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これでも勇者ですが、何か?  作者: 『螺旋 螺子』
彼が勇者ですか? 「本人曰く、そうらしい」(クレア談)
3/66

外道の如く

「失礼を承知でお聞きする。戦闘経験は?」

「勿論、皆無です」


 笑顔で答えたが、どうやら不満そうな表情だ。ここは正直に答えるべきではなかったか。

 とにかく、あの学園と同じ事をしよう。


「逆に、クレアさんは戦闘経験があるんですか?」

「あぁ。勿論だ」

「なら相当お強いんですね」

「まぁな」

「いいなぁ。僕もそんなに強かったらなぁ」


 羨望の眼差しを送る。するとクレアは少しムッとした顔をした。

 失言だったか?


「それに顔も整ってますし」

「……」

「美人じゃないですか」

「……」

「良いところばかりじゃないで――」

「私を女扱いするな!」


 クレアの激昂に少なからず動揺する。


「す、すいません」

「以後、気をつけてくれ」


 完全に不機嫌になった。

 どうしたものか。


「クレアさ――」

「クレアでいい」

「ではクレア。今後について話し合いたいのですが


 そう言うと、少なからず興味を示したようだ。


「確かにお金は受け取っていない。だから溜める必要がある」

「だからそれは謝りに行けば――」

「それは出来ない」


 きっぱりと拒否。まぁ、割りに合わないからな。


「……私は勇者殿の剣だ。勇者殿がそれを望むのなら、それに従おう」

「ごめんね」

「別にいい」


 本当に、俺のわがままに付き合わせて申し訳ない。


「後、クレアに言わなければならないことがある」

「なんだ」

「クレアの存在についてです」

「存在?」


 先程の会話から推測した話をしなければならない。それがクレアのためになる。


「クレアを解雇します」

「え!?」


 そりゃ、理由もなく言われればそうなるわな。

 目を白くさせて、体の力が抜けたのか、両手を地面につける。


「平民出の戦士では、やはりダメなのか?」


 自分を戒めるような言い方。

 それに、『やはり』……だと?

 心に留めておこう。それより誤解の解消が先だ。


 

「そうじゃないんです」

「……?」


 見上げたクレアの目には、少しばかり活気が戻った。

 目の色を直ぐに変えるな。やっぱり思い込みが激しい人っぽい。


「クレア。今、自分の立場を理解していますか?」

「あ、ああ。勇者の剣だ」


 ダメだ、この人。ちょっと根本がずれている。


「勇者の仲間……ですよね?」

「……そうとも言う」


 なんだ、今の間は。そして、少し不機嫌になってないか? それに『そうとも言う』って。それ以外の言い方があるのか!?

 あ、この人的には『勇者の剣』なんだろうなぁ。


「つまり前の身分ではないわけです」

「あぁ。それはその通りだが」

「前の身分は分かりますよね?」


 ここで、『王族の剣』とか言ったら、日本の精神科に連れて行く必要があるな。いや、『勇者の剣』の時点でアウトか?


「王家近衛隊の隊員だ」


 なぜこんな事を聞くのか分からないといった表情で渋々答える。なのに、どこか自慢げだ。


「つまり、クレアは現在王家の近衛隊ではない訳です」

「あぁ。それがどうした?」

「えっと。あくまで僕の憶測に過ぎませんが、聞いて頂けますか?」

「もったいぶるな。早く言ってくれ」

「つまりです」



――近衛隊から追い出されたのではないかと。



「は?」

「文字通りです。そもそも僕自身の身分なんて、あってないようなものなんです」

「え、なぜ?」

「それは今回の件については低接触なのでお話しません」


 この言葉以上の衝撃を受けさせないために、喋るわけにはいかない。


「この世界は現在、男女比率が大きく偏っています。ですが、未だ男が権力を保持しているのは今も昔も変わっていません」

「……」


 開いた口が塞がらないって顔をしているな。


「聞いた所によりますと、クレアは平民から出世したそうですね。それが内部の人間にとって、不愉快だったのかもしれません」

「な、どうしてそう言える!?」

「貴方が女であり、元平民であり、――」

「もういい!!」


 俺の言葉を大声で遮った。これ以上はもう聞きたくないと。


「あくまでこれは僕の憶測であり――」

「いいよ。もう……」


 クレアは力なく呟いた。


「思い当たる節はいくらでもある。普段は私を蔑む騎士団が、私が勇者の供をすると宣告された時に、心から祝福してくれたからな……」


 フラグたち過ぎだろう。


「そうか。私は国に捨てられたか」

「言い方を変えればそうなります。ですが、これを機に何か別のことを始めるのも手かと」

「……」

「どうでしょうか?」


 ここでいくら慰めの言葉を掛けても効果は薄い。あくまで俺の憶測だったが、クレアの中で確信に変わりつつある。それを慰めたところで何もならない。

 むしろ別の道を見せて希望を与える方が、効果的だろう。そもそも、そのために辛い事情を聞いてもらったんだし。


「……決めた」

「決断早いですね」

「私はやはり勇者の剣だ。幼き頃から夢見てたのが現実になったのだ。これを逃す手は無い」

「正直、僕に付いて行く意味は無いと言えます」

「どうしてだ?」

「お答え出来ません」


 若干怪しむ目線で見てきたが、笑顔で受け流す。


「どちらにせよ、私は勇者の剣だ。下げられた剣の意味は、主に付き従うだけだ」

「……そうですか」


 クレアの意思は固そうだ。それに勇者の剣のどうこうは、一緒に旅をしながら検討していくことにしよう。


「あぁ。私も吹っ切れたよ。後腐れ無く国を出られるのだからな」

「言いにくいですが、しばらくあの城下町を拠点にするつもりですが」

「……」


 この人。

 ……面白いな。



2013/9/8 題名を変更

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