襲撃の裏側
「僕の考察を聞いてくれますか?」
長旅にも飽きてきた頃、ようやく頭の中で整理が付いたので、話す事にした。
「却下」
薬屋、オイ!!
「嘘よーん。ごめぇーん、泣いちった☆?」
「いえ」
果てしなくムカついただけですから。
「聞くぞ」
「私も。退屈していた頃ですしな」
ババア。退屈しのぎと露呈しやがったな!?
「では。現在のポイズンラットの異常発生の原因です。これは人為的な養殖による繁殖だと思われます」
「どうしてそう思うわけ?」
「薬屋はあの時にいませんでしたから、分からないでしょうが、ポイズンラットが四方八方に出現した際、動きを見せなかった。しかし、『ある事』で動き始めたんです」
「何か、ありましたかや?」
「ふむ……」
頭を捻らせるクレア。そして、ハッとした顔になる。
「笛の音が聞こえた」
「そうです。恐らく、あれは人間が吹いたもの。笛の音によって指揮をしていたのだと思われます」
「な、成る程」
「ミクラエドには『メデューサ』がいる。そいつを操る事を考える者がいるかもしれません。しかも、ポイズンラットの養殖などが可能とすることが出来る者……あるいは団体となると限られてくる」
「国家かしら?」
「ええ。その線も無くはありません。もしくは一番に疑えるでしょう。村一つ潰すのなどは容易いでしょうから」
「国家がそんな事をするのか!?」
いきり立つクレア。
「落ち着いて。まだ国家とは言ってませんよ」
「では、違うのですかじゃ?」
「はい。国家なら先程も言いました通り、村一つ潰すなどは容易い。いえ……『容易過ぎる』んです。王国で例えるならば、関税を上げる、あるいは徴兵で村の若者を消す。あるいは防衛の砦を建設させて金を負担させる。他国で例えるならば、強力な魔物あるいはモンスターを放って襲わせる」
「つまり、回りくどすぎるって事か?」
「そうですね。わざわざ非力なネズミを増やして。してることに時間をかけすぎている。人権費は? 証拠隠滅費は? 育成料は? 国ともなるとあらゆる事に深く関わってくることになるでしょう」
「そうね。ミクラエドを潰す事で王国にメリットは無いでしょうし、他国にもデメリットに見合ったメリットがあるとは思えないわ」
薬屋が後の言葉を引き継いでくれる。
もし、これが発覚すれば、即戦争となる。王国も他国も戦争などをしている余裕などないはずだ。
「では誰がしたんですじゃ?」
「月水心我とかは? ここらの大盗賊団じゃない。村の転覆なんて考えてそうね」
「いや、奴らの思想は『金持ちの金品を奪う』事。ミクラエドにそのような人に心当たりは?」
「いない訳ではありませぬが、それでも他の村に比べれば大したことはありませぬ。せいぜい、働き口を提供してくれる富豪が一人ですじゃ」
ファーリがそんな人間を狙うはずがないな。
「では、誰か? 恐らく、堕悪烈怒狼でしょう。彼らは僕らが関わったローサムでの作戦失敗及び人員の捕縛によって戦力に欠けている」
「成る程。だから『メデューサ』が欲しいのか」
「でも、メデューサとポイズンラットの育成にはどんな関係があるの?」
「それは、メデューサが『ミクラエドの守護者』だからでしょう。ポイズンラットで襲わせればメデューサが先陣を切る。あるいは全滅させれば守る意味もなくなる。それを狙ったんでしょう。捕まえる事が可能かはおいておいて」
周りが驚愕している。
「笛の音だけでここまで読みとれるなんて……」
「ほとんどが僕の推測論です。ですが、あながち外れていないでしょう」
「そうなる、町は襲われる可能性が高いですじゃ!」
「ええ。ですが、もし事前に封印されていた話が耳に入っていれば連れ去られるかもしれない」
「急ぐぞ!」
クレアが棒で馬の尻を強く叩いた。