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これでも勇者ですが、何か?  作者: 『螺旋 螺子』
彼が勇者ですか? 「本人曰く、そうらしい」(クレア談)
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解決

「いい加減にしろ! 出て来いッ!」

「い、嫌だ!」


 あれから数十分、同じ言い争いを続けている。


「クレア。ニードラゴン。少し提案を聞いて頂けないでしょうか」

「む!」

「若造、待ちやがれ! 我の名前はファフニール――」

「ニードラゴン。貴方をここに住む事を認めましょう」

「スルーですかぃ!?」

「だがコナタ殿。我々は討伐の命を受けてここに立っているのだぞ。多少情が沸いたにせよ、どこかの場所へ移動して貰わないと解決にはならないじゃないか?」

「あの、我の名前はファフ――」

「いえ。クレアが来た時にニードラゴンは岩に保護色が出来ました。そうすれば村人達を誤魔化せるかもしれません」

「我の名前――」

「それに、恐らくニードラゴンは自分の身を守るために冒険者を殺していったのでしょう。そうですよね?」

「……」

「え。ニードラゴン!? どうして地面に『の』を書いて泣いているんですか!?」


 黄色い巨体を小さく沈め、地面に『の』を書いてるドラゴンの姿は、ある意味圧倒的だった。


「そ、その通りだ。我を無視する者は我も無視している」


 若干涙声で答える。


「村の者には関わらないように。また寝ている邪魔をしないようにすれば、実害は全く無いと報告すればいいでしょう」

「成る程な。とりあえず、その案で動いてみるか」


 洞窟の入り口に向かってクレアが歩き出す。俺もそれに続く。


「いってらっしゃい……」


 未だに涙声のニードラゴンが見送ってくれた。






「勇者様! クレア様! 良くぞご無事で!」


 村長のアデライデ=カイアーノといつか見た衛兵が門の前で待っていた。


「生きて返る事が出来るという事は、つまり!」


 衛兵がやや興奮気味に言うが、


「申し訳ないです」


 期待はずれの返答をしてしまった。


「そう、ですか。いえ、勇者様のお命があっただけでもありがたきこと」

「ですがただ負けてきた訳ではありません。村長さん、少々混み入ったお話が」

「負けたのはコナタ殿だけだろう」

「うん、クレア。ちょっと黙ろうか!」

「して、話とは?」


 俺は、ニードラゴンは無害な人物であること。敵意を見せなければ襲われる心配はないということ。基本寝ているので無視して通行することなdを話した。

 ニードラゴンの由来に関しては、ひとまず黙っておいた。


「……信用できませんか?」

「い、いえ。決してそのような事では……」


 話を聞いていた村長の顔が、徐々に疑うような表情になったので、先手を打った。


「では、村長さんもご一緒にご足労頂けませんか? その目で確かめればおのずと答えは出ましょう」

「そ、そうですね。もしものときは勇者様がいらっしゃいますし」

「あー! 俺も行くぞ!」「私もいっしょにつれて行って下さい」「……」コクコク

「……」


 三人の子供と、複雑な顔のオディロンが話の輪に加わる。


「本当なんですか? その話。父を殺した竜に、妥協しろと?」

「その言い方はずるいですね、オディロンさん。貴方は死んでしまった人の為に、生きた人を殺せと言うのですか?」

「……その言い回しの方がずるい気がしますよ……」

「勿論全員オッケーですよ。これぐらいの人数なら道中のモンスターに出会っても問題なく守れます。ね?」


 ウインクと共にクレアの方を向いた。

 あ、そっぽ向かれた。


「それでは皆さん。ご準備はよろしいですか?」












「ここが竜の住む洞窟ですか」


 洞窟の前の茂みから様子を伺う村長と子供三人+オディロン。


「そうですね。あの洞窟の中に眠っています」

「あの黄色くて大きな物ですか?」

「ええ。その通りです」


 大きな首が持ち上がる。コチラを見ているようだ。茂みから出ようとした時、目の前を横切った影が――


「オディロン!?」

「父の仇!」


 剣を構えて、ニードラゴンに飛び掛る。ニードラゴンは口を膨らまし始めた。

 あのままだと普通に死ぬな。


「ニードラゴン、何もするな!」


 その声に視線を俺に向けたニードラゴンは膨らました口を徐々に萎めていった。

 口から漏れる黒い煙は、溜めた炎が鎮火したからか?


「はっ! やぁ!」


 キンキンッと剣を振るうが、竜の鱗に阻まれて傷一つ付かないようだ。


「フハハハハハ。そんな攻撃痛くもかゆくも無いわ! 攻撃とはこうするの――どうもっ! こ、こんちわっっっ!」


 意地悪な目から突然、オドオドした目になる。恐らく、視界の中にクレアが映ったのだろう。


「あぁ、悪いな。そいつはオディロンって言うんだ」

「へ、へぇ。オディロンさんなんですか――って、確かケヴィンの息子か」

「やはり父を!」


 再び攻撃を再開するが、ニードラゴンはお構い無しにクレアから距離をとろうとする。


「私が村長のアデライデ=カイアーノと申します」

「我がこの洞窟の主。ファ――」

「ニードラゴンです」


 涙目で睨まれた。


「我々人間にとって、この洞窟の先にある野原は薬草などが豊富に取れ、村を支えるための貴重な財源なのです。お願いです、村人達の通行を許して貰えないでしょうか」

「カイアーノさん! コイツは僕の父を――いや、父だけじゃない。沢山の人間を殺してきた――」

「オディロン! 貴方が父を失った恨みは分かります。ですが――」

「なら、なお更、こんな竜に頭を下げる必要は――」


 バシンッとオディロンの頬を村長が打つ。


「いい加減にしなさい! オディロンだって、自分の身に危険が迫れば、対応するでしょう! 彼もそれをしたまでです!」

「奴は魔物ですよ!?」

「『魔物』ですって!? 貴方はそれだけで差別するのですか? そこらの知性の無い本能のままに生きるモンスターと違って、自分の意志を貫き、自分の想いで行動する。姿が違えど、心は我々となんら変わりがないではないですか!」

「――ッ!!」

「そのように育てた覚えはありません。もし村の――村長である私の言葉を受け入れられないのならば、私の家から出て行きなさい!」


 オディロンは剣を堅く握り締めて、無言で洞窟から出て行った。

 一人にして大丈夫か?


「勇者様、追わなくて結構です。ニードラゴン様。ご無礼の程、お許し下さい」

「え。や、うん。まぁ……」

「な、何かご不満があれば、なんなりとお申し付け下さいませ」

「えっと。いや、まぁ。なんにもないです……」


 チラチラこちらを確認していたな。

 多分、村長に『ニードラゴン』と認識されたのがショックだったんだろう。


「本当ですか!? 洞窟の使用の件につきましては……」

「ま、まぁ。構わんよ。眠る邪魔だけしなければ」


 なんだこの、眠る邪魔しなければ、部屋の片付けしても良い的な妥協案は。

 根本的にニートなのな。


「ありがとうございます」


 村長が深々と礼をする。


「早速村の者に伝えて参ります!」

「あれ、子供達は?」

「わー、すっげー」「少し怖いですね」「……」ペタペタ

「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」


 今まで気付かなかったのか、隣にいた子供にびびるドラゴン。

 そのまま奥へと飛び去っていった。






 凄い間抜けだな……。



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