一瞬の笑み
「コイツを連れ出せ」
「「「ハッ」」」
衛兵が扉を開けて、俺の体を拘束する。
「出ろ」
そのまま俺を廊下に引きずり出す。
「何立ってるんだ、罪人よ。犬のように歩けよ!」
ガンッと蹴られるが、それをヒョイと避ける。
衛兵陣から笑みが漏れた。
「何を笑っているんだ!!」
顔を赤くしながら、衛兵に怒鳴る。すると笑みは消えた。
「もういい。さっさと歩け!」
「光栄です」
笑顔で返す。
「あぁ……」
突然、青髪の女性が裸のまま男に抱きついた。
「うぉ!」
やや興奮した声を抱きつかれた衛兵は出す。
「ふん!」
「あぐっ……」
それに嫉妬(以外の表現が思いつかない)のかラドルが首輪を引っ張ると、それに従って俺の足元に顔が来る形で地面に倒れる。髪が長い為に顔は見えない。
「い、行きましょう! ラドル様!」
「ふん!」
嫉妬確定だな。バリバリ不機嫌じゃないか。
「ん?」
倒れた青髪の女性が、口をパクパク開いている。
「ニ……ゲ……テ……?」
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「う、うわ!?」
それを復唱した瞬間に、わずかに笑みを浮かべた後、突然立ち上がり俺の手綱を持った衛兵に抱きつく。
「…!」
動揺したのか、鎖を持つ手が緩む。その一瞬を付いて矢の如く走った。
「ま、待て!」
「な! 邪魔だ、どけ!」
背後を盗み見る。そこにはあの青髪の女が四人の前に立ち、とおせんぼをしていた。
逃げ切れるか!?
「ありがとう」
屋敷に反響するくらいの大声で叫んだ。
その声に気付いた屋敷に待機していたのであろう衛兵達が俺を追う。
「捕まるかッ!」
鎖というハンデを持ちながらも、昼の屋敷を爆走する。
酸欠の頭を高速回転させるが、良い案は無い。だが、このまま何事も無ければ逃げ切れる!!
大まかな間取りは理解している。昨日、連れ去られた際に目に焼き付けるように覚えたからだ。
この場所を右に回れば……。
「見えた!」
屋敷の扉だ。
背後をチラリと確認するが、まだまだ余裕がある距離だ。
『この世を司る万物の四精霊に命ずる。風の力を借りて、あの扉を風の刃で貫け』
「エアカッター」
俺の周囲に旋風が現れる。そのまま前方へ突き進み豪華な扉をボロボロにする。
「後は庭を翔けるだけだ」
バギンッとボロボロになった扉を蹴り飛ばし、庭に出る。
「衛兵は……一人だけですか!」
……なんと無用心な。
全力で走る。目の前の衛兵は魔法だけで十分対抗出来るだろう。
「なぁ、運命って信じるか?」
突然、目の前の衛兵が大声でそんな事を言ってきた。
「俺は信じるな」
「!?」
それはロサム街で出会ったおっさん(青)だった。
『この世の万物を司る四精霊に命ずる』
まずい。対抗手段が無い。唱える前に、コチラから仕掛けるか!?
『この世を司る万物の四精霊に命ずる』
『水の力を借りて、縄を作り出しその青年を捕まえよ』
『土の力を借りて――』
「ウォーターバインド」
空中から水が現れて、俺の周りを舞う。
『あの男の――ッ!!」
ピチャリと肌が水で濡れた事が分かる。
「精々、処刑台で無様に散ってくれや」
おっさんの高笑いが頭の中で反響した。