オーク鬼
オーク鬼にはそれなりの知性があるらしい。
そのため集団で人を襲い、巧みな連携を取ることから、冒険者の間でも有名な難敵だそうだ。
さらにその中でも取り分け頭の良いオーク鬼がブレインモンスターとなり、戦闘を指示するらしい。
だからそれを逆手に取る。
つまり、戦闘においてなるべく後方にいながら、一番叫んでいるオーク鬼がブレインモンスターと断定出来る。
「頼みますよ」
「あぁ。勿論だ」
「頑張って下さい!」「クレアさん気をつけてな!」「……」ガッツ
作戦の概要は、まず怪しい気配のする場所に先行でクレアを歩かせる。その数メートル後ろで4人固まって周囲を警戒しながら付いていく。
クレアを囮にして敵を引き寄せたならば、クレア自身+ユリアとルータの二人の『魔導書参照』で後方支援。
もし囮に気付いて俺たちに集まったならば、俺とムラウで武器を取り、他の二人は魔法で攻撃。その隙にクレアはブレインモンスターのもとへ走るだろう。
クレアの腕の方は信頼しているし、オーク鬼に劣るとは思えない。ラビットソードを活かした俊敏な動きでブレインモンスターを討ち取ってくれるだろう。
「さて、どっちにかかるか」
再び直感が働く。反射的に近くの茂みに対して構える。
「「「ブビィィィ!!」」」
三体のオーク鬼が飛び出してきた。その背後にも沢山のオーク鬼がいる。
「既に包囲されてましたか!」
『『赤の魔導書を参照。我が身に力を!』』
「フレイムボール?」
「うらぁぁぁぁぁぁ!!」
ムラウが剣を振ればオーク鬼の腹を裂き、ユリアとルータが詠唱した火の玉が目の前のオーク鬼を燃やす。
チラリと少し前方にいるクレアを確認すると、囲まれていたニ匹のオーク鬼を相手に優雅に剣を操り、血の嵐が舞っている。
「……すげー……」
更に茂みの奥から五体のオーク鬼が飛び出した。
「武器を持ってないんだけどね!」
オーク鬼が槍を振り回して俺に突き出す。矢のような速度で突き出された槍を俺は体を反らして避ける。
「プギィ!?」
「なぁーにを驚いてるんですか。どこから飛び出すか分かっている銃口の先を避ければいいんですから」
がら空きの腹に向けて、肘でボディーブローを見舞ってやる。
「ブギィィィ!?」
のたうち回るオーク鬼の喉元に携帯ナイフ(予備)を刺す。喉元を裂かれて暴れるオーク鬼を無視して、襲いかかる他のオーク鬼の攻撃をかわして顎を蹴り上げる。
「プギィィィ!! プギィィィ!!」
「「ブビィィィ!!」」
「はっけーん」
大声で鳴いた周囲より一回り大きい一匹のオーク鬼。あいつが恐らくブレインモンスターだ。視線をクレアに送ると、それに気付いたらしく直ぐにそいつのもとへ走る。
「プギャ! プギャ!」
そろそろ耳障りになってきた鳴き声を上げながら、クレアと戦うブレインモンスター。
ブレインモンスターが棍棒を振るうが、それを難なくかわして、懐に忍び込む。驚いたブレインモンスターは飛びのいて距離をとろうとしたが、クレアが一瞬で間合いを詰めてあっさり頭と体が引き裂かれる。
「プッ、プギャ!?」
残ったオーク鬼達が動揺の鳴き声をあげる。どうやら作戦は成功したようだった。
「やれやれ。案外あっさりと――」
三人の顔を確かめようと顔を向けた瞬間、俺は思考よりも早く走り出した。
「プギィィィィ!!」
ザシュッ、と肉を裂く嫌な音がした。背中に火で炙られたかのような痛みが走り回る。
「うぁっ…!」
俺の声が堪えれ切れず、漏れる。
「ブヒヒヒヒッッ!」
ゲスっぽい笑みが俺の後方から聞こえた。
俺に守られた三人の顔が驚愕に彩られる。
「なん、で?」
強ばったままのユリアの声が聞こえた。