決闘
「この世界の為、この世の人の為、そしてこの町の皆の為に貴方を殺す。ここで決闘をしなさい!」
「いいでしょう。僕が勇者である事実を見せ付けてあげますよ」
コナタもドラゴンキラーを鞘から引き抜き、私に構えた。
「死ねぇぇぇぇ!」
咆哮を叫びながら、コナタに向かって上段から切り下ろす。
「物騒ですねぇ」
渾身を込めた一撃をドラゴンキラーによって防がれる。更に、後方に飛ぶことで、威力を抑えられてしまった。
「はぁ!」
今度は左下からの切り上げ。しかしそれも斜めに構えたドラゴンキラーに防がれる。
「うりゃぁぁぁぁ!」
今度は突き出し。しかしそれも見事なさばきによって、鍔迫り合いに持ち込まれる。
コナタの表情は変わらず、余裕の笑みを崩さない。
「貴様は初めから私を馬鹿にしていたんだろう!」
「なぜそう思うんです?」
「出会った時からそうだった。私に事実を突き付けて。それで、これからの未来を選べだと!? 身寄りの無い私に選択肢など決まっていた!」
「……」
「目上の者も馬鹿にしていた。どうせ私もそう言う目で見ていたんだろう!?」
「……」
「今だってそうだ! そちらから一切打ち込んで来ない。私など舐めるに等しい人間なんだろう!?」
「……」
「どうせ私は、はじめから……、不要な人間だったんだろう!?」
「――ッ!!」
ガギンッとコナタが弾かれる。
私は剣を構える。
「壱ノ式・紅蓮!」
今だ誰にも見せたことが無い奥義・桜花七式だ。これをかわせるはずがない。
ラビットソードに炎が宿る。怒りの、私の怒りの炎だ。
「おぉぉぉぉ!!!」
ギャラリーが湧き出した。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ビュンッと剣を薙ぐ。コナタはそれを……避けない!?
いや、いいんだ。問題無い。私は間違ってはいない。
――『さっきの収穫の一部です』『あ、助かる』
この薬草が無ければ、実は私は死んでいた。
――『レッドリザードが現れた。テレテテー。此方の攻撃! 鮮やかに皮を剥いだ! レッドリザードの皮を手に入れた! テテテテテー。此方の攻撃! ん。筋肉が硬くて、骨が取り出しにくいな……』
このコナタの姿を見て、私は笑ったんだっけ。
違う、私は一体何を考えているんだ!?
――『個人で自由に使って良いお金です。て言っても、こんな端金じゃ、ロクな物を買えないでしょうが』
このお金で、私は何を買おうと思ったんだっけ。
――『私は勇者の剣だ。幼き頃から夢見てたのが現実になったのだ』
私は、勇者様のお供をしたかったのだ。
今、私は何している?
「――ッ!!!」
勢い良く振るった剣を無理やり止める。
剣は……コナタの首元の数ミリ隣で停止した。
「よっと」
軽い掛け声と共に、コナタに剣が返され、そのまま地面に押し戻される。
そのまま首元に剣が来る。
殺される。そう悟った。
自分も殺す気で行ったのだ。それに見合う覚悟があるのだろう。
しかし、刃が首に届く事は無かった。
数センチ上で、停止していた。
「この勝負、僕の勝ちですね」
余裕を持った笑みで、笑われた。
剣を持っていない左手で、地面の砂を強く、強く、強く、血が出るほど握り締める。
「それでは皆さん。行きましょうか」
私の負けは、あの四人を死地へ赴かせる事になっていたのだ。それを自分の私情で止めてしまった。
「待――」
途端に、体の自由が利かなくなる。
……まさか。麻痺の呪文を!?
「お姉さん。銀の宿で預かるように、あの兄ちゃんから聞いてるぜ。負けた後で悔しいだろうが、我慢してくれ」
私は、コナタ見えなくなるまで四人の背中を押す姿を睨み続けた。