炙り出し
ガチャリ、と青銅騎士が音を出す。
「クレア、少しだけ待って下さい」
息が整えたクレアにドア付近で辺りを伺わせている。行動しないように釘を刺す。
俺たちがいる場所は、屋敷の一番西の部屋か。地下室はここから北にあるはずだが、道のりがどうなるか分からない。
改めて耳を澄ます。窓を蹴破ったのは既にバレている既に把握されているだろう。
相変わらず静かだ。
「無視された……?」
そんなはずは無いだろう。
様子を見たいが、ここにいるのが安全。だが、それでは埓があかない。
動き出すしかないか。
「ありがとう、クレア。動きますよ」
もう、当初の『どちらにもバレず』は不可能だ。ここは作戦を切り替えるしかない。
どうやら月水心我は隠密特化のようだな。向こうは隠密のプロだろうが、戦闘に関しては俺達も柔ではない。罠を回避さえすれば、後は戦闘だ。青銅騎士を先に歩ませて、罠類を回避する。
「勝機は……ありますね」
腰を上げて、クレアに手招きをして隣に来させる。代わりに扉の前に青銅騎士を立たせる。
「さて、名付けて『後悔を先に立たせる』作戦。開始です!」
宣言と同時に扉を開く。
――バチンッ
「ッ!?」
隣で息を呑む音が聞こえた。
目の前に広がる光景――何本もの火の槍が青銅騎士を貫いていた。
トラップの用意良過ぎだろぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!
「う、動きませんね」
いくら命令を出しても、串刺しの青銅騎士はピクリともしない。
「飛び出しますよ!」
呆然としていたクレアの手を引いて、目の前で燃える青銅騎士を蹴り倒して廊下に飛び出る。
設置型の魔法は、重ねる事が不可能だ。重ねた場合、お互いがお互いに干渉しあい、発動しなかったり、想定外の力を生み出すからだ。
『想定外の力』を予測するのは、砂漠で探し物をする事に等しい。
まぁこの世界に『砂漠』が通じるかは知らんが。
「うわっ!?」
「ひゃっ!!」
飛び出した先に青銅騎士が一、二……五体もいらっしゃる。
「術者は近くにいるはずです。警戒して下さい!」
「分かってる。漆ノ式・紫電」
クレアの剣が黄色く光り出す。名前からして、電気を発しているのか?
前も思ったが、あれは魔法じゃないのか?
俺もドラゴンキラーを引き抜いて構える。
「ハッ!」
「よっと!」
青銅騎士の剣と打ち合う。
「僕相手に鍔迫り合いとは、愚かですね」
ドラゴンキラーをずらす。すると力を合わせる相手のいなくなった青銅騎士は前方に姿勢を崩す。そのまま右腕をたたみんで肘を騎士の顎に強打する。
一メートルは吹き飛んだな。
「コナタ殿、背後に!」
右隣でクレアが俺の背後を見ながら指差す。
どこからの軌道かと左右を一瞬で確認するが、どこにもない。
真上か!
つ−か、クレアさんは既に二体も倒してらっしゃるのね。
「ほっ!」
しゃがみながら少し下がりながら、頭上に水平にドラゴンキラーを構える。直後真上から剣が振り下ろされた。ガギィンッ、と鈍い音が至近距離で鳴り響く。
「っぅ……」
耳に響く音に、僅かに怯む。
背後をとられたのはショックだが、今はそんな事を気にしてられない。
そのまま青銅騎士は無言で剣に力を加える。
これは好機か。
「それでは負けますよ」
剣の先を支える左手の力を抜く。それと共に右手を押しやるように上に力を加える。
ガギィンッ、と再び鈍い音。今度は地面と剣が接した音だ。
振り下ろされて無防備な青銅騎士の手首を上から押さえる。更に足払いをかけて倒す。
三度目の鈍い音が響き、青銅騎士が倒れる。青銅騎士から力が抜けた感じだが、取り敢えず喉元にドラゴンキラーを突き刺す。
「ふぅ……」
少し時間がかかったか。
「こちらも終わったぞ」
ラビットソードを鞘に仕舞うクレアが声をかけてくる。
改めて思うが、クレアって強いんだ――。
「やーれやれ」
どこかから溜め息と共に出てきたか声が聞こえる。
声の方向を見ると、どこかで見たことある衣装に身を包んだ人影が奥の廊下から歩いてくる。
「こりゃリードに勝ったってのも本当ぽいわー」
あれが青銅騎士を五体も操っていた術者か。魔法に長けた者だな。
どうでもいいがリードって、茂みで襲ってきた野郎のことだよな?
「貴方が術者ですね?」
「いえっす」
クレアが剣を構えたまま俺の隣に並ぶ。
「罠を突破されるとは思わなかったけどよ」
人影がゆっくりと歩み寄ってくる。そして、二メートル離れた場所で止まり、こう宣言した。
「ここで死んでもらうぜ」