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これでも勇者ですが、何か?  作者: 『螺旋 螺子』
彼が勇者ですか? 「本当なのか、ただただ怪しいな(ファーリ談)」
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冤罪

 馬車で東に走り続ける事、三日。

 白い壁が徐々に大きくなり始め、とうとうたどり着いた。日は暮れかけており、早めに宿屋で暖を取りたい所だ。

 路銀も村長から貰ってるし。


「ん?」


 普段は商人の馬車が走っててもおかしくないはずなのに、誰もいない。


「珍しい。何かあったんでしょうかね」

「まぁ、関係の無い事だ。さっさと目的の物を手に入れて帰ろう」


 門に近付くと、衛兵と商人らしき人が話していた。


「貴族様も……」

「……ですね」

「すみません」


 話に割って入り、通行許可を貰おうとする。


「悪いが、今この町の出入りは禁止されているんだ」

「どうしてです?」

「もぅ、どうしたもこうしたもないよ! 我々は商売が出来やしない!」

「実はこのローサムの町に住む貴族様の館に盗賊が入られてな。その盗賊を逃すまい……と……」

「何が盗まれたんです?」


 すると、衛兵が俺の肩を掴み、俺の腰を見ながら笑顔で言った。


「『竜殺し(ドラゴンキラー)』」







「え、ちょっと待って!? 痛い。痛いのですが!」


 衛兵に手早く捕縛され、ロープで縛られている。漫画みたいにぐるぐる巻きにされた。

 無駄にでかい館に入り、無駄に広い廊下を抜けた先に、無駄に装飾された部屋に入る。そのまま真っ赤な豪華そうな絨毯に転がされた。

 俺だけで通行許可を求めに行ったので、クレアは俺と同列に見られなかったのがせめてもの救いか。


「貴様か! 我が宝剣を盗み出した輩は!」


 これまた豪華そうな服を着た豚が二足歩行で歩いてきた。


 ……二足歩行、だと!?


「あ、人間か……」

「なんだ?」

「なんでもないです」

「なんでもないです、だと!!」


 近寄るな。顔を近付けんな。キモイんだよ、臭いんだよ!


「貴様、ワシの屋敷からドラゴンキラーを盗み出しぬけぬけとこの街に現れおって」

「いや、僕が犯人なら街に戻ってくる訳ないでしょう。どれだけバカなんですか」

「バカなんだろう?」

「……」

「貴様の事だよッ!!」


 なんだ、そのバカな面を見ようと思って俺の後ろを見たのに、俺の事を言っていたのか。

 違うがな。


 胸ぐらを掴まれて顔を近付けられる。


「良いぞ良いぞ、その表情! これからを考えて恐怖に打ち振るえろ!」


 テメェの顔を近付けられたくないんだよ!


「処刑は明日の昼に行う。明日の朝に警戒態勢を解くと伝えよ!」

「「「ハッ!」」」


 周囲に控えていた衛兵に伝えて、部屋から退出する。


 ローサムの通行に規制がかかっていたのはこの豚の屋敷から『ドラゴンキラー』が盗み出されたからか。

 『警戒態勢を敷く』。言うだけなら簡単だが、実際には町の至る所にある出入り口を閉鎖し、人員を割いて監視しなければならない。

 領主の権限を持たないただの貴族にこれだけの事は普通は出来無い。

 これだけの事が出来るということは、それなりの財を成し、人脈を得ている場合だろう。


 しかし、目の前の豚にそれが出来る気がしない。し、出来ると信じたくも無い。

 確か前回に来た時に町人が『ここの貴族様は……』と呟いていたのを耳にしたな。

 恐らく卑怯な事をして、周りを黙らせている線が強いな。


「そのドラゴンキラーは僕のですよ?」

「ここまできて、嘘を付くか。誰が信じるかっ!」


 ですよねー。


「貴様の素性を聞こうか。どこの盗賊なんだ、ん?」

「……」

「言えないのか?」

「……」

「どうなんだ!」

「……」

「まぁ、良い。どうせ明日の昼が近付けば嫌でも口を割りたくなるわ」


 処刑ね。断頭台にのせられるのか?


「知りたいなら、そちらからどうぞ?」


 笑顔を浮かべてそう言ってやる。

 すると豚は青筋を立てて、近くの鞭を手に取る。


「貴様はまだ自分の立場が分かってないようだな!」

「豚に襲われそうなか弱い少年?」

「貴様ぁぁぁ!!」

「――ッ!?」


 バチンッ、と体に鞭が打たれる。


「どうだ? 話す気になったか?」


 ニヤニヤした顔をして、寝転がる俺の頭を踏みつけ上から見下ろす。

 バチンッバチンッと二度、三度打たれる。


「豚が嫌いになりそ――ッ!?」

「こい、つ!?」








 それから暫く叩かれ続けた。


「はぁ。はぁ。どうだ? 口の聞き方を思い出したか?」

「ぶ、豚が、息を、荒げて、る、姿は、実、に、滑稽、です、ね」

「――ッ!!!」


 更に鞭が振るわれる。

 滅茶苦茶痛くて、絶叫する。


『この世を司る万物の四精霊に命ずる。水の力を借りて、地面を這うやからに冷水を浴びせよ』

「コールドシャワー」


 バシャッと冷水が全身に掛かる。


「どうだ? いい加減覚えたか?」

「貴方に言っておきたい事が一つある」


 ギンッと睨むと、若干驚いたのか、豚は目を見開く。


「もし僕が冤罪だった場合は生まれてきた事を後悔させて差し上げます!」



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