世の中は無情【上】
そう。この一連の流れを『偶然』だと処理するには怪しいだろう。確率的に宝くじで一等が当たるくらいか?
「しかし、現にそれは起こってしまったのではないのか?」
「いえ。これが『偶然』ではなく『必然』だと断定する事が出来る理由があるんですよ」
「なんだ? それは」
「では。順を追って説明しましょうか。まず第一に、信頼の厚そうな商人が『信頼』と『利益』を天秤にかけてた上で、話に乗ったのは明白です。ドラゴンキラー程度の価値がその天秤を傾けるのは難しいでしょう。ですから、その『利益』の概要は、お金以上に価値のある物だと思います」
恐らくそれは『お金以上の価値があり、莫大な利益が得れる』物だ。
今回の件はそれなりに奥が深く、片足を突っ込んでまで手に入れたがるような。だとすれば、大方絞り込める。
「何かの『優越権』みたいなものか?」
「ええ。商人にとって莫大な利益です。それを成せるのは上流の者だけ」
予想……というか、ほぼ直感だが、ラドルだな。
話を聞きながら、思案顔のクレアの顔が驚きに変わった。
「ちょっと待て。確か、あの商人はラドル殿と交流があったような口ぶりだったぞ! 奴隷を売るとかなんとかで」
それに、どの程度かは分からないが、あっさり降参したんだったな。
このローサムの町でラドルに刃向かう事は死を意味するのにも関わらず、ドラゴンキラーを発見されてもなお抵抗しないのは、普通に考えればおかしい。
恐らく、許される事が分かっていた。
「第二に、おかしいとは思いませんか? 領主すら操れるような高等貴族の家に押し入っておきながら、盗んだ品は『ドラゴンキラー』のみ。そこらの盗賊なら金品を根こそぎ強奪するはずです。もし少人数……、いいえ。普通なら例え一人であったとしてもたったドラゴンキラーを盗んで、他の物を盗まないなんて、人間の特性上無理です。『本当に強盗立ったのならば』」
「む。言われてみれば確かに」
これはラドルと盗賊団を結びつける事柄か。
ドラゴンキラーを盗み出させて、誰かに責任をとらせるつもりだったか。
恐らく盗み出させた後、それを邪魔な相手の元へ潜り込ませて、言いがかりで処分をしようとしていた、ってのが妥当案か。
「そして第三。そのおっさんの存在です。僕が捕まった日の夜、クレアはおっさんに出会い情報を仕入れた。間違いないですよね?」
「勿論だ」
「実は僕も翌日の朝におっさんを館内で見かけているのです」
「え!?」
「『盗賊団の情報を持っている』。これだけだと、おっさんがどこから情報が得たのかは分かりません。ですが、『館内にいた』のなら話は別です」
「あの男が、今回の盗賊団のメンバーの一人の可能性が大いにある?」
惜しいので、チッチッチ、と人差し指を振る。
あ、首を傾げられた。この世界ではあまりしないっぽいな、この仕種。
以後封印しよう。
「それだけではありません。おっさんは館内を出入りしている。第一、第二も考慮すればラドルと盗賊団が――」
「繋がっている!?」
決め台詞取るなよ!
「そうです。つまり、今回の一件は全て仕組まれていた事。僕が捕まったのは偶然でしょうが、本物が無ければこの計画に支障はありません。今回は、僕のドラゴンキラーが出現してしまいましたが、結果をみれば、どちらでもよかったんですよ」
無ければ、計画が実行され、あれば二本になる。それに、交通禁止令といわれても、数ヶ月も実行していたら町全体が荒廃してしまう。頃合いを見て解くつもりだったはず。
「となると」
「ええ。ロミニカさんが捕らえた商人はこっそりと無罪放免。盗賊団も口頭だけの罰に済むでしょう」
ムカつく話だがな。
「ん。では、ロミニカ殿は?」
「あぁ。そちらも恐らくですが、仕組まれています」
この世に正真正銘の『勇者』など、存在しない。世界は無情なんだ。
困った時に助けにくる、そんなすばらしい人間など。