表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
これでも勇者ですが、何か?  作者: 『螺旋 螺子』
彼が勇者ですか? 「本当なのか、ただただ怪しいな(ファーリ談)」
38/66

死神の足音

「………!」


 俺が『何か』と手を繋いで道を歩く。


「………………」


 しかしその目から見える景色は漆黒の闇に包まれていた。


「…………?」


 俺が顔を上げる。するとやはり『何か』の顔は無かった。


「………――」







「――来ないで下さい!」


 ハッと目が覚める。辺りを確認すると塗装が剥がれてねずみ色がむき出しのコンクリートの壁があった。窓の外からは真っ黒な景色が続くが、夜明けは近いだろう。

 クレアは間に合うかな? ふと、なぜか心配になってしまう。


 ……妙な夢を見たな。


 頭に手をやって、気持ちを落ち着ける。あの夢には俺の心を惑わせる何かがある。


「この、ケダモノ!」

「なん…だと!? このクソ猫がぁぁ!」


 バチンバチンと音がする。

 それが鞭の音だと気付くのに、数秒を要した。まだ頭が冴えていないが、どうやら右側の五番目に入っている亜人が抵抗しているのだろう。


 豚―もとい、ラドルが『猫』と称したから、獣猫族か? 尻尾から紫色が見えてたし。


「黙れ! さっさと来い!」

「嫌ァァァァァァァァ!」


 首輪に鎖が繋がれている。それを引っ張っているようだ。


「黙らせろ」

「「「ハッ」」」


 背後に控えていた衛兵の三人が、獣猫族を押さえ込み口に布を巻いた。


「んー! んーんーんー!!」

「さあ行くぞ」

「ラドル様の朝のお相手をするんだ!」


 ズリズリと引きずられながら牢屋から出そうと引っ張る。


「豚、うるさいんですよ。黙らせて下さい」

「分かっておるわ! ……? 待て、貴様なんと言った?」


 獣猫族の檻から飛び出て、俺の牢屋の鉄格子の前に立つ。


「なんでもございませんよ。ラドル=レモンティー様」


 ニッコリ笑顔で対応する。


「貴様、今。『豚』と言わなかったか?」

「ええ。言いましたが、それが何か?」

「そんなに死にたいか!」


 衛兵の一人が鍵を渡そうとする。


「ま、待って下さい!」


 それを俺が焦った声で止める。


「勘違いは止めて下さい! 俺は、あの叫んでいた亜人に言ったんです! 豚みたいな鳴き声だったでしょう?」

「む」


 そこでラドルが少し怪しい笑みを浮かべる。

 キモイ。


「なかなか分かってるな。亜人のメスなど豚に同じよ! どいつもこいつも――」

「それとも」


 得意げに話すラドルの言葉を遮って問う。


「『豚』に関して、何か自覚する事でもおありで?」

「――ッ!!」


 ラドルの顔が真っ赤に染まる。


「衛兵。鞭でこの男を叩き続けろ。」

「ハッ」


 鍵を開けて、鞭を持った一人が入ってくる。容赦無く鞭が振るわれる。

 うん、変な属性に目覚めそうだ。まぁ、叩いてるのが美人なお姉さんだったら良いのだが、残念な事にイカツイおっさんだ。

 って、何も良くねぇよ!!


「コイツにはたっぷりと自分の言ってしまった罪を償わせてやる。さっさとその亜人を連れて――」

「あれ? やっぱり自覚があるんじゃないですか」

「――ッ!!!!?」


 ラドルは鞭を持った衛兵を突き飛ばして落ちた鞭を拾うと、俺にたたき出した。

 普通に痛いが、鍛えた体から繰り出される鞭よりは、この巨体から振るわれる鞭の方が何倍もマシだ。

 ……俺の感覚って麻痺してきたのか?


「あの、ラドル様。この亜人、いかが致しま――」

「そんなもの、牢屋にぶち込んでおけ! ワシはこれから、コイツにたっぷりと教育してやるわ!」











 朝食を取ると言って、『教育』を終わらせて館の方に引っ込んだ。

 全身の鞭に打たれた箇所が熱を帯びたように、自己主張してくる。

 熱い。焼け死にそうだ。


「お礼は、言いませんよ」

「……」


 牢屋の向かい側から聞こえる声は幼かった。

 想像以上の痛みだった為に何も答えられない。


「私を豚呼ばわりしましたから」

「……」


 とりあえず、地面に寝転がったまま、親指を立ててガッツポーズをとっておく。


「あの、大丈夫ですか?」


 壁の向こう側からリーサの声が聞こえるが、返答できる気力は無い。

 因みに、この牢屋にいる衛兵も朝食の為に席を空けているようだ。無用心な。


「え? 生きていますよね!?」

「…ぁ…」


 なんとか声を上げるが、それ以上はかなわない。


「全く。仕方が無い人ですね!」


 やや怒った声が向かいの牢屋から聞こえてくる。


「んっ……!」


 妙に艶やかな声を出す。

 おぼろげな目で視線をやると、手のひら(というより肉球?)をコチラに向けていた。


「ぁに……を……」

「黙ってて下さい。集中力が乱れますから」

「え。だ、大丈夫なんですか!?」

「大丈夫です。だから貴女も黙ってて下さい。邪魔です」


 全身が温まってくる。


「寝てて下さい。お礼は言いませんが、お礼はします。少なくとも……私みたいなのを守ってくれましたから」


 やがて、眠りにおちた。













「……」


 目が覚める。まだ頭がポーッとしていて、どこかの夢にいるみたいだ。

 全身の痛みはまだとれないが、それでもかなり和らいだ。


「あの……、ごめんなさい」


 隣の牢屋から突然リーサが謝ってきた。


「残念です。貴方の相棒さんは間に合わなかったみたいです」


 外の景色を見る。日が上がっていて既に昼辺りとなっていた。


「そう……ですか」


 まぁ、仕方が無い。

 俺の推理が外れていただけかもしれないし。


 カツンカツン……と妙に静かな牢獄に響く死神の声。


「ごめんなさい」

「いえいえ。リーサさんにはどうにも出来ない事です」


 その足音はだんだん大きくなる。


「素敵な来世を」

「まだ死んだと決まってませんよ」


 やがて階段を下り終え、鉄格子を挟んで、青い髪の裸の女性を連れつつ俺の前に立つ。


「やあ。気分はどうだね?」

「最高ですね。さいっこうに最低です」


 汚い笑みにせめてもの笑顔で返してやった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ