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これでも勇者ですが、何か?  作者: 『螺旋 螺子』
彼が勇者ですか? 「はい。あの人と同じオーラがします(エキドナ談)」
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薬屋、再び

「ハァッ!」


 クレアがラビットソードを虚空で振るう。すると切られた虚空からカマイタチが発生してポイズンラット達を切り裂きながら進んでいく。

 接近まで約10m。

 俺も負けてられねぇ。

 高速詠唱術式の応用の応用。前の速度じゃ、仮面の男には勝てない。


発動セヨ(ヤレ)


 短く呟いた言葉に反応して、設置型の魔法が炸裂し、7m先が爆発する。

 熱風で煽られて「チュッチュッ!!」と四方八方から鳴き声が聞こえる。鳴き声を聞いてると、なんだか頭が狂いそうだ。

 周囲が火の海となりながら、身を焼き、肌を焦がしながらもポイズンラットが襲いかかる。 接近まで5m。


「このまま接近されたらヤバいですね」

「全くだ。私はこんな死に方は嫌だ」


 接近まで3m。


「もう一つの魔法を爆破させます。ですが、これは応急処置ですので、守りしか機能しません。長期戦は確実に身を殺します」

「だが、それぐらいしかカードは無いんだろ」

「ええ。スペードのA(必殺技)どころか、ジョーカー(切り札)なんですけどね」


 接近まで2mを切った。


発動セヨ(ヤレ)


 今、まさに飛びかかろうとしたポイズンラットの目の前に透明のバリアが張られた。しかし、発動のタイムラグによって、数匹が飛び込んでくる。


 ザシュッ、ズバッと軽快な音を立てて最後の一匹を始末する。

 バリアの向こうには空までを埋め尽くすポイズンラットでいっぱいだった。


 ……トラウマ物じゃないか。


「クレア、安心しないで下さい。いずれ破られます」

「それはかなりの一大事だなっ!!」


 真っ暗に遮られたにも関わらず、真っ赤な目は「チュッチュッ」と言った鳴き声とともに、四方八方から聞こえてくる。

 ダメだ、頭痛くなってきた。


「ん?」


 クレアが周りをキョロキョロしだした。

 なんだ? と俺も周りを見ると、答えは直ぐに理解できた。

 バリアを『かじっている』。


「これぞ、食い破られる。なんちって」

「コナタ殿~!!!」


 おおぅ、目が怖い。


「ここで待機していても勝てませんね。0%の現状維持と30%の賭けはどちらがいいですか?」

「そのパーセンテージはなんだ?」

「生存率です」


 その言葉にクレアは笑った。


「そうか。ならば30%だな」

「決まりましたね。お婆さんに伝えてきます」


 作戦はこうだ。

 破られた瞬間、馬を走らせてバリアに突撃してポイズンラット達を突破。乗ってきたポイズンラット達を振り払う。バリアの中には予め俺が設置型の魔法で爆弾をおいておき、頃合いを見て起爆。それでかなりのポイズンラットが吹き飛ばせるだろう。

 だが、成功確率が極低い。まず、馬を殺されたら徒歩で逃げる事になる。そうなれば、再び同じ状況に陥って、今度こそお陀仏だ。


「削られる音が大きくなってきたな。そろそろか?」

「ええ」


 息を整える。失敗すれば、死。成功しても、死ぬ可能性がある。


「ふぅ……」


 深呼吸を一回。

 馬をむち打つ為の棒を握る手が汗ばむ。

 そして、変化が起きた。


「なんだ!?」

「ポイズンラット達の視線が変わっている」


 一部はこちらを狙っているが、大半の赤い目が消えていた。


 ……もしかして、新たな人間を見つけたのだろうか?


「チュッチュッチュ!!」


 鳴き声を上げながらバリアから離れていくポイズンラット。晴れた視界から見えた人間はあの『薬屋』だった。


「逃げて下さい!!!!」


 俺の叫び声に薬屋は薄く笑う。

 口を動かす。恐らく詠唱をしているのだろう。

 そして現れたのは、巨大な炎。杖のような炎から火炎放射機並の炎が吹き出す。

 その炎は止まる事無く永続的に吐き続け、周りを取り囲んだポイズンラットを根こそぎ燃やし尽くす。

 ようやく劣勢と判断したのか、既に50分の1にまで減ったポイズンラットは身を翻して、森の中へと消えていった。


「はぁ……」


 バリアを解いて、薬屋に近付く。


「助けて頂き、ありがとうございました」

「いえいえ。別に貴方達だから助けた訳じゃないわよーん」


 相変わらずチャラけた人だ。


「どうしてここに?」

「そうねぇ。お金の動きがここに集まってるからかしら?」


 姉貴! わかります!! ぼったくるんですね!?


「貴方様は薬屋ですか?」


 馬車の中から老婆がヨロヨロと這いだしてくる。先程の光景が余程堪えたのか、顔色が悪い。


「ええ。そうですわ」


 こちらへは営業スマイル。客とそれ以外の区別はしているらしい。

 まぁ、薬屋の基準で言うなら、金を払うか、払わないかぐらいだろうが。


「良かったですじゃ。ここ最近、ポイズンラットの数が増えているようでしてな。毒消し草が足りないのですじゃ」

「摘んでくればいいでしょう?」

「それが、どこも考える事が同じらしく毒消し草が密集する平原はかなり取り付くされてしまっておって」

「大丈夫です。私が沢山持ってきましたから!」


 目が金なんだが。


「ありがたや~。ありがたや~」


 老婆が拝んでるぞ。


「薬屋。お前はあんなに魔法に長けていたのか?」

「あら、言わなかったかしら? 私は魔法では上級よ」

「むしろ、そっちが本業なのでは……」

「そうでもないわ。魔法使いが作る薬草は効き目があがるのよ。そこらの薬草とはひと味違います。そんな薬草をお一ついかが!!」


 後半から営業トークになってるぞ!?

 思わず信じかけたじゃないか。


「結構です」


 丁寧にお断りした。


「ミクラエドへ行くなら一緒に行きませんか? その方が危険を回避出来ますよ」

「私がいなかったら助からないもんねー。言い方が違うんじゃなーい?」


 ニヤニヤするな。人の下を見るな!


「お願いします、乗って下さい」

「護衛料は40銀貨でございます!」

「金とるのな!?」


 そんなこんなで、馬車は再出発をした。



 ……しくしく。

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