決別
「さて、これぐらいでよろしいですかね」
ファフニールは、確かドラゴン系統の魔物のはず。
ドラゴンキラーと、薬草をそれなりに(買わされたおかげで)手に入れている。みかわしの服のおかげか、体が軽く感じられるのでヒットアンドウェイ戦法が使えそうだ。
「私も問題無しだ」
ラビットソードを腰に下げたクレアもそう答えた。
「では、旅立つとしますか」
銀の宿の扉を開ける。その先に――一人の青年がいた。
「貴方は確か。村長さんの……」
「はい。オディロンと申します」
「どうかされたのか?」
クレアの言葉に、唇をギュッと噛み締めると地面に頭を擦り付けた。
「どうか! どうか僕も一緒に連れて行って下さい!」
額に砂を付けたオディロンが顔を上げて、
「父の! ケヴィンの仇をとりたいんです!」
「駄目だ」
ええ! 否定しちゃうの!?
「あれから三年間。僕は村長さんの手伝いをしながらも、合間を見て必死に剣術も勉強してきました。魔法もいくつか覚えました」
「それでも駄目だ。危険に晒すわけにはいかない!」
「どうしても駄目と言うならば、勝手に付いて行きます!」
このパターンは面倒だな。
「そもそもオディロンさんはどこから僕たちが今日旅立つっていう情報を得たんですか?」
すると視線を俺の左側に向けられる。
「コナタ! 俺たちを置いていくなんてひどいじゃないか!」
「コナタ様。私たちは、どこまでもお供します!」
「……」コクコク
三人の子供がいたよー!
「ずっと見張っていた所を偶然出会いまして、一緒にお願いしました」
「あ、そう……」
なんだか絶望的な気分になっちゃった。
さて、この状況は想定外だけどなんとかなりそうだな。
「駄目だ! まだまだ青い青年どころか、子供を三人も連れて行くなんて不可能だ」
なんてクレアは言うが、
「いや、まぁ。いいんじゃないですか……」
げんなりした口調で認めてあげた。
「なっ!?」
「ほ、本当ですか!」
「よっしゃー!」「ありがとうございます!」「……」ガッツ
流石にクレアが絶句したようだった。
「コナタ殿! 貴方は自分で何を言ったか分かっているのか!?」
「あぁ。勿論ですよ? もう、全員連れて行けばいいじゃな――」
「冗談と言うならば、いまのうちですよ?」
肩を震わせてクレアが言う。
「いや、冗談でそんな事は言わな――」
「もう、いいです!」
喚くような声。
何事かと、ギャラリーが集まりだした。
「貴方には愛想が尽きました」
バチンッ、と音がした。
それは自分の頬が叩かれた事に気付いたのに数秒を要した。
「主導権を失ったパーティーは必ずどこかで痛い目にあう! 情や情けでパーティーを組み替えるなんて、ばかげてるにも程がある。我々は町から出る子供の遠足隊じゃないですよ!? 勇者なんですよ!?」
罵倒されることをした自覚はある。
「そもそも貴方自身が勇者の器じゃなかったんだ。ずるい事を平気でする! 目上の人を馬鹿にする!」
笑みが零れるのを堪える。
「そうですか。僕もそろそろ正義感を振るう女は邪魔だと思っていました。偽善者め」
その言葉に、クレアは涙を浮かべた。しかし口は止まらない。
「民間人を化け物の前に晒すなんて、勇者どころか人間としても失格だ。正義感の無い勇者など、魔王と同じ! そんな勇者など必要ない!」
クレアが鞘から剣を引き抜く。
その刃を俺に向けてきた。
「この世界の為、この世の人の為、そしてこの町の皆の為に貴方を殺す。ここで決闘をしなさい!」