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これでも勇者ですが、何か?  作者: 『螺旋 螺子』
彼が勇者ですか? 「本人曰く、そうらしい」(クレア談)
13/66

圧勝

「お嬢さん。絶対に脱がして差し上げますからね」

「抜かせ」


 クレアが剣を鞘から抜き構えた。


 場所は移り酒場前の路上。

 女が脱ぐという噂をどこから聞きつけたのか、あちこちから男が集まってくる。


「男が勝つか、女が勝つか。勝負が楽しみだなぁ」


 白々しく隣のおっさん(ねずみ色)が叫ぶ。

 観客も男が勝つと信じて疑わない。


 ちょうどいいや。賭け屋で、クレアに全額賭けておこう。


「もしかして女の方、魔法が使えないんじゃね?」


 誰かの指摘に群集が盛り上がる。

 それを聞いたからか知らないが、おっさん(青)が言う。


「ハンデを差し上げましょうか?」


 魔法は武器より優れている。これはこの世界の常識に値する。

 なぜなら、自分の手と剣の長さしか間合いが測れない武器に対して、自分の詠唱能力次第でいくらでも間合いが広げられる。

 威力も武器は体を鍛えてこそ上がるが、魔法に関しては詠唱能力に頼りっきりになる。

 なにより、武器よりも確実に敵を仕留められるのだ。

 ただ、魔法は万能だ。そう、万能過ぎるんだ。


 この手の敵は煽るに限る。


「うるさいです。さっさと始めて下さい」


 俺の呆れ声におっさん(青)は過敏に反応した。


「貴方もこのお嬢さんのお仲間ですか? 大事なお仲間が――」

「うるせぇ! さっさと始めやがれ!」「そうだそうだ!」「無駄な時間を使ってんじゃねぇよ!」


 俺の声に便乗するように、周りから野次が飛ぶ。


「――ッ! いいだろう! もう何でも構わねぇ! やってやらぁ!」


 先程の口調を捨てて、本来の口調か何かで怒鳴り散らしながら、クレアに走り寄る。

 人間とは動揺に弱い。今のおっさん(青)のような興奮状態だと、どうしても動きが単調になる。考える頭が怒りで麻痺しているからな。


 さて、魔法を撃ち込んでやろうかと思ったら、クレアが俺を睨んでる。バレてた?


「うりゃぁぁぁぁぁ!」


 声だけでかく、剣を打ち込む。クレアはそれを鍔迫り合いで受け止めた。


『この世の万物を司る五精霊に命ずる。水の力を借りて、縄を作り出しそこの女を捕まえよ』

「ウォーターバインド」


 空中から細い水が現れてクレアを捕らえようとする。が、クレアが機敏に動くせいか、当たらず地面にぶつかって消えた。

 ラビットソードに変えておいて良かったー。


「ちっ」

『この世の万物を司る五精霊に命ずる。水の力を借りて、水をまといし刃にて敵を切り刻め!』

「アクアクロス」


 再び空中から水が現れて、クレアを切り刻みに襲い掛かる。


「はっ!」


 それに対してクレアは、襲う一つ一つを交わして受け止めて弾いて凌ぐ。


「貴様ァァァ!」

『この世の万物を司る五精霊に命ず――』


 詠唱し終える前に、クレアはおっさん(青)の目の前に立ち、ラビットソードの先端を首元にあてていた。


「ま、参った!」


 冷や汗を垂らしながら、おっさん(青)が小さく言った。


 先程の銀のおっさん戦とは打って変わって、静まり返った沈黙が続いた。


「さて。土下座という話だったな」


 クレアの声に、観客が歓声をあげる。


「……」


 おっさん(青)は、その場に立ち尽くしたまま動かない。


「土 下 座 ! 土 下 座 !」


 土下座コールに包まれる中、おっさん(青)はゆっくり崩れ落ちる。


「その間に、支払い」


 同じく呆然となる賭け屋を催促してお金を貰う。

 ……所持金が36倍になった。後でクレアに望む物を買ってやろう。


 視線を戻すとおっさん(青)が地面に頭を擦り付けている風景が見えた。

 そしてクレアがこちらに歩いてきた。


「終わったぞ。くだらない」

「まぁ、そう言わずに。お金が増えましたよ?」


 近くにいた――まだ呆然としている――賭け屋の顔を見て、呆れ顔になる。


「抜け目が無いな」

「逞しいと言って欲しいね」


 そう言って、背中に多くの視線を受けながらその場を後にした。



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