薬屋の感動(?)の再開
村長と話を終えて、宿屋に向かう道中。
計らいで、宿泊費用は無料にしてもらえた。ありがたい限りだ。
「面倒ですね」
「あぁ。私も子供の言葉のあやだと思って現実逃避していたが、こうなっては仕方がない」
『魔物』と『モンスター』の違いだ。
モンスターはそこらに沸くただの敵だが、魔物は違う。
高度な知性を持ち、他民族との意思疎通を可能とする万能な生き物の事を指す。
幼いムラウやルータ、ユリア達にこの違いが分かっているか疑問だったので、あまり意識せずにいたが、大人の――しかも村長に肯定されてはこちらも腹をくくるしかない。
「情報を集めてみよう」
「それがいいな」
ひとまず宿屋についたので、旅の荷を下ろし持てるだけ持って来た素材を整理する。
銀の宿、と呼ばれる上流の宿屋だった。
「携帯ナイフをオーク鬼戦で使ったので、刃こぼれが凄いです。買い替え時ですかね」
「それじゃ、店を回るか」
クレアの賛同を得れたところで、リベリルドの町を回ることにする。
「市場が開かれているな」
路上を進んでいるとそこそこ人混みが増えてきた。辺りには露店が並んでいるのがチラホラ見える。
「んー。鍛冶屋の携帯ナイフがいいんですが、これもいいかもですね」
「おー、にぃちゃん。買ってくれるのかい? 安くしとくぜ」
「いくらです?」
「銅貨50枚ってところだなぁ」
「35枚でどうです」
「そいつは無理な話だぜ。48枚」
「37枚です!」
「いや、46枚だな」
「うーん。39枚」
「45枚で限界だな」
「それでは、横の奴で80枚」
「80枚? あぁ。まぁそれなら――」
「どうぞ、親父さん」
「って、ちょっと待て! それじゃ一つ40枚になってる――」
「またの機会にね!」
引きとめようとする店主から逃げるように距離を取り、人混みに紛れた。
「あ、クレアをおいてきちゃった」
手を引くの忘れてた。
「ちゃんといるぞ」
「え!」
隣にいた。
「コナタ殿がどんなお方か想像していれば、次の行動も容易に分かる」
「それは光栄な事で」
「褒めたつもりはないが?」
「知りませ――」
ツーンと鼻に来る臭いに思わず黙る。クレアも同じなのか顔をしかめて思案顔だ。
この臭い……!
臭いのする方向へ行くと、案の定見知った人物が露店を開いていた。
「お! 巷で噂の勇者様じゃないですか!」
ケラケラと軽快に笑いながら、さらりと重大な事実を話してくれる。
「いやいや。何故貴様がここにいるんだ?」
「私は、人々に癒しを届ける事を生きがいにしている薬屋なのでーす!」
「嘘だな」「嘘ですね」
「いやん。二人ともきょーれつー! お姉さんを苛めたいのね! いいわよ、興奮しちゃう!」
なんでこんなに俺たちとのテンションが違うんだ。
「うるさい黙れ。ここにいる理由は十文字以内で答えろ」
「この町を救いに来ました」
「しばくぞ、貴様」
「しかも11文字ですよ」
「冗談だってぇー。そうね、ただ単純に旅に出たかったからかしら」
薬屋の分際で、俺らよりも遅くにアリジリーナを出たはずなのに俺らより早く着くってなぜに?
「細かいことを気にする男は嫌われるわよー」
「余計なお世話です」
「それよりも薬買ってかなーい? 今なら、友人価格で2割り増し☆」
「そういえば、オーク鬼戦で薬草を使ったから減っていましたね――って、増えてるじゃねぇか!?」
あざとい。俺よりもあざとい。
この女との交渉は気が抜けないッ!
「仕方ないじゃないのー。さっき薬草を沢山買っていった冒険者がいたんだから」
「在庫が切れ気味なんですか」
「血だらけだったわよー。何か、恐ろしい敵とでも戦った後みたいだったわねー」
ピクリと反応する。クレアを見るとそちらも思い浮かんだようだ。
「その冒険者、どこへ向かったか覚えてます?」
「ええと。確か銀の宿だったと思うけど?」
灯台もと暗しとはこのことか。
「沢山おまけしたわよ。なんだかヤバそうだったからね。一房20銅貨でうっぱらったわ」
確か、薬草の相場は5銅貨。利潤を求めたとしても15銅貨が最高額だろう。
「きっとその人は、『足元を見やがって!』って叫んだに違いないね」
「あら、見てたの?」
想像通りだった。コイツ、パネェ!
「とにかくありがとう。もしかしたら有益な情報が手に入るかもしれません。行くよ、クレア」
「ああ」
目指すは我らが根城、銀の――
「待ちなさい!」
「はい?」
薬屋の女性に止められる。
「情報料に、薬草を買っていきなさい。10銅貨の5割増しで」
「……」「……」
いや、もうっっ。
頭が上がらないっすわ!