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これでも勇者ですが、何か?  作者: 『螺旋 螺子』
彼が勇者ですか? 「本人曰く、そうらしい」(クレア談)
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破魔竜・ファフニール

「ここが例の洞窟ですか」


 肩を揺らして呼吸を整える。


「今頃はクレアにかけた魔法も解けた頃でしょうか」


 頭の中で再生されるのは、涙を目に溜めたクレアの姿だった。


「やれやれ。アリジリーナの宿でもう泣かせないようにすると心に決めたはずだったのですが、どうにも僕は最低な人間のようだ」


 自虐気味に笑う。


「ともあれ、例のファフニールを討伐しますか。生きて返る事が出来たなら――!」


 一体何を考えているんだ。

 もう会わないと心に誓って決闘を受けたのではないか。


「やれやれ。僕は本当に駄目な人間のようだ」


 鞘からドラゴンキラーを引き抜くと、木から出て一歩一歩、洞窟へ近付く。

 かなり奥に入った所で、お目当ての竜が見つかった。体は大型車ぐらいだろう。黄色い体を寝そべらせている。


「ん?」


 どうやらタイミングが良かったらしく、睡眠中だった。

 あの男の話を全て信じる訳にはいかないが、これはチャンスとみていいだろう。


「至近距離に近付いてこの剣(ドラゴンキラー)を突き刺すのもありですが、リスクは高いですね」


 ならば、遠距離からの魔法に限るだろう。

 懐から青色の魔導書を取り出す。


青の魔導書を参照(青キ弾丸ヲ)我が身に力を(我ガ右ノ人差シ指ニ)


 唱えたのは魔導書参照。ただし、詠唱を短くするために独自に開発した『詠唱省略魔法』を使ったものだ。

 魔法が苦手な俺でも『詠唱数が減らせる』事によりある程度は克服している。

 まぁ、長くなれば無理なんだけど。


 右の人差し指に集約された青色の水の玉。

 右手を銃のような形にして、引き金を引いたような仕草をした。


ブルーボールⅥ(水ノ弾丸ヲ発ッセヨ)


 直後ドキュンッ、と音がした。

 そのまま水の弾丸(ブルーボール)はファフニールに直進し、皮膚に当たって弾けとんだ。


「なっ!?」


 寝ていたファフニールの首が持ち上がり、コチラを見て目を細める。

 奇襲は失敗したようだ。撃った弾丸は、何かによって打ち消されたようだ。


「我が名はファフニール=ミネルヴァ。奇襲とは卑怯だな、冒険者よ」

「自己紹介をどうもです。僕は天羽 此方。こう見えても勇者ですよ」


 口からボワァと炎が漏れた。どうやら笑っているらしい。


「貴様が勇者とな! そうだな、最近は『自称』勇者が沢山いて困るな」

「そこらの『自称』と一緒にしないで下さい。僕は少なくともファフニールには負けはしない」

「口だけは達者だな、若造よ」

「年寄りわさっさと召されて下さい」


 再び口からボワァと炎が漏れた。今度はキレたらしい。


「いいだろう。そこまで言うならそれ相応の死に様を覚悟しろ」

「貴方こそ。内臓を抉り出して、今夜の晩飯にさせて頂きますよ」

「ほざけッ!」


 ボワァァァァァ、と火炎ブレスを吐く。


この世を司る(世ヲ支配スル)万物の四精霊に命ずる(四精霊共ヨ)水の力を借りて(俺を守ル為二働ケ)我が身を守れ!(ウンディーネ!)

「ウォーターウォール」


 目の前に水の壁が作り出されて火炎ブレスを防ぐ。


「こざかしいわ!」


 しかし所詮は水の壁。炎は防げても、物体は防ぐ事が出来ない。

 水から突き出された鋭い爪が俺を襲う。しかしそう簡単に潰される訳にはいかない。


この世を司る(世ヲ支配スル)万物の四精霊に命ずる(四精霊共ヨ)水の力を借りて(邪魔ナ腕ヲ拘束シロ)縄を生み出し捕まえよ(ウンディーネ!)

「ウォーターバインド」


 水の壁の形状が変わり、ファフニールの腕に絡み付いていく。

 ドンドン締め付けを強くすれば、後は勝ったも同然だろ――


『破ァ!』


 バリンッ、とガラスが割れたような音がした。直後、ファフニールの腕を拘束していた水が、スルスルと地面に流れ落ちる。


「ちっ!?」


 直ぐに回避に移る。横に飛ぶ、その一瞬後に先程俺がいた場所に太い黄色の腕が地面にめり込んでいた。

 飛んでる間にも詠唱を続ける。



青の魔導書を参照(青キ弾丸ヲ)我が身に力を(我ガ右ノ人差シ指ニ)

「ウォーター――ッ!?」


 ファフニールの尻尾になぎ払われて、詠唱は最後まで続かなかった。

 ドンッと体を壁にぶつける。全身中に殴られたような痛みが走った。


「言っておくが我に魔法は効かんぞ。肩書きは破魔竜なのでな」

「それを、先に、言えって、んですよ……」


 痛みを懸命に堪えながら、余裕の笑みを張り付けて立ち上がる。


「冥土の土産くらいならやってやるぞ?」

「余裕、ですね!」


 ボワァと炎が漏れる。


「フハハハハハハ! 貴様は三年前に来た男と同じだな」

「誰、です?」

「そうだな。我が生きてきた中でも名前を覚える位の価値のある男だった。ケヴィンと言ったっけな」

「へぇ……」


 オディロンの父親じゃないか。


「あの手この手で攻めて来たからな。我もなかなか楽しめた。その健闘を称えて我は奴とある約束をした」

「なんです?」

「それは……冥土の土産だ!」


 ビュンッと風を凪ぐ音。鋭い爪を紙一重で避ける。


「ほぅ。アレを避けるか。なかなか肝の据わった男だな」

青の魔導書を参照(青キ弾丸ヲ)我が身に力を(我ガ右ノ人差シ指ニ)

「効かないと言ってるだろうに。そこは愚かなままだ」

ブルーボールⅥ(水ノ弾丸ヲ発ッセヨ)


 ドキュンッと発砲音が聞こえて、玉がファフニール目掛けて飛ぶ。


「物覚えの悪い奴だ!」


 水の弾丸を気にすることなく、俺に尻尾を振るう。

……上手くいかなかったら、死んだな。


 次の瞬間、絶叫が洞窟内を響かせた。



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