元帥コーラフラッグス
昼休み終わりの中学校の体育館は、気温が急上昇した五月の暖かい日差しも手伝って妙に蒸し暑い。
そんな体育館に、二年二組の男子だけが、何も知らされずに集められた。
「一体、何が始まるっていうんだ?」
戸辺朱弥は、体育館の壇上前にある、風呂敷にかぶせられたものが気になりながら言った。
「どうせ下らん事だ。ま、俺には関係ないがな」
それを聞き、尖閣迅斗、通称尖迅が言った。
「わざわざ授業時間を割いて行う下らん事とは一体」
何が起こるのか不安にさらされる生徒たち。しばらく、何が行われるかという話で喧騒が続いていた。
しばらくして、生徒を呼び出した張本人の先生がやってきた。
「留院先生、何をするんですか?」
トナベはルイン先生に尋ねた。
「落ち着け。あれをみろ」
ルイン先生が風呂敷の方に注目させると、走って風呂敷のところまで行く。そしてその風呂敷を取ると、そこにはマットの上にコーラが二本、置いてあった。
「今日は身体測定の短距離走を行う。だが、ただやっただけではつまらんから、ビーチフラッグ、いや元帥コーラを行う」
「元帥コーラ?」
尖迅が聞き返した。
「ビーチフラッグと同様、先にあのコーラを取ったものが勝ちだ。いくぞ、よーい」
「ちょ、早い!」
バラバラになった生徒が戸惑うのをよそに、ルイン先生はスタートの笛を吹いた。
「フッ、あのコーラはいただいた!」
「何!」
尖迅が先陣を切って走る。
他の生徒との差は明らか。ぐんぐんと引き離していく。
そして他の生徒を圧倒し、尖迅が一気に二本のコーラを手にした。
「ちょ、二本はずるい」
「遅れてきた奴が何を言うか」
戦利品のコーラを両手に、尖迅は倒れている他の生徒を見下した。
「尖閣が両方取ったか。まあいいだろう。そのコーラを飲むことを許可する」
「よっしゃ!」
ルイン先生に言われ、尖迅は喜び勇んでコーラを開けた。
その瞬間、振られた後のようにコーラはスプラッシュ。
「ちょ、これ振られてるじゃないですか!」
文句を言いながらコーラを一口飲むと、尖迅は吹き出した。
「生ぬるいじゃないですか!」
「ああ、昼休みは体育館は準備中で誰も使ってなかったから、二時間前にセットしておいたのだ」
「ちょ、せめておいしいコーラを準備してくださいよ」
「文句を言うな。さあ、勝者の権利だ。さっさと二本目も飲むんだ!」
苦しみながら、尖迅はコーラを飲み干した。
勝たなくてよかった。アケヤはそう思った。