3人の子供
ホラム街、滞在3日目。
一昨日の騒動にて、お金を増やした俺たちは、そのお金で(主に俺の)装備を揃えた。
地味に念願だったみかわしの服も購入し、クレアも戦士の鎧から、ブロンズアーマーに買い換えた。
それだけでお金の残額は半分程使い、残った半分で持ち運びが出来る日用品を買い漁った。
薬屋にも寄り、あの嫌な臭いの中、薬草などを購入した。状態回復系の薬草はここらでも売り切れているらしかった。つい先ほど来た客が買い占めたらしい。
道中、何があるか分からないから欲しかったのだが、無いならば仕方がない。
「そろそろ出るかな?」
因みに、隣にクレアはいない。昨日、道を歩く度に挑戦を挑まれて、本日は引きこもり状態だ。
なので代わりに俺が買い出しに行っている訳なのだ。
「パシられる勇者って……。いや、勇者では無いですが……」
若干落ち込みながら宿に向かって歩く。因みに、薬草の補給と共に昼の買い出しを頼まれていた。
パシリと言いわず、なんと言おうか。
「全く、それもこれも僕が――」
ドンッ
後ろから何かがぶつかり、俺は転倒する。
「痛っ!」
「ひっ、あ、ごめんなさい」
振り返ると小さな男の子がこちらを見ていた。
「いえ、気にしないで。今度からはちゃんと前見て走ろうね」
強張る小さな男の子の頭を軽く撫で、再び振り返り宿を目指す。
「ま、待て!」
「ゴフゥ!?」
なんか再び突撃喰らわされた。
「な、何?」
「あ、あの……」
口をパクパクさせて、必死に何かを伝えようとしているが、強張って出ないらしい。
その男の子の後方を見ると、男の子1人と女の子1人が物影に隠れてこちらを伺っていた。俺と視線が合うと隠れてしまう。
「お、おれたちの村を……助けてくれ!」
ジッと睨むくらい必死な目線で俺を見詰める。
取り敢えず詳細を聞こうか、用事があると断ろうか悩んでいると、後ろの物影から女の子が歩いてきて俺の前に立つ男の子を殴った。
「痛っ! な、なにするんだよユーちゃん!」
男の子を殴った女の子――もといユーちゃんは、怒ってますオーラを醸し出しながら睨む。
「『助けてくれ』、じゃないでしょ! 『助けてください』でしょ!」
「ごごごごめんなさい」
「ルーくんもいつまでかくれてるの!」
物影に隠れる男の子――もといルーくんがピクリと体を震わせて、恐る恐る近付く。
隣に来ると、ユーちゃんは向き直って俺を見る。
「ムーくんが失礼をしてしまい、ごめんなさい」
ぺこりと頭を下げた。
「い、いや。別になんともないんだけど……」
俺にぶつかってきた男の子――もといムーくんが言い返す。
「こーゆーのって、したてに出たらなめられる――イテッ」
「私たちが下手なのに、なんでそんなにえらそうなの!」
もう一発殴られてた。
「あ、あの。お気を悪くされてないのなら、話だけでも聞いていただけないでしょうか?」
「あ、いえ。構いませんよ」
俺の答えにユーちゃんの表情がパァッと明るくなる。
「ほ、本当ですか!?」
「え、えぇ」
「あの、いっしょにいたお姉さんは?」
「んー。髪の長いお姉さん?」
「そうです。一昨日一緒にいた……」
「そ、そうだけど。今、その人に昼ご飯を届けてる途中なんだ」
「ははは、パシられて―イテッ」
「いいかげんにしなさい!」
そう言ってると、ルーくんのお腹がなった。
「あっ……」
「お腹減ってるの?」
「い、いえっ」
「ご、ごめんなさい」
ルーくんが戸惑い、なぜかユーちゃんが謝る。
「一緒に食べます?」
「い、いいのか!?」
「こ、こら! ムーくん!」
反応するムーくんを怒りつつも、ユーちゃんも期待の眼差しだ。
「いいよ」
「マジ!」「本当ですか!?」「あ、ありがとうございます」
「宿屋はこの先にあるから。先に行ってて。もう少し買い足ししてくるから」
「本当にありがとうございます!」
ユーちゃんが頭を下げて、3人手を繋いで駆けていった。
その後ろ姿を見つつ、買い足しに行くかと思いつつ、振り返ると微妙な顔をした男が立っていた。
「あんちゃん、大丈夫か?」
「え、と。それはどうゆう?」
見ただけで手練れと分かる装備を纏っている。悪い人には見えないが。
「俺はこの街を拠点にしてしばらく経つが、あの娘ら、突然この街に現れて、冒険者を連れて行くんだ」
「へぇ…。その冒険者は?」
「俺の確認出来る範囲だが、帰ってきた事はねぇ」
……成る程。
僅かに目を細める。
「御忠告、痛み入ります」
「いやいや。あんちゃんも気をつけてな」
男の背中を暫く目で追い続けて、買い足しに走った。