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これでも勇者ですが、何か?  作者: 『螺旋 螺子』
彼が勇者ですか? 「本人曰く、そうらしい」(クレア談)
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守られていた物

「なん、で?」


 耳にユリアの驚愕の声が聞こえる。

 あぁそうだ。なぜなんだ。どうして(ブレインモンスター)を潰したのに戦うんだ。

 振り返った先に、再び斧を振り上げたオーク鬼がいた。


 日本にいた時にどこかの本で読んだことがある。

 『計画通りに事が進む事はまずない。いつも予備の計画を用意しておくのが大事』 

 ……不用意を招いた俺の失態か。


 見上げると、斧が見える。あれを振り下ろされたら真っ二つ間違い無しだ。


「死んでたまりますか!」


 捨て身の特攻を仕掛ける。このナイフで喉元を裂ければ奴は死ぬだろう。

 しかし、もし斧が俺より早ければ、もし狙いが狂ったら。それは俺の死に繋がるだろう。


 ビュッと風を切る音。瞬間、血が舞い散った。

 俺が切られた音でも無ければ、俺が切った音でもなかった。

 それは、オーク鬼の胸を貫く剣。つまり、クレアの刃だった。


「コナタ殿!! 大丈夫か!」


 ドシュッと剣を抜くと、俺に駆け寄ってくる。

 未だ無傷のようだった。


「あ、ありがとうございます」


 クレアにお礼を述べつつ、頭を整理する。


「考えられる可能性として、何がありますか?」

「亜種の群れかもな」

「いえ、そんなはずは無いと思います」


 クレアの案をユリアが否定する。


「アレだぜ! ブレインモンスターがまちがっていたんだ!」

「いえ、オーク鬼のうろたえぶりからして間違いなくそうでしょう」


 チラリとオーク鬼を見る。人数が減ったせいか、陣形が変わっていた。


「包囲ではなくなった。逃げるぞ!」

「いえ」


 クレアの指示を手で制す。


「一番配置が堅い所を突っ切りましょう。恐らく、オーク鬼達が守らなければならない『何か』がある」


 生き物が持つ生存本能を無視してまで、この場に留まり続ける理由としては有力な説だろう。

 曰く、何かを守っているとか。


「だが、その背中の傷だと――」

「問題ありません。前衛をクレア。後衛をムラウ。両脇をユリアとルータに任せます。僕も出来る限り応戦します」

「無理はするんじゃないぞ」

「「「分かった」よ」ぜ!」


 オーク鬼と交戦するが、やはり向こうからは積極的に襲ってこない。七匹までに激減した敵を見据えて、再び戦闘を開始した。








「最後の一匹まで抗ってきたな」

「そ、そうですね……」

「殺しちゃってよかったのか……」

「気にしてたら負けです。町から出れば弱肉強食なんですから。負けていれば、ここに転がっていたのは僕たちだったのかもしれませんよ」


 ルータに回復魔法をかけてもらい傷の応急処置する。その上から薬草を塗れば、かなり痛みが和らいだ。


「あ、あの……、そのー。すまん」

「おけがをさせてしまって、本当にごめんなさい」

「……」ペコペコ


 俺が怪我をした事を言っているのだろうな。


「気にしないで。アレは僕の失態でもあったから。ちゃんと想定外の事も計算していれば三人を危険なめに合わせる事も無かった」

「で、でも……」

「大丈夫だって。僕は怒ってなんかいないよ?」


 ユリアはもう一度ごめんなさい、と謝った。ルータも一緒に頭を下げていた。ムウラはそっぽを向いていた。


 傷の痛みが引いたところで、オーク鬼の死体を避けながら進む。その先には真新しい宝箱があった。

 中を開けると、柄の中に紫色の宝玉の入ったブロードソードが一振り入っていた。


「これは……竜殺し(ドラゴンキラー)、か?」


 真新しい宝箱に不釣合いな程古びている。もう十年二十年レベルではないだろう。

 柄に描かれている装飾は擦り切れてほぼ平面状態になっている。

 しかし刀身の方は(剣自体に所々傷が見当たるにせよ)刃こぼれなどは見当たらず、このまま武器として使えそうだ。前使用者の几帳面さが伺える。


 それにかなり劣化しているが、竜を殺す力は衰えてなさそうだ。


「これがオーク鬼ががんばって守っていたものなんですか?」

「恐らくそうでしょう。他に何も見当たりませんし」


 箱からブロードソード――もといドラゴンキラーを取り出し、手に取る。

 ……不思議と手に馴染む気がする。


「コナタ殿もやっと武器を持たれたか。携帯ナイフだけでは、今回の二の舞になりかねない」

「……」


 俺は無言で空を見上げる。何故か、そうしたい気分になった。


「あの、コナタ殿?」

「あ、はい」

「? どうかしたのか?」

「あ、いえ。別に」


 ドラゴンキラーを腰に下げる。


「さて、時間も押していそうだし、急ぎましょうか」

「はーい」「おぉ!」「……」コクコク



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