奴隷
地下に案内される。
牢屋と呼ぶべき部屋がいくつもあり、その中に何人か人がいた。
「明日の昼までここで過ごすんだ」
「へぇ。最高ですね」
ドンっと突き飛ばされ牢屋に入れられる。牢屋内の大まかな見取りは鉄格子の窓があるだけだ。
監視兵が鍵を閉めて俺の視界から消える。
「さて、状況を把握しますかね」
全身の傷を気にしつつ、牢屋の格子に近付いて辺りを伺う。監視兵は、入り口付近に1人座っているだけだ。
部屋は入り口を真ん中にあり、その両脇に五列、一つずつ牢屋が配置されている。
「青の魔導書……は取り上げられてますね」
『この世を司る万物の四精霊に命ずる。火の力を借りて、淡き炎を灯せ』
「フレイライト」
手のひらに光を灯す四精霊を唱えたが、何も効果は無い。
「『聖域』が展開されてますね」
『聖域』は魔法の使用が出来なくなる場所を指す。
聖域が発生するパターンは2つあり、一つは自然に出来る。
もう一つは、人為的に起こす。しかひ、少なくとも『虹の七色』を唱えられる者が魔法を強化する詠唱法、『魔法合唱』をしなければならない為、コストが高くつく。
それに自然から引き起こされた場所は半永久的に効果を発揮するが、人為的だと定期的に掛け直さなければならない。
「するとつまり、この中に魔法を使用出来る者がいるということですね」
今の場所は入り口から数えて四番目の右側。見える範囲は、左側の三、四、五番目の部屋だ。
通された時に確認したが、右側の一番目と、右側の四番目、向かいの五番目に人がいる。
右側の一番目は、二十代くらいの青髪の裸の女だった。全身に殴られた跡のような青い痣があったし、目は虚ろだった。
右側の四番目は毛布をすっぽり被っていて性別が判定出来ない。
左側の五番目には、鎖に繋がれた幼い少女がいた。尻尾の影が揺れているから亜人かもしれない。
窓から見える空は真っ暗だった。恐らく真夜中に近いだろう。
試しに隣の壁をノックする。
すると、向こうもそれに気付いたのか、控えめにノックが返ってくる。
俺は牢屋の隅へ移動する為、移動しながら等間隔でノックを繰り返す。意図に気付いたのか、向こうも俺のノックをなぞるように返してくる。
理解が早くて助かる。
「もし」
壁を通した俺にギリギリ届くかぐらいのか弱い声で話しかけられる。
「こんばんわ。初めまして。此方と言います」
「こちらこそ。あの、どうかされましたか?」
「いえ、ただ隣の方との意思疎通を試してみただけです」
「そ、そうなんですか」
声の高さからして女だろう。日本にいた頃は男なのに女の声が出せる人や、女なのに男の声が出せる人がネットで活動していたが、あのレベルが日常にいるはずがない。
……か、確認は大事だよねっ!
「えっと、女性ですよね?」
「え。えぇ、はい」
これで男性だったら、オカマか。
その時は一発殴ってやろう。
「その、一体どんな罪状なんですか?」
控えめに聞いてきた。
「あ、その。すみません。こんな場所にいると、これぐらいしか話題が思いつかなくて。ごめんなさい。失礼でしたよね……」
勝手に落ち込まれた。
「ただの窃盗容疑ですよ。明日の昼の処刑だそうです。断頭台かな〜って考えてます」
「しょ、処刑!?」
隣が大声をあげたので、監視兵が気付くかと思ったが、居眠りをしていたらしく、一瞬目を覚ましたが、直ぐに目を閉じた。
「すいません……」
「いえ。以後気をつけて頂ければ」
「しかし、良く盗もうと考えましたね。この町の人なら誰でも知ってるはず……ううん、この町の人じゃないのかな?」
「ええ。そもそも冤罪ですがね」
「あ、すすすすみません! 私、本当にしたのかと思ってました」
「たまたま盗まれた剣と同じ剣を僕が所持していただけです。まぁ、間違えられても不思議は無いですが対応があんまりでしたね」
「その……、良く明日には死ぬのにそんな軽く話せますね」
「……」
「あ! わ、ごめんなさい!」
なんか謝られた。
「いえ。一様逃げる方法は頭の中で考えているんですが、どれも上手くいきそうにないんです」
「そ、そうなんですか」
「ええ」
「あの。お手伝い出来る事があれば何でも言ってください。出来る範囲ならなんでもしますから」
「ええ。その時がくれば、是非手伝わせて頂きます」
「貴方のお名前は?」
「私ですか? 『リーサ』と呼ばれています」
「リーサさん、ですか」
「どこかの貴族と奴隷の間に出来た奴隷です」
性奴隷か。
「私の存在が都合の悪いものらしく、生まれて直ぐに売られました。何度も何度も飼い主を変えて、半年程前にここに来ました」
「いえ。辛いのなら止めましょう?」
「あ、すみません。そうでした、こんなの気持ち悪いだけでしたね」
また落ち込まれた。
「その、この牢屋の状況を教えてくれませんか?」
「いいですよ。私もしぶとく生きていますからね。少し前までは二人いたんですが、既に死にました。一人は恐らく飢餓で。もう一人は壊れました」
「……」
「一番初めにいた人は、今のご主人様のお気に入りです。毎日夜の相手をさせられています。二週間くらい前は看守の隙を見て会話はしたんですが、最近は呼び掛けても反応が無いです」
「向かいの亜人は?」
「あ、亜人さんだったんですか。私からは見えませんでした。確か、彼女は二ヶ月程前に来たんですが、凄く反抗心が凄いです。尊敬しちゃいます」
なるほど。粗方把握し終えた。
さて、この砦をどうやって攻略しようか?