混合魔法の脅威
更新日付を間違えていました。
すみません。
このままで行きます。
「ここで死んでもらうぜ」
再びこちらに向かって走り出す黒装束。
「行きますよ」
ドラゴンキラーを握り直しながら、クレアに呟く。視界の端で小さく頷いたのが見えた。
『この世を司る万物の四精霊に命ずる。火の力を借りて、敵を焼き尽くす業火と成れ』
「バーンボール」
燃え盛る火の玉を敵に投げつける。
『この世を司る万物の四精霊に命ずる。水の力、土の力を借りて、 我が身を守れ!』
「ウォーター・アースウォール」
敵はすぐさま詠唱する。
……二属性混合魔法か。少し厄介だな。
バシャリッと二つの魔法が接触し、火の業火が徐々に形を小さくしていく。消えたと同時にクレアが切り込みに掛かる。
水の壁を切り裂きながら……、
「!?」
「悪ぃな。俺の水壁はドロドロなんで囚われないようにな」
クレアは切り込んでしまったせいか、ラビットソードを持つ右手を肩まで飲まれていた。
「くっ、漆ノ式・紫電!」
ラビットソードに淡く光り出し、電気を帯び始める。しかし、
「そうなると、水気が引いて、土になっちまうぜ?」
電気によって水が蒸発してしまい、土の部分が更にラビットソードを抑えつける。
「コナタ殿!」
『赤の魔導書を参照。我が身に力を』
「ファイアボールⅧ」
直ぐに赤の魔導書を取り出し、弾丸を放つ。土の弱点である火で土壁を撃つ。
ジュアッ!!
命中したが、水気に塞がれてしまった。
「クレア! ちゃんと電気を――」
「しているんだが、上手く発動しないんだ!」
クレアの叫びに、敵があざ笑うかのような声で話す。
「この壁に触れた者は、魔力が吸い出されるんだぜ? 美味しく頂いてまーす。んで、こんなことも出来ちゃうんだぜ」
「コナタ殿! 背後!」
何事かと振り返る――瞬間、頬にキツい一撃が入る。そのままロクに受け身もとれず廊下の壁に激突する。
「――ッ!!!」
頭がグラグラする中、揺れる視界で俺を殴った相手を見定める。
それは、俺が首だけを切り離しておいた青銅騎士だった。
他にも上半身だけ、片腕を失った、などなど様々な青銅騎士が起きあがる。
「この女の魔力を吸い尽くすまで、永遠に動き続ける化け物だぜ? 死ぬまで踊りな」
痛む体を無理矢理動かして立ち上がる。
体の痛みに顔をしかめながら、構えをとる。敵の攻撃を最小限の動きで制圧しながら、投げ飛ばす、吹き飛ばす。
だが、相手は痛みを持たない青銅騎士。直ぐに俺のスタミナが切れる。
「クソ! コナタ殿! 逃げろ!! なんで言うことを聞いてくれないんだ!!」
クレアが必死で剣に魔力を加えるが、剣は全く反応しない。
「そらそら、避けろよー」
敵の軽快な声とは裏腹に、操る左手と剣を持たない青銅騎士から尋常じゃない一撃が放たれる。
「ガッ――!?」
再び吹き飛ばされ、地面に寝転がる。その上に、俺が首を切り落とした青銅騎士が、剣を掲げていた。
「……」
「コナタ殿ぉぉぉぉぉ!!!」
クレアの絶叫を耳に覚えながら、ボーッとその剣を眺めていた。
「な、なんだと!?」
「えっ!?」
敵が呟く。それもそのはず、剣は振り下ろされる事は無く、その場に留まっていた。
「よいしょっと」
倒された姿勢から、上に乗る青銅騎士を蹴り飛ばし、詠唱を開始する。
『この世を司る万物の四精霊に命ずる。火の力を借りて、敵を焼き尽くす業火と成れ』
「バーンボール」
「ちっ!」
特大の炎の塊を放つ。多少の水気を吹き飛ばし、土の壁を燃やした。
「熱っ! 痛い! うっ……!」
なにやら呻きながらクレアが右手を引き抜いた。どうやら無事のようだ。
「熱いじゃないか!」
「まぁまぁ」
あやす感じで返しておく。
「さて、反撃開始といきましょうか。クレア?」
「なんだ」
「僕が笑ったら、相手の頭を殴って下さい」
「え、ちょ! なんて適当な……」
最後まで聞かずに俺は、ドラゴンキラーを投げ捨て敵めがけて走り出す。
『この世を司る万物の四精霊に命ずる。火の力を借りて、敵を焼き尽くす業火と成れ』
「バーンボール!」
『この世を司る万物の四精霊に命ずる。水の力、土の力を借りて、 我が身を守れ!』
「ウォーター・アースウォール」
土水壁にバーンボールが塞がれる。しかし、そのまま迷わず突っ込む。
「はぁーい☆」
「!?」
勢い良く突破したせいか、顔と両手だけ貫通した。突然出て来た俺に、敵が驚く。
「バカだな。自分から捕まりに来たか!?」
「そんなわけないでしょう?」
両手の一差し指に炎を纏わせる。
「詠唱は済んでいます」
赤の魔導書は俺のポケットに入っている。
「ファイアボー――」
しかし、その弾丸が発射される事は無かった。両手には既に水土で固められている。全身から力が抜けていく感覚――これが、魔力を抜かれているのか?
「危なかったぜ。だが、これで捨て身も失敗だな?」
俺は意地悪そうな笑顔で笑った。
敵が魔法を詠唱し始めた時点で、勝敗は決していた。