってメデューサ。だから、ヤンデューサ」
なんでこんな説明してるんだろう。
「彼女もそこそこ辛い日々を送っていたんだな」
無視したっ!!
「そうですね。現実から逃げたくもなりますよ……」
「彼女をあそこから出すには、やはりあの結界を破壊しなければならないな」
「いえ。そうとは限りませんよ。むしろその方法だとヤンデューサの心は更に閉ざされてしまう」
「じゃ、どうするんだ?」
「簡単なことです。ヤンデューサに自発的に出てきて貰うんですよ」
「それは結果は簡単だろうが、過程は簡単じゃないだろう」
「ええ。それでもヤンデューサに『この世界はまだ捨てたもんじゃない』って事を教えて差し上げれば、再び閉じこもる事は防げるかもしれません」
まぁ、その具体的な案についてが悩み所なんですが、と付け加える。
「ふむ」
クレアが目を瞑っている。
これはキスをしていいフラグ?
「……何をしているんだ、コナタ殿は」
案外直ぐに見開いた。どうやら違ったらしい。
「私に考えがある。二三日、私に任せてくれないか?」
「ええ。勿論、構いませんよ」
その答えに、クレアは満足げに頷いた。
「では、そろそろ寝ましょうか」
話に区切りが付いたので、眠気が襲ってきたのも相成って、軽く言ってしまった。
「あー……」
クレアがあさっての方向を見て目を泳がしている。
「ん? どうかしましたか?」
と問いかけると、赤い顔をしてベッドを指差す。
「なんでダブルベットなんだよ!!!」
今まで気付かなかったよ!?
この店は一体俺達をカップルだとでも思ってたのかよ!
「コナタ殿はベッドで寝ていいぞ」
「いえいえ。クレアがどうぞ」
「コナタ殿が」
「クレアこそ」
そんなやり取りを太陽が顔を覗かせるまで続けましたとさ。