表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
これでも勇者ですが、何か?  作者: 『螺旋 螺子』
彼が勇者ですか? 「本当なのか、ただただ怪しいな(ファーリ談)」
37/66

『可能性が低いと思われます』

 目の前を横切った馬車を引く主を見る。それはローラムに入る際にコナタを連行した衛兵と話をしていた商人だった。


 衛兵と仲良さげに話しながら、馬車の中身を見ずにただ談笑している。


「すみません!」



 並んでる順番を完全に割り込む形で列に並ぶ。


「あら、いーわよ」


 ……え?


 ゆっくりと後ろを振り返る。


「あら、勇者の相棒じゃなーい!」

「あの薬屋ッ!!」


 一体なんでこんな所にいるんだ!!


「『一体なんでこんな所にいるんだ』って顔してるわねぇ」

「確かにそう思ったが、それはどんな顔だ!」

「こんな顔?」


 薬屋曰く、『一体なんでこんな所にいるんだ』顔をされた。

 凄く不愉快。


「大変らしいわねー。勇者、窃盗容疑でラドル=レモンティー家に拘束中だってねぇ?」

「何故それを知っている!」

「あら? 私の情報網は大きいわよぉ」


 ウインクされた。


「ほら、順番よ」


 背中を押されて、衛兵に体をチェックされる。

 OKを出されて、薬屋がチェックされる。


「忘れちゃダメよ。この世は甘くないわ。どんな可能性も見捨てちゃダメよ?」


 笑顔で笑う。


「おい。貴様。これはなんだ?」

「え?」


 ポケットから取り出されたのは、黄色い液体が入った小瓶だ。


「あ、それは……ねぇ?」


 チラッとフォローを入れて欲しそうに視線を送るが、あいにく私には大事な仕事がある。


「武運を祈る」

「え!? うっそぉー! 間に入れてあげたじゃ――」

「貴様! 少し来て貰おうか! それまで通行は禁止だ!」

「ちょっとぉ! お姉さん、この現実に負けちゃいそ――」

「ごちゃごちゃ言うな!」


 凄い怒られてる。

 取りあえず心の中で無事を祈り、あの商人を直ぐに追いかける。


「すみません」

「え? はい」


 森に入る目前で追い付き、声をかける。

 どうやら向こうは私を覚えていないようだ。


「実はこの森に盗賊が出没しているらしい。護衛を雇ってみないか?」


……商人は私の体をジロジロ見つめて、頷く。


「構いません。料金ですが……」


 直ぐにお金の話をされるが、中身はどうでもいい。とにかく襲撃から守る。襲撃されれば、それを理由に中身を見れる。


「構わん。隣にいるぞ」


 馬の隣を歩く。主は馬車の中に引っ込んでしまった。


「よしよし」


 ソッと馬を撫でる。その馬は真っ白などこにでもいる馬だった。ただ一点を除いては。


 右目が無い。


 それが他の馬とは違う。本来、馬自身も危険察知の存在として馬車には無くてはならない存在だ。それなのに、右が見えない馬など、右から襲えば直ぐに奇襲がかけられる。

 『馬車に何かある』という先入観に囚われていた。


「む」


 なんとなく気配がする。森の中から|()()の。


「主! 盗賊だ!」


 慌てた調子で馬車の中から飛び出る。

 ヒュッと、木々の隙間から人が出てくる。


「数が多いな……」


 ドラゴンキラーはそれなりの品だったが、少し舐めていたか。


「だが!」


 援軍が来ない。誰にも頼れない。この絶望的な状況で、どうする――ッ!?


「え!?」


 背中に刺さる小さな短剣。


「ある……じ?」

「実は私も盗賊に荷担しているものでしてな。貴方みたいな人が出てきた時は少々焦りましたが、なかなか上々でしたのでな。ここから南東に生息するポイズンラットの毒を10倍に薄めて捕獲させて頂いた次第ですな」


 体の自由が利かなくなり、地面に倒れる。


「あぐっ……」

「良い体をしてますな。これは30金貨はいきそうですな。あの貴族に買い取ってもありますかな」


 コナタは言った。

 『その可能性は低いと思います』、と。断じて否定などはしてない。


「くっ!」


 髪の毛を商人に掴まれ、引っ張り上げられる。


「貴女はこれから奴隷になるのですな。毎夜毎夜、壊されるまで狂わされる。ウヒヒ……」

「げ、ど……う」

「キヒヒ! その精神がいつまで続くか楽しみですな!!」


 私は力を振り絞って叫んだ。


「うぐぅぅあぁぁぁぁぁぁ!!」


 約束を果たせなかった、信頼に答えられなかった。

 ゆっくりと盗賊が近寄ってくる。

 私は……、私はァ……!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ