魔導書参照
「ただいま」
宿屋の一室の扉を開けながら言う。
「……」
「……」「……」「……」
ドサッ
「「「「ビクッ!?」」」」
扉を開け放った先に広がる光景に、思わず買い足し物を入れている袋を取り落とす。
クレアは3人を眺めて、3人は地面を見つめている。
袋を落とした時に鳴った音で、全員の視線が俺に集まった。
どうしよう。凄く逃げたい。
クレアは安堵の表情を浮かべて、3人は笑顔になる。
「え、どうゆう?」
シンプルに質問してみた。
「私は子供が苦手なんだ」
シンプルに返ってきた。
「ま、まぁ。3人共。大丈夫?」
「まぁ」
「だ、大丈夫」
「……うん」
そもそも何が大丈夫なのだろうか。
「買い物してきたから、食べましょうか」
宿屋から宿泊費を支払い、ホラム街から出る。
近くの草原(ただしモンスターが近寄らない距離)に、石を集めてかまどを作り、火をたく。そして、持っていた鉄の板を上に敷いて、肉やら野菜(主に雑草)をのせる。
頃合いを計って肉をあげる。
「取り敢えず、何でも食べてよ」
「あ、はい」「あぁ!」「……うん」
因みにクレアは、既に食べ始めていた。
「「美味しい」な!」です」
3人共、満足のようだ。
「それで、僕達にお願いしたいことって何?」
隣ではふはふしていたユーちゃんに本題を聞いてみる。
「ふぁぁぁ、あむ。…………。実は、近くの洞窟に魔物が住み着いてしまって。ソイツを倒して、私たちの村を救ってほしいんです」
村、ね。
「お金ならあります!」
ポケットから出されたお金は、12銀貨と銅貨が数十枚。
おおよそ、魔物を討伐するにあたって見合う金額ではない。
「あ、あの。こ、これは手付け金です! 討伐してくれれば、村で用意出来る限りの報酬は約束します!……から…………」
半べそかいて服の裾を持つユーちゃんを見てると、何だか背中がゾクゾクす……雑念を払え、俺!
「あぁ、えーっと。村の名前は『リベリルド』でしょ?」
「えっ。どうしてそれを!?」
ユーちゃんだけじゃなく、男子組も目を丸くしている。
「もともと僕たちはアリジリーナから遣わされたんです。それに手付け金も優しい国王様から頂いてますから、結構ですよ」
ぼったくったがな。
「そ、そうなのか!?」
「き、来てくれるんですか!?」
「……」コクコク
チラリと横目でクレアを見ると、クレアも頷いてくれた。
「勿論ですよ♪」
俺の笑顔に、子供sは更に笑顔になった。
「「「「「「ウッキィ!」」」」」
リベリルドへと急ぐ中、グレープモンキー―紫色の木の棒を持った猿―の群れに遭遇した。
「君たちって、戦える?」
「俺は戦えるぞ!」
ムーくん――もといムラウがアピールしてくる。
「私は魔法が少々」
「……」コクコク
ユーちゃん――もといユリアは魔法が使えるのか。ルーくん――もといルータは、ユリアと同じと受け取って良いのだろうか。
「前線はムラウとクレア。他の二人は、後方から魔法支援です」
「ルーくん、行くよ!」
「……うん」
服の中から本を取り出して、中を開く。
『『青の魔導書を参照。我が身に力を!』』
「「ブルーボールⅤ」」
『魔導書参照』か。懐かしいな。
魔法の中で一番初歩的な詠唱方法だな。この上に、ホラム街でおっさんズが詠唱していた、『四精霊召還』がある。
二人が出した水の玉がムラウに襲いかかっていたグレープモンキーに命中する。
当たったグレープモンキーは、空を舞い二匹ほど巻き込んで空を舞い、地に落ちた。
その間にもクレアは数十匹を斬り伏せる。
その後、攻防を繰り返す。
「キィェェェェェ!?」
「コイツでラストだな」
最後のグレープモンキーをクレアが切り捨てる。
「なかなか強いな。ムラウ」
「だろ! でも、クレアさんはもっと強い!」
「ユリアちゃんもルータくんも凄いね」
「ありがとうございます、コナタさん!」
「……あ、ありがとう」
うん、このメンバーだとリベリルドへの道のりが楽に成りそうだ。