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岸田家の異世界冒険  作者: 冬の黒猫亭
三日目 【冒険者の卵】
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Act 27. 赤い画面

「蜂、蜂の大群とか……昆虫は、もー…しばらく見たくない」



 皆の心中を告げたのは、私―――――ではなく、チャラ男であった。


 本当に昆虫系の魔物が苦手なようで『足とか、口のキモさの意味わかんないし、生理的に受け付けないし』とか、甘ったれた声でブツブツと呟いている。


 いい年の男が膝を抱えて、軽く涙目で、地面に妙な模様を描きまくっている。

 

 民間療法ならぬ民間で伝わる魔物避けのおまじないらしい。


 丸の中にN書いて、中央にNを中心から十字でぶった切ったような簡単な図形なので、どうやら威力は小さいと微々たるもので、ほとんど効果はないようだ。 

 本来は、もっと複雑なんだとか。


 えんがちょ!とか、そんな気休め的なあれかね?


 ジークが少し遠い目でチャラ男に視線を向けていた。


 既に結界石を設置したので、そうそう魔物は寄ってこないはずだけど、まだ蜂が周囲に若干いるようで、羽音が聞こえる。



 戦闘中まったくみた記憶がないと思ったら、隠れて精霊魔法の術を組むだが、呪文を唱えていたとかで、最後に蜂を大量に仕留めた落雷が、チャラ男の仕業であったらしい。


 戦場に奔る雷撃の後、残った蜂は少ないもんで、殲滅戦はあっという間だった。

 倒し漏らした蜂がいるせいか、ステータス画面はまだ赤いままだが。

 


 ……うん、というか、普通に吃驚ししたよ。



 チャラ男、意外とやるじゃん!とか感心してたけど、広範囲の魔法は女王蜂の魔法よりも溜が必要らしく、時間はかかるし、集中が乱れると精度が落ちるし、発動しないこともあり、一日一発が限度らしいのだ。

 魔力切れな上に、立ち上がると眩暈が酷いらしい。


 冷静に読み返せば、戦闘ログにもなんか書いてあるが、チャラ男ノーマークであった。


 私は幾つかの魔石で最低限回復したので、そうでもなかったのだが、女王蜂との追いかけっこで最初の一撃を交わし損ねたあれが、酷いことになっていた。

 

 脳内アドレナリンが出ていたようだが、気が付いたら普通に痛かった。


 近くに居たロリコーンを避け、即座に姉に駆け寄り、残りの魔石をすべて渡したのは言うまでもない。

 

 その後も、姉は地道に兄や騎士たちを回復したりと大忙しだ。


 姉はまだしも、この一戦で兄の装備は、ボロボロだ。 


 防具の及ばない場所に蜂の羽や針の鋭さにやられたのか、出血もかなり凄いが、それ以上に動けなくなるほどの致命傷を一つも喰らってないとか鬼である。

 

 だけど、防弾チョッキの上から銃弾喰らったくらいの衝撃が一々あったらしい。


 姉が『出血の割には傷が少ない!』と隠してるんじゃないかと疑っていたが、兄は当然といわんばかりに『回復しながら、戦った』とか告げた。


 息継ぎ大変だったとか、どんだけだよ、兄よ。


 でも結構な出血+魔力だいぶ使ったので足元フラフラ。


 ちなみに最後に手が燃えたのは、これだけ炎使って攻撃してるんだから、ちょっと頭の良い女王蜂なら怯むだろうという+炎付与状態で攻撃力UPを狙ったようだ。


 それにしても、自分の手燃やすか、普通。


 後、女王蜂の攻撃が超音波系か、風系かわからなかったが、腕吹っ飛ぶぐらいの覚悟だったとか。しばらく右手からぷすぷす煙あがって、火傷が酷いことに。



 もう少しだけ、私が―――――口にも、顔にもださなかったが、無言で兄はわっしゃわっしゃと、私の頭を撫でた。



「死人なし、意識不明の重傷者なし、生き残ってりゃ、俺たちの勝利だ――――終わり良ければ総て良し、だろ」



 ……うん。たぶん、勝利なんだろう。


 キラキラの笑顔で、姉の所で回復受けているが、予想外にダメージは大きかったのか女王蜂から百人切呪詛刀ひゃくにんぎりじゅそとうを回収し忘れているけどな。



「まぁ、もうちょっと大人しくしてれば、女王蜂に狙われることはなかったんだろうが」

「ん?」



 なんでだ?

 確かに狙われていたが、巣を攻撃しまくったからかと。



「んん、なんつったらいいか……女王蜂は知能あるだろ?だから、こっちの集団を指揮している人間を真っ先につぶそうとしたんじゃなかろうかと。いわば女王蜂的なポジションの奴を、な」


 

 そういや、最初の風魔法の警告の時も見られてた感はあったような気がする。

 沈黙している女王蜂の視線を送り、肝を冷やした。


 つか、無駄に知能のあった女王蜂の誤解で、マジやばかったんだな、私!




  +  +  +




 しかし、大成果といっていいのかわからないが、兄が言った通り、こちらの死者は0人で、言うまでもなく全員満身創痍であったが、重傷者はいない。


 怪我が酷かったのは額辺りを裂傷した金髪騎士と、背後から蜂に針で何度か刺されまくった弟子で、鎧の隙間から二か所ほど深く刺されたらしい。後、正体不明のロリコーンの友のムキムキエルフは、回復が間に合わないほど、針は勿論、鋭い羽に傷ついたようだが、鋼のように鍛え上げられている体のせいか、致命傷には至ってないらしい。


 とはいえ、ロリコーンも魔力的にお疲れだったらしい。


 内容の会話かは別にして、ムキムキエルフと会話が成立しているようだ。   



「へいへい、ちょいまち」



 と、ムキムキエルフがどこからか鳥の羽のようなものを出すと、それで何が起きるのかと緊張している金髪騎士の眼前のロリコーンの鼻を擽った。 



 ぶえっくしょん!!!



 そんな効果音と共にロリコーンがくしゃみ(!?)をすると、飛び散った涎と鼻水が金髪騎士の頭から、べっちゃりと浴びた。 


 じゅわああ、と水蒸気のようなものを上げて、超回復する金髪騎士の頭部の怪我の図である。 


 ユニコーンって、血とか涙とかが不死の薬の材料とかになるって話とか、ゲーム設定でよくあるけど、鼻水と涎かよ!と内心、突っ込んだのは言うまでもない。


 誰か、つっこもうぜ。

 

 私的にはトラウマの残る回復方法だ。

 ロリコーンに回復を頼まなくてよかったと心の底から安堵である。


 たしかに怪我もしていないのに肌傷つけるとか、何にもないのに泣けとか難しい話でもあるのだろうけども、もうちょっとなんかないのか。


   

「あ、ありがとうございます!ユニコーン様!」



 感謝している金髪騎士は、出血多量で意識が朦朧としてたに違いない。


 異世界人との感覚の差かと思ったが、鎧を外して準備していた弟子が、引き攣った笑みを浮かべ、いそいそと姉の方に近づいていくところを見ると、個人差だろうか。


 即座に爺師匠(どS)と、ラ・イオ(親切心?)に取り押さえられて、くしゃみられていたが。

 そして手にかかったと爺師匠(どS)が、弟子に擦り付けていた。

  

 右手の甲が行方不明にもなったが、探しにいっても無駄だろうと思ったがジークが探してきてくれたようだ。

 

 ぐしゃっとなってるかなと思ったが、外側の攻撃に対し『く』の字に曲がっていた。

 べこべこだし、使い物にならないだろうと言ったら、ドワーフ親方に直してもらうし、いい素材なので勿体ないとの話だ。


 細剣は私が持っているよりも有効的に使うだろうし、金髪騎士に帰りまで預けることにした。


 ここから、また馬車まで帰るのかと思ったら、うんざりするが。

 



「……――――なに、この半端ない雄率の高さ」




 改めて、なにその第一声、だよ、ムキムキエルフ。

 こっちで勝手に助けたといえばそう―――主に兄と騎士団と冒険者共―――だが、ほとんどロリコーンと、変わんねぇじゃん。とんだご挨拶だよ。


 つか、こんな危ない森に、人型の女が沢山いるとは思えん。


 ご丁寧にため息を零された上に、『しかも女は、幼女とか!お前の領分じゃねぇか!』とロリコーンに向かって吠えているが、奴も負けじと嘶いている。


 たぶん、『わっちの領分でもないよ!?』などと返しているのだろう。


 画面を見なくとも大体想像がつくのが、逆に嫌だが――――少なくとも、我が血縁の一名の心証はよろしくないと思われる。


 仕方ないんだよ、姉。

 たぶんムキムキエルフは、エルフだからかなりの年齢なんだろうし。 


 ささっと、ロリコーンに現状を説明してもらっているらしく、鼻を突き合わせていたが、近場にいたジークが金髪騎士の回復の礼ついでに話しかけた。



「俺の名はフランチェスカ!見た目どおりハイエルフだ!」



 『フランチェスカ!?』『見た目どおりだと!?』という、全員分の冷ややかな視線の突込みを軽やかにスルーして、分厚すぎる胸板を反らした。


 エルフなのに、かなり体格がよく、戦闘スタイルは徒手空拳と魔法?とか斬新すぎる。

 むしろ、新たなジャンルを開拓しなくてよかったのにな。


 どこをどう頑張り過ぎたのだ、エルフ遺伝子よ。


 びしぃい、と親指を自分に向けている姿はどう見ても、脳筋っぽいんだが……普通、エルフって魔法使うために知力特化とかまで言わんけど、高いんじゃないの?


 話に加わる気はないので&加わっても対して変わらないだろう。

 その分、ロリコーン対策として眼鏡を兄に渡して、魔石探しに没頭しよう。


 姉も魔力不足&攻撃用の魔石が少ないことがお気に召さなかったようだし、悲惨な戦場を料理長と共に俳諧していた。


 上手く言葉にできない私の話を、微笑みを浮かべて聞いている。

 燃え残った蜂の巣から、蜂蜜を採集しつつだが。


 

「女王蜂の攻撃といい、蜂の巣といい、ミコ殿は戦場を広く見ているというか、感覚が鋭いともうしますか……」 



 ログがあるから気が付いただけで、確実に買いかぶりすぎだろう。

 レベル上がってるから、素で直感200越えしてるし。


 魔石切れのはずだったのに七色の女王の弓(レディレインボー)を使えるようになったのは、やっぱり料理長と、弟王子が二人で蜂一体ずつ地道に倒していたらしい。


 ……放心状態だったが、持ち直したのか。


 ちらりと、視線を送ると、手振り身振りの大きい騎士(目つき悪)と腕を組んだ妖精に何か言われて―――大方、王子なんだから、戦闘にでしゃばんな!とか言われてるんじゃないだろうか―――しゅんとなっていたが、顔色はさきほどよりも良いだろう。

 

 ちなみに、蜂の巣に拳大の炎を放ったのは、兄じゃなかった。

 実はドS師匠らしい。

 


「少々性格に難がありますが、あの人は機転が利くし、度量もありますよ」



 ………しょうしょう?本当に、少々?


 魔石を探すのを止めて、じと目で訴えると、料理長は視線を泳がせ、『こ、香ばしい蜂蜜になりそうですね』とさっそくイシュルス蜂の蜂蜜を舐め、誤魔化した。


 狡くないっすかね、それ。


 いや、舐めてみろとおすすめされても……はぁ、そうですね、蜂蜜を使った料理となると、隠し味程度で、ケーキとかクッキーあたりじゃ――――あ、ため息とか、すみません。どこぞの暴君が蜂蜜マドレーヌが好きだと、厳重に封印した記憶の中から蘇って。


 などと、意外と料理長相手だと料理の話だと成立する世間話?をしていると、脛の下の方に何かが辺り、当たった。

 

 視線を向けると、何かの破片のようなモノがプカプカと浮いていた。

 それも、結構な数だ。  


 キラキラとしており透明度の高い飴色の硝子を思わせるが所々に黒い線が入っており、手にした質感は薄いのに硝子より固く、軽く小突くと金属のような音が響く。


 

「おや?蜂の羽ですね。こんな風に、っと」



 小首を傾げていると、蜂蜜の採集が終わったのか、料理長が告げた。

 

 蜂の背中の部分の短剣で、ざっくりと切り落とし、手に持つと、水平を保ったまま1センチほど浮かび上がった。


 そのまま安定せず、風見鶏のようにくるくる左右に回っている。

     

 どうやら蜂は魔力で飛んでいるらしく、特に羽の部分は魔力を流せば浮かばせられるらしい。

 大きさを浮かべられる魔力がまだ残っている破片で、内包している魔力を消費して無くなると、地面に落ちるようだ。


 なので砕いて、魔力を消費しても軽減が必要なものに使用されるらしい。

 高級馬車の塗料とか、無論防具や大型の武具とかも。 


 後錬金術の素材とかで使われるので、蜂蜜ほどではないにしろ、いい値段で取引されるらしい。


 ちなみに蜂の針も素材らしいが、毒になることを前提になら取れるとか。

 毒袋と呼ばれる部分が最も高価らしく、そこは専用の分厚い手袋がないと命の危険もあるようで、採集えきないそうだ。


 いや、針もやめておいた方がいいかと。 


 料理長も同感だったようで『食べる部分が蜂蜜しかないのは悔やまれます』と告げると、蜂の羽を根元から短剣で切り取っている。  


 飴色の羽をじっと見つめていたが、私も興味本位で魔力を注いだ。


 今日の成果として、父と母に見せてやろうか。


 ハンドパワーです!種も仕掛けもございません!(魔力のみ)とか、手品っぽく……とはいっても、母ほどの凄い手品は使えないだろうけど。

 

 さして魔力を流していないのに1センチどころか、5,6センチ浮かんで、すぐに緩やかに回りだし――――こ、高速回転だと!?


 なんとか魔力の注ぎ具合で、回るのを止めようと試みるも意外と難しかった。


 チェーンソーみたいに回転するのは、どうやら注ぐ魔力が均一ではないかららしいく、一定の量で綺麗に注ぐとぴたりと止まった。

 

 右に大目にすると左に、左に大目にすると右に。


 帰って練習すれば、もうちょっとマシになるだろうと、私は蜂の羽の欠片を幾つかポケットにつっこんだ時だった。

 


「―――っ、え?」

 


 どこからか強い視線を感じて、ぞくりと身が震えた。

 正体がわからず、身構えたが特に周囲になにもあるようには思えない。


 キョロキョロとしていると、ジークと目があった。


 ふと、連続攻撃の時の声のお蔭で、女王蜂の攻撃を喰らわなくていいことを思い出し、礼を言わねばと脳裏に過った。

 

 マドレーヌ、二つぐらいという思考は、ふわりと流れる風に途切れた。


 周囲の草木が揺れていないというのに、なぜ私の周りだけ、風が吹いているのか。


 ジークの両目が見開かれ、真っ青な顔で口を開く。

 声にならない絶叫と同時に白刃を押しのけて、切迫した様子で私に向かってジークは走り出す。


 『後ろ』と、ジークの唇が動く姿が、やけにスローモーションに見えた。




 ドンッ




 振り返るより、先に背中に何かが当たった。

 誰かが体当たりしたような強い衝撃で、前によろめき掛けたが、転ぶことはなかった。



 グシャリと、何かが破られたような音が耳元で聞こえた。


 

 左肩が燃えるように熱い。


 振り向きかけた視界の端に、ちらりと記憶にある棒のようなものが入る。

 刀の柄――――たぶん、兄の百人切呪詛刀ひゃくにんぎりじゅそとうなんじゃないだろうか。



 なぜ?


 どうして?



 女王蜂に刺さったままの兄の刀が、私の背後に。


 左肩が引っ張られているように浮かび上がり、小枝を踏みつけ折れたような、メキッという音が―――――体内から(・・・・)聞こえた。


 遅れて赤い飛沫が、眼前を染める。


 怖くなるくらいの鮮やかな朱色が、彼岸花が散る様だなと、他人事のように思った。


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