王国からの使い
魔法高等学校。それは魔物と戦う為に設立された公学校……と言われていたのはとうの昔の話。いまはただのお金持ち学校だ。土民から商人、貴族といった風潮がある中、この学校に入れるのは上級商人か、中級貴族以上といったところだろう。
目の前に座る女の子は大商人の娘だし、その隣は王族分家の長女ときたもんだ。当然、学歴も高く魔法が使える。
そんな学校の一番左の一番後ろとゆう素晴らしい一席に座る俺は、男だ。この学校の男女比率は1:476と、信じられないような、ある意味恐ろしい学校に通っているのだ。一年生になってしらばらく経つのだが、入学当初はそれこそ珍しい物でも見たような奇異の目に晒されたのは記憶に新しい。
「コナタ君。ここの答えは?」
「えっ!?」
午後の最後の授業。油断して窓の外を見て物思いに耽っていたのを見逃さなかったらしい先生からの突然のご指摘だ。黒板には、なにやら複雑な数式が書いてあるが、理解するのもめんどくさい。
「聞いていませんでしたね」
「す、すみません……」
叱責があり、先生は先ほどの説明をし直してくれるのか再び黒板を指さして色々喋っているが、右耳から入って、左耳から抜けるが如く、頭の中には何も残らない。
「ん。チャイムですね。はーい。それじゃ、授業を終わりまーす」
女教師が終了の合図をし、クラス委員長が号令をかける。そして、クラス中の女の子が僕の下に。
「コナタ君!」「ねぇ、この後予定とかあるかしら?」「私と一緒にお茶でも!」
「「「いかがですか?」」」
ハーレム……と言えば、誰しも男なら一度は夢見るだろう。だが、実際に放り込まれると恐ろしい事この上ない。それは、女の子を誑かせる才能があってこそ成り立つ所行といえよう。むしろ、ハーレムを作った男には賞賛と尊敬の念を送りたい気分だ。
更に温室育ち(この縦社会において学校に通えること自体が金銭的に裕福な証拠である)のお嬢様ときたもんだ。自分勝手でわがまま。そのくせにわがままを通すだけの権力がある事が腹立だしい。俺にもその財力を分けて欲しい(そもそも、俺は他人に居候させて貰っているのだが)。
「ごめんね。僕、ちょっと用事があるんだ。ホントにごめん!」
両手を合わせて、上目遣い。大体の女子はこれで引き下がってくれる。だが、相手はわがままお嬢様。この程度ではまだぬるい。
「また。今度、誘ってくれないかな? 僕、楽しみにしてるねっ」
「あ、いえ。全然問題無いです!」「はい、分かりました!」「次ね!」
爽やか笑顔も忘れずに添える。そうすれば、全ては丸く収まった。
これが、俺……天羽 此方が、この世界で学んだ事だ。
そして、俺には目標がある。現実世界へ帰ること。魔界と人界の歪みか何かで召還されたらしいが、詳しい事はまた機会のある時にする。
俺はこの世界に来て、ある一家に拾われた。それは、どこにでもある商一家だった。何かと心のややこしい時期にまるで我が子のように心を砕いてくれて、俺は育てられた。学校にも入れて貰い(この国で義務教育がないなんて知らなかった)、色々尽くしてくれている。俺も商業のあれこれを教えて貰い、将来、日本に帰ったら生かせたらなと思っている。
ごきげんよう、と、漫画の様な会話にも慣れっこだ。人が窓から飛び降りて平気なのも慣れっこだ。そして、俺が魔法が使えない事も……あまり気にしないようにしている。
「キアラ~」
学校の校門で、セミロングの艶やかに光る黒髪少女、校内一美少女と噂される女の子に声をかけた。待ってくれていたらしく、顔は少し不機嫌そう。
「遅い」
「いや、ごめんね」
「どうせ、また女の子を口説いてたんでしょ」
ひどいこと言うなぁ。
「だからあれは……」
「あれは、何よ?」
「……」
「ふんっ」
あぁ、怒らせちゃった。これは帰宅まで口をきいてくれないぞ。
嫌な予感はあたるもので、一言も口をきいてくれなかった。そこそこ豪邸の我が家に帰る。
「ただいま」
「ただいまです!」
「お帰りなさい」
母が、迎えてくれた。髪が長く、いつもなら優しい和やかな空気を纏っている母だが、その表情はどことなく険しい。
「コナタちゃん」
「あ、はい。なんですか?」
どうでもいいが、母は俺をちゃん付けで呼ぶ。母なりの愛情表現らしい。
「お話があるの」
「あ、はい。どんな?」
キアラが固唾を飲んで見守る中、母は告げる。
「王国から徴収命令が出たわ」
「へぇ」
俺は口元にひきつった笑みを浮かべた。
2013/9/8 題名を変更