外道の如く
「失礼を承知でお聞きする。戦闘経験は?」
「勿論、皆無です」
笑顔で答えたが、どうやら不満そうな表情だ。ここは正直に答えるべきではなかったか。
とにかく、あの学園と同じ事をしよう。
「逆に、クレアさんは戦闘経験があるんですか?」
「あぁ。勿論だ」
「なら相当お強いんですね」
「まぁな」
「いいなぁ。僕もそんなに強かったらなぁ」
羨望の眼差しを送る。するとクレアは少しムッとした顔をした。
失言だったか?
「それに顔も整ってますし」
「……」
「美人じゃないですか」
「……」
「良いところばかりじゃないで――」
「私を女扱いするな!」
クレアの激昂に少なからず動揺する。
「す、すいません」
「以後、気をつけてくれ」
完全に不機嫌になった。
どうしたものか。
「クレアさ――」
「クレアでいい」
「ではクレア。今後について話し合いたいのですが
」
そう言うと、少なからず興味を示したようだ。
「確かにお金は受け取っていない。だから溜める必要がある」
「だからそれは謝りに行けば――」
「それは出来ない」
きっぱりと拒否。まぁ、割りに合わないからな。
「……私は勇者殿の剣だ。勇者殿がそれを望むのなら、それに従おう」
「ごめんね」
「別にいい」
本当に、俺のわがままに付き合わせて申し訳ない。
「後、クレアに言わなければならないことがある」
「なんだ」
「クレアの存在についてです」
「存在?」
先程の会話から推測した話をしなければならない。それがクレアのためになる。
「クレアを解雇します」
「え!?」
そりゃ、理由もなく言われればそうなるわな。
目を白くさせて、体の力が抜けたのか、両手を地面につける。
「平民出の戦士では、やはりダメなのか?」
自分を戒めるような言い方。
それに、『やはり』……だと?
心に留めておこう。それより誤解の解消が先だ。
「そうじゃないんです」
「……?」
見上げたクレアの目には、少しばかり活気が戻った。
目の色を直ぐに変えるな。やっぱり思い込みが激しい人っぽい。
「クレア。今、自分の立場を理解していますか?」
「あ、ああ。勇者の剣だ」
ダメだ、この人。ちょっと根本がずれている。
「勇者の仲間……ですよね?」
「……そうとも言う」
なんだ、今の間は。そして、少し不機嫌になってないか? それに『そうとも言う』って。それ以外の言い方があるのか!?
あ、この人的には『勇者の剣』なんだろうなぁ。
「つまり前の身分ではないわけです」
「あぁ。それはその通りだが」
「前の身分は分かりますよね?」
ここで、『王族の剣』とか言ったら、日本の精神科に連れて行く必要があるな。いや、『勇者の剣』の時点でアウトか?
「王家近衛隊の隊員だ」
なぜこんな事を聞くのか分からないといった表情で渋々答える。なのに、どこか自慢げだ。
「つまり、クレアは現在王家の近衛隊ではない訳です」
「あぁ。それがどうした?」
「えっと。あくまで僕の憶測に過ぎませんが、聞いて頂けますか?」
「もったいぶるな。早く言ってくれ」
「つまりです」
――近衛隊から追い出されたのではないかと。
「は?」
「文字通りです。そもそも僕自身の身分なんて、あってないようなものなんです」
「え、なぜ?」
「それは今回の件については低接触なのでお話しません」
この言葉以上の衝撃を受けさせないために、喋るわけにはいかない。
「この世界は現在、男女比率が大きく偏っています。ですが、未だ男が権力を保持しているのは今も昔も変わっていません」
「……」
開いた口が塞がらないって顔をしているな。
「聞いた所によりますと、クレアは平民から出世したそうですね。それが内部の人間にとって、不愉快だったのかもしれません」
「な、どうしてそう言える!?」
「貴方が女であり、元平民であり、――」
「もういい!!」
俺の言葉を大声で遮った。これ以上はもう聞きたくないと。
「あくまでこれは僕の憶測であり――」
「いいよ。もう……」
クレアは力なく呟いた。
「思い当たる節はいくらでもある。普段は私を蔑む騎士団が、私が勇者の供をすると宣告された時に、心から祝福してくれたからな……」
フラグたち過ぎだろう。
「そうか。私は国に捨てられたか」
「言い方を変えればそうなります。ですが、これを機に何か別のことを始めるのも手かと」
「……」
「どうでしょうか?」
ここでいくら慰めの言葉を掛けても効果は薄い。あくまで俺の憶測だったが、クレアの中で確信に変わりつつある。それを慰めたところで何もならない。
むしろ別の道を見せて希望を与える方が、効果的だろう。そもそも、そのために辛い事情を聞いてもらったんだし。
「……決めた」
「決断早いですね」
「私はやはり勇者の剣だ。幼き頃から夢見てたのが現実になったのだ。これを逃す手は無い」
「正直、僕に付いて行く意味は無いと言えます」
「どうしてだ?」
「お答え出来ません」
若干怪しむ目線で見てきたが、笑顔で受け流す。
「どちらにせよ、私は勇者の剣だ。下げられた剣の意味は、主に付き従うだけだ」
「……そうですか」
クレアの意思は固そうだ。それに勇者の剣のどうこうは、一緒に旅をしながら検討していくことにしよう。
「あぁ。私も吹っ切れたよ。後腐れ無く国を出られるのだからな」
「言いにくいですが、しばらくあの城下町を拠点にするつもりですが」
「……」
この人。
……面白いな。
2013/9/8 題名を変更