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これでも勇者ですが、何か?  作者: 『螺旋 螺子』
彼が勇者ですか? 「本当なのか、ただただ怪しいな(ファーリ談)」
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逆転の一手

「……」


 どこからか声が聞こえる。


「……殿」


 ゆっくりと体を起こす。硬い地面に体を寝かせていたせいか、体の節々が痛い。


「コナタ殿」


 今度ははっきりと聞こえた。

 場所は斜め上にある鉄格子入りの窓からだ。


「クレアですか?」

「コナタ殿。何を呑気に寝ているんだ! 明日処刑されるかもしれないっていうのに」


 突然の罵声。

 いやいや、それは重々理解しているが、眠れるときに眠らないと。


「いやいや。ごめんよ。でも、クレアが来てくれる事を信じてたから」

「……」


 黙った。照れてるのだろうか?


「と、とにかくなんとか脱出する術は無いのか?」

「一応、ありますが。それよりもクレアはどうやってここへ?」

「見張りを眠らせた」

「そ、そうですか」


 クレアは魔法が使えないから、物理的に眠らせたのだろう。

 可哀想になー、とどうでもいいか。


「いくつか情報を集めておいたが、聞くか? くだらないものもあるが」


 お! 流石、相棒! 気が利くね。


「ええ。是非聞かせて下さい」

「ローサムには貴族が住んでいる。名前をラドル=レモンティー。この町の権力はこの男に集中していて、領主ですら頭が上がらない」


 予想通りだ。

 てか、豚の名前って紅茶なのな。


「盗まれた品は『ドラゴンキラー』。今から約二ヶ月ほど前に来た商人から買い取ったものらしい。ドラゴンキラーなんて品は滅多に出回らないらしいからか、オークション方式で5金貨まで釣り上がったとか」


 5金貨だと!? 50万ぐらいだったよな、確か! 

 あの剣を売ろうかと割と真剣に考えてみる。


「ラドルは金を持て余してるようで、その財でコレクションをしているらしいが、非常にケチらしい。町民からの評判は悪評ばかりだった」


 最低だな。


「奴隷を買う趣味もあるらしく、女を買い取って屋敷で――」


 その上、クズだな。


「と、とにかく、今回のドラゴンキラー窃盗の犯人は最近暴れだした盗賊団によるものだと町民は噂している。『堕悪烈怒凶狼(だーくれっどうるふ)』とか言ってたな。盗まれたのは三日前だそうだ」


 だーくれっどうるふ、て。どこの暴走族だよ。


「なるほど」

「後は『月水心我』の傘下だって事だ」


 月水心我といえば、ここら一帯の最大盗賊団の名前だったよな。義賊だと言われている、って噂だな。


「何か対策案は無いか?」

「今考えてる」


 進入方法は一体なんだ? 盗賊団だから外部からに決まっている。商人に変装した進入が一番安全で、なおかつ自然だろう。

 しかし、盗み出したあとに、警戒態勢が敷かれたのは予想出来たか? 出来るだろうな。町民に成りすまして情報収集すれば、貴族がどんな人物か分かるから、直ぐに察せる。

 現に三日間も捕まっていないのは、そういう事実を知った上でこの袋の鼠状態の中から隠れられているのだろう。

 協力者がいれば、発見は難しくなるな。仕掛けるなら、緊急体制が解除される告知が出される今日の早朝か。

 しかし、未だに検問が敷かれていた場合、逃げ出せないのではないか? 留まるにはリスクが高い。

 安全に、しかもバレずに外へ持ち出す方法。そして、検問の目も潜り抜ける方法。


「……見付けた」

「何。本当か?」

「ええ」

「場所はどこだ!?」

「いえ、流石にそこまでは……」


 俺は神か!


「ならば何が分かったと言うのだ?」

「その盗賊が動くルート。まぁ、違ったら僕が死ぬけどね」

「どこを探せばいい?」

「探すのは盗賊のメンバーではありません。今日……もう昨日ですかね。衛兵と話していた商人がいたでしょう? その方を探して下さい」

「アイツが仲間なのか?」

「いいえ。その可能性も否定は出来ませんが、確率は低いと思います。見た所、それなりの大商人の風貌でしたし、他者からの信頼も厚そうです」

「つまり、私はどうすればいいのだ!?」

「あの商人を見付けたら、距離を置いて監視して下さい。恐らく、外の森にだーくれっどうるふのメンバーが待機しているはずです」


 盗賊は、信頼の厚そうな商人の馬車にドラゴンキラーを紛れ込ませる。

 信頼の厚い商人は衛兵のチェックが甘くなる為、悠々と出られるかもしれない。そして、バレたとすれば、盗賊が疑われる余地が無くなるからだ。盗賊はどの商人か分からならないだろうから、馬車のどこかに目印を付けているはずだ。

 他とは違う馬車、それが目印になるだろう。

 無事に突破出来れば、森で馬車を襲ってドラゴンキラーを回収。そして後から商人として続いてきた仲間と合流って所だろう。


 期限は、解除命令が出る早朝まで。


「出来ますか?」

「やるしかないだろう」

「期待しています」

「ちょっと待ってくれ」


 壁の向こうでゴソゴソと音がする。

 暫くして、格子の間から真っ白な細い腕が伸びる。クレアの腕だ。


「食べれる物を持ってきた。どうせ何も与えられていないのだろう?」


 差し出されたのはレーズンパンだった。


「あ、ありがとうございます。お腹が空いていたんですよね」

「後2つあるぞ」


 更に伸ばされる腕。

 改めて見て、真っ白な腕だなぁ。


「どうした? もういいのか?」

「あ、いえ。綺麗な腕に見とれてました」


 ブルッと腕が震える。また照れたのかな?


「な、なんか、今日のコナタ殿は変だぞっ!」


 俺は苦笑で返すしか無かった。



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