それからの進展
ローサムからの濡れ布事件を解決し、ファーリ=トドロキ率いる月水心我の追撃を振り切った俺たち勇者一行――もとい、俺とクレアは今日も変わらずリベリルドで、お茶を飲んでいた。
「コナタ殿。少し聞いていいか?」
「はい、なんでしょう?」
「果たして、我々はこんなところで呑気にお茶を飲んでいていいのだろうか? 我々には魔王討伐という人類の今後を決める重大な任務を負っているんじゃなかったのか?」
「はて。そんな頃もあったかもしれませんねー」
紅茶の入ったコップを片手に、少しおどけてみる。
紅茶は綺麗な平原に立つ木の一角にテーブルと丸椅子を並べている。
ここは、ニードラゴン――ファフニールの洞窟の先であり、つまりそこそこ良質な薬草が採れる穴場だったりする。
先日、道路工事が終わって、商人の足が少しずつ伸び始めている。日に数回、程度だがそれより前は二日に一度程度だったのだから、かなり改善された。未だに洞窟で眠るニードラゴンの姿を怖がる住人や、女性を怖がるニードラゴンやら、と相変わらずだが、両方とも少しずつ改善されつつあるのが現状だ。
因みに最近では、子供――ムウラ、ユリア、ルータ達にも愛着を湧き始めたニードラゴンは、「嫌」と言いながらも遊びに付き合い、雨などで来なければ「今日は来ないのか、ふんっ!」と……貴様はドラゴンの分際でツンデレか!
因みに言わずもがな、「別に来て欲しいとは言ってないぞっ!」とお約束を頂戴した。
誰に弁解しているんだ。
一度、晴れているに皆が来なくて、心配し過ぎて洞窟から飛び出したぐらいだった。
洞窟からは確かに出て欲しかったが、こいつはそのまま町へ行くつもりだったようで、全力で戦闘態勢に入ったのは言うまでもない。
何故か俺が悪役認定されたし!
基本的にドラゴンは悪役の象徴じゃねぇか!
「いくら、王国から切り捨てられたからといって……」
「き、切り捨てられた言うなし……」
「はぁ」
呆れたような、諦めたような顔をしてため息をつくクレア。
「クレア。幸せが今逃げたよ」
「コナタ殿のせいだな」
軽口を叩いてみると、見事に返された。
クレアは立てかけてあった武器――ラビットソードを手に持ち、準備運動を始めた。
「どうかしたの?」
「いや、余り怠けていると腕が鈍るのでな」
「わざわざ身を危険に晒さなくても」
「コナタ殿が私を守ってくれるぐらい強くなれば嬉しいんだがな」
「それは無理ですね。クレア、強いですし」
「それはする前から言う言葉じゃないなぁ」
俺がもういっぱいお茶をついでると、準備体操が終わったらしく、剣を振り回しながら言付ける。
「んんっ。魔物を100匹程狩ってくる」
「気をつけてね。僕はそこらで薬草でも摘んでるよ」
「危険になれば、私を呼んでくれよ」
「期待しています」
普通、逆だよね!
でも、つっこんだら負けなんだよ!
森へと入っていくクレアへ手を振り、姿が見えなくなると、家に入る。
家とは勿論、俺たちの家だ。
同居と言えば聞こえはいいが、夜這いなどかければ「キャーッ、えっちー!」で、全身が消し飛びかねない。
当然、そんなことは頭の中に留めているが。
この小屋はリベリルドの村の好意によって作ってもらったものだ。
肩書きは『勇者』だが、世界を救うような勇者ではなく、地域を守る勇者になりつつある。
……主にクレアに任せっきりだが。
「ん?」
今、小屋がノックされなかったか?
「はい、どうぞ」
扉を開けた先には、老婆が一人たたずんでいた。
俺の顔を見るなり、頭を深く下げる。
リベリルドの村人の顔を全員把握している訳ではないが、この老婆の顔は見たことがない。
服装が擦り切れていたりしているところから、遠出してきたのが分かる。
遭難したか、それとも、勇者関連か。
中へ通しながら、そんな事を考え、紅茶を運びながら尋ねてみる。
「どうされました?」
「勇者様。どうか、どうか、村をお救い下さい!!」