この世界のあの場所 Ⅰ
「して、その魔物はどこだ?」
身の丈以上もある大剣を軽々と振り回して、襲い来る魔物を殲滅する少年が、命を救った馬車の主に問いかける。
「魔物……といいますか、モンスターでございます。知性を持ち、人語を操るモンスターでございます」
「ふんっ、そんなの切り捨て、地に転がれば他の魔物共と同じだ」
その言葉を聞いて、馬車一行から歓声が上がる。
「特徴などを言え。俺が殺してきてやる」
「そうですね。余りにも恐ろしい風体故、誰も挑めた者がおりません。実質的な戦闘力は未知数です」
「構わん。俺に切れぬ敵などはいない」
そう言うと、主は気まずい顔をする。
「なんだ?」
「実はですね。そのモンスターは、元はといえば『聖霊』に数えられるものでして」
「なに!? 人を守る聖霊が、人に害を振りまいているなど、許せねぇな」
殲滅が終わった少年は、大剣を地に刺して話に耳を傾ける。
「はぁ。それがですね。『聖霊』は不死性を持っているのです」
「そいつは面倒だな」
「勿論、例外はあります。聖霊が生きる事を諦めたときに限り、その不死性は無効化されるのです。が、それほどしなくても、封印で充分でしょう」
封印、と少年が復唱する。
「しかしそれよりも前に、困ったことがありましてですね」
「他にもあるのか……」
「実は、そのモンスターを老婆が匿っているんです。それもこの七、八年にもなりましょうか。村人も怯え、老婆を何度も説得しました。しかし、こちらの意見と平行線で、やもなく無断でモンスターを処理する事にしましたのが、今回の経緯でございます」
少年は頭を傾げて、ふと漏らした。
「老婆の処理はしないぞ?」
「ええ。我々もそんな事は望んではいません。あのおばあさまには目を覚まして頂きたいのです」
少年は馬車に乗り込んだ。
「モンスターが操っているに違いありません。どうか、おばあさまと我が村をお救い下さい」
「分かった。引き受けよう」
主は安堵した顔で、こう言った。
「おお、流石、『勇者』様だ!」