王国からの使い(2 )
「ん」
朝日が目に入る。体を大きく伸びをし、あくびを一発かます。
「あ、うぅ……」
少なからず頭痛が残っている。これが二日酔いって奴か。
まだクレアは寝ているみたいだな。起こす必要はまだ無いから、もう少し寝かせておいてやろう。亭主に水でも貰いに行くか。
「亭主」
「お。どうだった?」
「何がです?」
「アルコール高めの酒をおいておいてやったろ。酔った勢いでやっちゃったか?」
「テメェの策略かよ!?」
殴りかかろうとしたが、何分頭痛で体が思うように動かない。
「冷たい水を下さい……」
「アンタも沢山飲んだんだな……」
やや同情の目で見られながら、お冷が出される。
それを一気に飲み干す。心なしか、頭痛が和らいだ気がする。
「申し訳ないですが、もう一杯頂けないですか? 連れにも飲ませるんで」
「構わんが、コップは後で返してくれよ」
亭主の了承を得て、部屋に戻る。
もう一日泊まることも視野にいれなければならないな。
「クレア、お水を貰ってきたよ」
「んー」
クレアは起きていた。頭がボーっとしているのか、ベッドに座ったままどこか遠くを見ていた。
「はい、どうぞ」
水を手渡す。クレアはそれをグイッと飲み干す。
「うむ。ありがとう」
目に色が戻る。
あれ、酔ってない?
「少し昔を思い出していたのだ。気にしないでくれ」
「あ、あぁ……」
俺の何倍も飲んでながら、この差はいかほどだ? もしかしてクレアはかなりの酒豪かもしれない。
「さて、少し東にでも遠出して――」
「失礼する」
突然部屋に入ってきたのは騎士団だった。いや、恐らく近衛だろう。
「なんでしょう?」
「ベンディクト=アンフォンス国王様がお呼びだ。至急宮殿へ召還との事」
「ほぅ」
あの国王が呼びつけるとは。決裂したはずなんだがな。
「クレアは、ジジイの所へ行ってラビットソードを受け取りに行ってくれ。後、これから旅に出るからその支度も」
「あ、あぁ」
「それが済んだら宮殿の前で待ってていてくれ」
「分かった」
さて、本日も見せてくれるんですかね。騎士団名物の、カチャカチャめざわり行進。
「ご無沙汰しております、アンフォンス国王陛下」
「うむ。今回呼び出された件は知っておるかね?」
「存じ上げておりません」
偉そうにドカッと座る国王が、またまた偉そうに説明を始めた。
爺さん、ここぞというときに見栄張るよな。
「ならば説明してやろう。我が国土の南に位置するリベリルドとゆう村がある。そこから更に南に行った所に洞窟があるのだがそこに魔物が住み着きおってな」
「手を妬いていると?」
「そうなるな」
「成る程」
「貴様にはその魔物の討伐を――」
「『勇者』と言えば聞こえはいいですが、ただの国の何でも屋って所ですかね?」
「……」
俺の挑発にも動じない。この爺さん、成長したな。
「報酬は150銀貨でどうでしょう? 前払いに50銀貨。成功報酬がその二倍」
「なっ!?」
「貴様、その言葉の意味が分かっているのか!?」
「即刻処刑してやるッ!」
流石の国王も同様した。騎士団から野次が飛ぶ。
「そうだ! それこそ騎士団に任せればよろしいじゃないですか! 高額の報酬も払わなくていいですし、自国の領土問題も正せますよ?」
「いや、それは……」
「どうしたんですか? 国の為に、立ち上がりましょうよ!」
「ほら、我々は王家を守る――」
「成る程。王家の為なら、国民が苦しんでも問題無いと?」
「そんなことは――」
「もういいわぃ! その条件を呑もうぞ」
国王が大声で場を沈めた。
うわぁ、キレてるよ。
「ありがとうございます。国王様」
「ふんっ」
青筋を立ててるよー。血管切れて死ぬかもな、将来。
「失礼します」
国王に背を向けて歩き出す。
「き、貴様! 何様のつもりだ!」
臣下の一人が俺に怒鳴る。
俺は振り向いて笑顔で答えてやった。
「これでも勇者ですが、何か?」
出来る限り優雅に一礼して、再び歩みを進めた。