ぼったくり薬局
恥ずかしい出来事をなんとか誤魔化しつつ、本日の成果を披露した。
イエローモンキー――各種素材をそこそこ
ブルーモンキー――各種素材をそこそこ
レッドリザード――各種素材を少し
ホワイトリザード――各種素材を少量
ウィークラビット――各種素材を少し
フーリッシュロック――堅い甲羅を沢山、フーリッシュロックの核×1
薬草――それなりに
四つ葉のクローバー――3つ
「ん? なんだ四つ葉のクローバーって」
「知らないんですか? これを持っていると、幸せになれるらしいですよ」
「本当か?」
一つを手に取り、怪しい目線を小さな四つ葉のクローバーに送る。
「いや、そういう言い伝えがあるんです!」
「あぁ。そういう事か」
納得したような顔をして、俺にクローバーを返す。
どんだけ疑ってたんだよ!
「宿代を手に入れる為にも城下町に戻ってお金に換えますね。日もそろそろ沈む頃合いですし、店が閉まるかもしれません」
「そうだな。行くか」
クレアが立ち上がり、手早く広げたアイテム類を袋に納め、俺も後に続く。
途中、モンスターから襲撃があったが、クレアが一蹴してしまった。このときに俺は、クレアを敵に回すのは止めようと誓った。
「さて、何処に行けばいいんですかね?」
「行き先を決めてないのに引っ張ったのですか……」
クレアの呆れ顔に少なからずムッとしたが、先ほどの誓いを思い出し、思いとどまる。
「ほら。僕、地方の者でしたので、この町は初めてなんですよ」
「むぅ。そうか、なら仕方がないか」
今度はクレアを先頭に、俺らは歩き出す。その間に、クレアがある程度町の紹介をしてくれた。
まず、薬や草などを売るのは薬屋らしい。
モンスターの素材は、専門業者が買ってくれるとか。それ以外にも鍛冶屋でオーダーをする際にも使えるらしい。
「着いた。ここが薬屋だ」
クレアのその先にあったのは、自然に優しそうな緑を基調とした店だった。店に入るクレアを追って、部屋に入る。
「うっ……」
「やはり勇者殿もそうなるか。私もあまり好きな臭いではない」
クレアは俺のように鼻を押さえる事はしなかったが、どこか表情が硬い。
それもそのはず。これは日本にいた頃――もう四年も前の話になるのだが――にあった病院独特の臭いにそっくりだった。消毒液の臭いとでも言おうか。
「あら。いらっしゃーい」
店の店員らしき女性が店の奥から出てきた。
「あの……、それは?」
「あ、ごめんねー! 着替えるの忘れちゃった。少しだけ待ってね☆」
パチンッとウインクして再び店の奥に引っ込む。それはそれは美人な人で……っていやいや!?
その美人な人が向日葵の様な笑顔と一緒に、血塗れの白衣を着ていたのだから呆然となるのは当然だろう。
「はいはい。ごめんよー!」
「……」
クレアですら呆然としている。この人、唐突な事に弱いのかな?
「すみません。実は――」
「分かってるって! これでしょ?」
彼女が差し出したのは、目薬を入れる瓶(無論、ガラス性のようだ)だった。
いや、まず買い取りなんですが。なんですかその、私、分かってますよ。って顔は。
「因みにコレはなんですか?」
「媚薬」
「ブッ…?!」
あ、クレアが吹いた。
確実に、唐突に弱いな。
「んな訳あるか!?」
「え。そこのお姉さんとお楽しみじゃないの?」
「冗談も休み休みに言え!」
あ、クレアにバッサリ切られた。間違っていないんだがなんだか悲しい。
「違います! 薬草の買い取りの方をお願いしたいんです!」
「あ、あぁー! も、勿論分かってたわよ!」
妙な所で意地を張る人だな。てか、真剣に媚薬だと思っていのか!?
ポケットから摘みたてホヤホヤの薬草を取り出す。
「うーん。品質は良くも悪くも……。全部合わせて、相場辺りの10銅貨でどう?」
「10銅貨って……、もう少し上がりませんか?」
「OK。それじゃ、15銅貨でどうだ!」
「もうちょい!」
「うーん。20銅貨じゃい!」
下手に値上げしても、買い取ってくれなかったら困るのは俺らの訳で。ここらで妥協するかな。
と思って薬草を渡そうとすると、クレアがちょいちょいっと手招きをして、耳打ちした。
「相場は1房、5銅貨だぞ」
「超ぼったくってるじゃぇか!?」
軽く10房はいってるぞ!?
「冗談」
ニヒリと意地悪そうな笑みを浮かべている。あのまま渡していたら絶対に返す気は無かったに違いない。
「ごめんって。んじゃ、相場より少し高めの60銅貨で買ってあげるよ?」
「……」
「大丈夫。相場より上だ」
「そ、そうなのかなぁ……?」
取引が成立し、薬草を差し出す。銅貨60枚に代わる。
「ありがとー! 丁度、薬草が足りなくて困ってたんだよねー!」
「何かあったんですか?」
「うーん……」
俺とクレアを見直した後で、彼女はこう言った。
「分からなーい。まぁ治癒薬がバンバン売れるんだから、どこかで騒ぎでも起こっているのかもね」
「そ、そうですか……」
「そうそう。媚薬は55銅貨で売って――」
「大変お邪魔しましたー!」
クレアの手を引いて店を飛び出す。
「なんて店を紹介してくれるんですか!?」
「い、いや。町では一番の薬屋と聞いていたんだが……」
クレア自身も何か言いたげだが、先ほどの会話で時間を浪費してしまった。正確な時間は分からないが、そろそろ店仕舞いをしてもおかしくない時間だろう。
「これぐらいのお金じゃ、宿に泊まれるか心配ですね。モンスター素材を買ってくれるのはどこですか?」
再びクレアの案内に従う。また、変なところに行くんじゃないだろうか、心配だったかが、今度は普通に買い取ってもらった。
「収入は12銀貨と36銅貨ですか」
「なかなかじゃないか?」
手のひらに乗る銀貨と銅貨を見ながら、二人で呟く。
俺はそのお金を半分に分け、その片方を更に半分に分けて、その半分をクレアに差し出した。
「なんの真似だ?」
「個人で自由に使って良いお金です。て言っても、こんな端金じゃ、ロクな物を買えないでしょうが」
「いや、別に良い」
「そんな事を言わずに!」
「いや、受け取れな――」
「いえ、是非受け取って――」
因みにこの攻防は夜が深まるまで続き、二人は野宿になったそうな。
2013/9/8 題名を変更