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これでも勇者ですが、何か?  作者: 『螺旋 螺子』
彼が勇者ですか? 「本人曰く、そうらしい」(クレア談)
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嫌な視線

 城門を出て、クレアと落ち合う。

 既にラビットソードを手にしていた。


「代金はどれくらいでしたか?」

「250銀貨」

「分かりました」


 と言って、俺がお金を出そうとするとクレアが手で制す。


「貯金から出したから問題ない」

「そ、そうですか。分かりました。では、旅の仕度も出来ましたか?」

「あぁ。ひとまず必要な物は持ち出してきたから大丈夫だが、どうかしたのか?」

「薬屋に寄ります。歩きながら話しましょう」


 俺は、これからのしなければならないことを、不都合な部分を端折って説明した。


カランカラン


「はいはー…、あ、この前の!」

「どうもです」


 本日の薬屋はまっさらな白衣を着ている。

 ここに来た理由は治癒薬を買うためだ。薬草でもいいんだが、日持ちがせず腐ってしまう。


「聞いたわよー。王様に喧嘩売ったんですってね!」

「――ッ!?」


 情報早ぇよ!?


「何、その話は本当か?!」


 さらっと爆弾を投下しやがって!

 超面倒ごとになったじゃねぇか!?


「いや、違うんだクレア。聞いてく――」

「魔法を打ち合って、王室の間は滅茶苦茶になって、城内は大混乱だって!」

「いやいや、盛るんじゃねぇよ!?」

「コナタ殿! そんなことまでしでかしたのか!?」

「ほら、信じちゃったよ!」


 嘆きたくなる心をなんとか押さえつけ、事情を説明する。

 俺が呼ばれた理由。俺が言った言葉に対する騎士団と爺さんの言動。


「むー。成る程ねー。そりゃアンタにも一理あるわー」

「でしょ! でしょ!」

「だからといって、コナタ殿の言動が許されるか疑問だな」


 手厳しいなクレアは!


「でも、確かに領国内の問題を旅人に任せるって言うのもおかしな話よねー」 

「ん?」

「ん、って。どうしたの?」

「コナタ殿は、勇者だぞ?」

「えっ?」


 チラリと見られる。そして、数秒の間……、


「マジで?」

「大マジだぞ」

「そうなの?」

「まあ、形式上は」

「……」

「……」

「……」

「まぁ、知ってたけどね!」

「意地張るなよ!?」


 意地っ張りな人だなぁ。


「へぇ。この子がねぇ」

「その言動、思いっきり意地張ってた証明になるんですが」

「そちらは数日前の勇者歓迎祭に参加しなかったのか?」

「したわよー、思いっきり」


 数日前の祭りとなると、俺がアリジリーナに来たときのアレか。

 てか、『勇者歓迎祭』ってネーミングセンスが無いにも程があるぞ。名付け親出て来い。


「もう、冒険者の人たちが沢山立ち寄ってねー。治癒薬をガンガン買って行くもんで。コチラとしたら大助かりな訳よ」

「そうなんですか?」

「まぁね。でも本物は初めて見たなー」

「祭りに参加していたんでしょう。僕の姿は見えなかったんですか?」

「まぁ、『勇者歓迎祭』っていいっても、皆はただ祭りがしたいだけだし」

「なぜだ? 我々の為に立ち上がってくれた人を何故見送らん!?」


 良い人の鏡だな、クレアは。


「さぁね。まぁ、毎年毎年勇者様ーって祭られちゃぁね。マンネリ化もするわ」


 マンネリ化て。


「街の皆もあんまり興味を持ってない感じよ。そりゃ、一昔前までは真剣に世の平和を信じたけどさ。見送れど見送れど帰ってくる者などいなかったら、そりゃ誰でも飽きるわよー」

「成る程ね。そういう事だったんですか」


 頭の中で整理する。

 俺の予測と一致する節がある。辺境の地に住んでいたから細かなことは分からなかったが、大方、予測の大前提といったところか。


「過去は『召喚ヒーロー・ザ・ゲート』って言う、勇者を召喚する儀式もあったらしいんだけど、過去の宣言によって誰が召喚された真の勇者なのか分からなくなっちゃったし。それも関係しているんじゃない」


 成る程。良く分かった。が、


「すみません。お歳はいくつで――」

「んで、ご要望の薬品はどれかしら?」


 誤魔化された。


「えっと。治癒薬を15個程。毒とか麻痺とかを治せる薬もありませんか?」

「うーん。治癒薬ならあるけど、ついさっきそこらの薬を買い占めた人がいたからねー」

「誰かですか?」

「大方、商人ってとこかな? 薬を独占して高額で売りつけるんじゃない?」

「妙な事をする奴がいるんだな」

「って事で、治癒薬だけしかないけど、いいかしら?」

「いいえ。ありがとうございます。おいくらですか?」

「銅貨750枚って所かしらねー」


 む、ちょっと高いが、今は懐も温かいし、いいか。

 と、お金を払おうとした手をクレアが制す。


「相場は一つ25銅貨だぞ」

「ん?」


 1個25銅貨。25×15は375。


「ぼりすぎだろ!?」

「もー。お姉さん口出しし過ぎー」


 や、やってくれるぞこの女。


「それに今、勇者君の懐は――」

「400銅貨で買います!」

「まいどありー!」


 恐ろしい事をする女だな、オイ!

 これ以上長居すると新たな物を買わされそうだ。クレアの手を引いて、店を飛び出す。

 またのお越しをー、と後ろから聞こえたが、誰が来るかこんな店。


「クレア行くよ!」

「あ、ああ。しかしあの店員が言っていた――」

「クレア急いで!」

「分かってる。それであの――」

「クレアもっと走って!」 

「分かってるから! それよりも――」

「クレア、ペース上げるよ!」

「あ、ちょ……」


 ふぅ。ようやく黙ってくれたな。

 しかし、恐ろしいな。()()()()()()()


「……」


 まぁ、国王にあれだけの事を言ったのだから、無理もないか。

 それに、これも俺の予測の裏づけととっておこう。



2013/9/12 表記ミスを修正しました。

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