立ち止まって深呼吸
「はぁ、はぁ……」
私は夜の街道を疾走する。そろそろ日が出てもおかしくない時間帯だが、未だに盗賊団のアジトは特定出来ていない。
ほんの数時間前、コナタに必ず見つけてくると約束したが、果たして本当に出来るだろうか。
「いや。出来なければ……」
出来なければ、コナタが死ぬ。
なんて理不尽な話だ。言い掛かりをつけられて処刑されるなんて、無茶苦茶だ。だから、貴族は嫌いなんだ。
「どこだ!?」
クソッ! あの頃とはもう違うんだ!
私を『相棒』と称してくれる大切な人を失うわけにはいかない。もう、大切な人をこれ以上守れないのは嫌だ。
あの頃とは違うんだ。
「どこにいるんだ!」
ドラゴンの時、私を信じてくれたように、今もコナタは信じてくれている事だろう。
頼む、どこにいるんだ!!
街に人が出始めた。
もうタイムリミットはゆっくり近付いている。
「もう、手遅れだったのか!?」
既に移動し終えた後なのか。
どうすれば! どうすれば! どうすれば! ドウスレバ……。
『綺麗な腕に見とれてました』
唐突に頭に過ぎる彼の声。
顔が少し熱くなる。
……一体、こんなときに何を考えているんだ。今、私のすべき事を……『私のすべき事?』
「待て」
私のすべき事は盗賊団を捕まえる事ではない。
「私のすべき事は……商人の馬車を見つける事だ」
盗賊団を捕まえた所で根本的な解決には至ってはいない。『ドラゴンキラー』が無ければ無罪にはならないのだ。
「そもそも」
あの男が本当の事を言うと100%信じてしまっていいのか?
「これは失策だった」
だから男は最後まで笑うのを止めなかったのか。私としたことが、怒りで我を忘れてそんなことすら考えていなかった。
「反省会は後回しだ!」
だが、あの男がそれこそ100%嘘を言うとも信じにくい。あの状況下で嘘が平気でつけるならば、薄笑いどころじゃ済まなかっただろう。もしくは、悔しがる演技をしたに違いない。
ふと。嘘つきの事を思い浮かべてみる。
コナタは私をドラゴンから退ける際に、皆を連れて行くと嘘を付いた。それも私が目覚めれば直ぐに気づく嘘だ。
それがどこまで計画されていたのか分からないが、『咄嗟に嘘を付くとき、その嘘は安直になる』。
「つまり、思わず「北」と言ってしまいたくなるのは……「南」か!
」
初めから合っていたのか。
周りはそこそこ明るい。間に合うか? いや、間に合わせるんだ。
「皆様には多大なご迷惑とご協力を……」
市長の挨拶が少し前に始まってしまった。着飾った言葉もそろそろ終わるだろう。後少しで北門だ。
頭を過ぎる。『北門にいなければ』、『間に合わなければ』。それが示す答えは『コナタの死』。
あの不思議な少年が死ぬ。
「見えた!」
それでも私は走り続けなければならない。見付けて、なんとしてもドラゴンキラーを回収しなければならない。
「あっ!」
入り口で衛兵が検問をしているため、行列が出来ている。
後方から全部確認すれば、効率が悪い。一度一番前に行って、OKが出された商人を確認すれば……。
「待て」
どうやってその商人だと判別するんだ?
色とりどりの馬車もあるが、真っ白な馬車がほとんどだ。色とりどりの方なら判別が出来るが、真っ白な馬車ならどの馬車なのか分からない。商人も馬に乗って進むはずがない。馬車の中で休んでいるはずだ。
まさか、片っ端から襲撃するつもりか?
「そんな訳がない」
ならば、どうする? やはり目印を付けるはずだ。
目印? それはなんだ?
「やばい」
探せ、探せ、探せ、探せ、探セ!
見付ケラレナケレバコナタハ死ヌゾ。
「……」
違う。落ち着け。冷静になれ。
『クレアが来てくれる事を信じてたから』
そうだ。私はコナタに信頼されている。
その想いが、暴れ回る心臓を沈めてくれた。
目を瞑り、一つ深呼吸。
再び目を開いた先に広がる光景を見て、思わず笑った。
簡単な事だ。
「見つけた」