それからの進展
「わーい」「竜さーん」「……」ニコニコ
ニードラゴンが、子供達――ムラウ、ユリア、ルータ――と戯れている姿を見ながら俺は……寝転がっていた。
ベンディクト王の入国禁止令が出てから一月が経った。
首都内への進入が認められなくなったので、行き先に困っていたのだが、リベリルドの村長が俺たちの面倒を見ていいと言ってくれたので、現在はリベリルドを拠点に活動している。
ここで俺が寝転がってていいと世界は思うだろうか。いや、思うだろうな。
なぜならこの世界には『勇者』を名乗る人物が腐るほどいるからだ。
男? 女? 亜人?
剣士? 魔法使い? 盗賊?
色んな奴が『勇者』を名乗り、色んな奴が世界の平和の為に働いている。
国王によって『勇者』に担ぎ上げられた俺一人が世界の平和の仕事をさぼった所で、誰も困らない。
「だから僕はこの日陰で昼寝をしつつ、あの四人を監視していればいいのです」
「いいわけがないだろう!」
後頭部を叩かれる。
「あ、クレア」
「く、クレアさん! お疲れ様っす!!」
「わー、クレア姉ちゃん!」「クレアさん!」「……」ブンブン
みんな、クレアの登場に気がついたのか、クレアのもとに走り寄る。
ニードラゴンを除いては。
「いい加減、出てきたらどうだ?」
「いや、もう滅相も無いっす! 出たいんですけど、勇気が出ないといいますか」
マジへたれだな。
「ほぅ、ならば力づくで引っ張り出してやろう!」
「いえ、ここは自分の力で行くのが――ってギャァァァァァァァァァ……」
おおよそドラゴンが本当に出すのか疑問な悲鳴を上げて、洞窟に飛び込んだクレアから距離を取るため洞窟の奥へと消えていった。
「あ、逃げた。捕まえるぞ!」「待ってー。竜さーん」「……」コクコク
それを追いかける三人。
はぁ。
「平和だなぁ」
「なら絶望で塗り固めてやろうか?」
洞窟の中でニードラゴンの声がした。
一ヶ月前にこのへたれと死闘を繰り広げたのかマジで疑問に思う。
「ニードラゴン。さっき洞窟の中に入ったのでは?」
「あぁ、こんなこともあろうかとな。洞窟に色んな穴を掘っておいた。奴らも迷っている事だろう」
マメな事で。
ってそこまで嫌か!?
「それに、我の名前はファフニール=ミネルヴァ。覚えられるならその身に刻んでくれようぞ」
「クレアー! ここにいるよー!」
洞窟の中で、むっ!?って声がした。
「な!? 若造め! 卑怯だぞ!?」
ドタドタと再び洞窟の奥へと消えていき、ニードラゴンの絶叫が響いた。
その声を聞きながら、ニヤニヤしていると、
「呑気なものですね」
と背後から声がかけられた。
「オディロンでしたか。工事は順調に進んでいますか?」
「ええ。後1km程度です」
リベリルドとこの洞窟は5km離れており、この洞窟を抜けた先に『野原』と呼ばれる薬草などの薬に使えそうな草が生い茂る場所がある。
道中、森があるのでモンスターに襲われる危険性があるため、半月程前からリベリルドと洞窟を直線で繋ぐ道路を整備しているところだ。
「近隣のモンスターの討伐をお願いしたはずでしたが?」
「もう終わっています。バラしてませんが、そこに積み上げてますよ」
死体が積み上げられた山を指す。
俺たちの仕事は、近隣のモンスターの討伐を依頼されているのだ。素材は町の復興資産になるらしい。
日のノルマは50匹だが、毎度毎度100匹を軽々と討伐しているので、村長に喜ばれているのだ。
「分かりました。いつものように荷車を手配させます」
チラリとオディロンの視線が揺れた。その先を見ると、ニードラゴンが洞窟の壁にしがみつき必死に首を横に振っている。それをクレア+子供達が引きはがそうとしている場面であった。
……なにしてんだ、あいつら。
「良く気軽に触れますね。ドラゴンだと言うのに」
あいつをドラゴンと分別するのはいささか本家のドラゴンに失礼な気がするが。
「まだ憎むか?」
「当然です。親が殺されたんですから」
忌々しそうな目で睨み付ける。
「まぁ、時間が必要だろうな」
「そんなもので癒えるとは思えませんけど」
そういって、胸から皮袋を出す。
「まだ商業用の馬車が来てないです。まぁ、竜が大人しくなったと直ぐに信じてリベリルドまで来てくれる商人の方が珍しいかもしれませんが」
「お遣いですか。今回、馬車の方は?」
「前回はすみませんでした、と村長が言っていました。今回は用意しているそうです」
前回は、あれだけの荷物を抱えて持って帰ったからな。
村長を一発殴ってやろうかと思ったぐらいだ。
「わかりました」
金貨の詰まった皮袋を受けて取り、買い物メモを確認する。
行き先はローサムだった。