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岸田家の異世界冒険  作者: 冬の黒猫亭
三日目 【冒険者の卵】
96/119

Act 25. vsイシュルス女王蜂 2

 これは不味い―――贔屓している野球チームのライアンツが九回の裏のツーアウト満塁で四番が三振取られて、相手チームに負けた時の叔父の気配くらい、やばい。



 残念ながら、女王蜂に対する対策は練られていない。


 料理長の反応から予測すると、女王蜂は並の蜂よりも強いが、前線の師匠爺と白刃の働きがあれば、さしたる問題がないと判断される程度のものだったのだろう。


 しかし、現実は無常だ。


 魔法を使ってくる上に、高い知能を持っている。

 先ほどよりも数を削いだとはいえ、統一性のない特攻が無くなり、まるで兵士のように足並みそろえて的確に襲ってくるのだ。


 今は、均衡している戦況ではある。


 師匠爺と兄の快進撃で、なんとかという状態だ。

 時点で、ラ・イオ。

 その次ぐらいにジークが食い込んでくる。


 ログは相変わらず瞬く間に動いているが、それに、こちらが攻撃を受けたというダメージ表示も混ざるようになってきている。


 しかも、幾度か攻撃を受けたスキンヘッドと弟子が、毒状態になっている。

 どうやらレベルの高い蜂は、毒持ちらしい。


 

 かなり、まいった。 



 そもそも数の暴力で来られると、ひとたまりもないから、『8.17作戦』で数を削ったのだ。


 これから敵の援軍が半端なく来るよ、と言われたに等しい。

 士気が下がるのは間違いない。


 元々、こちらの方が不利なのは、明白なのだから、一気に戦況がひっくり返るだろう。


 落下で損傷しているものもあるが、それでも蛹はかなりの数だ。

 こちらの方向から見える部分だけという注釈だが。


 おまけに、魔法を使うイシュルス女王蜂。  



 撤退の二文字が脳裏を過る。



 しかし、それは簡単なものじゃないだろう。

 数が数だし、ユニコーンに出会った時のジークと同じ決断をせねばなるまい。


 殿に立候補したところで、力量不足と年齢を理由に一蹴されるであろうし、弟王子なぞ罪悪感から立候補しそうで怖い。


 せめて毒持ち二人だけでも、回復したい。


 解毒剤は料理長が持っている可能性があるが、身を翻せば蜂を連れて帰ってしまうだろう。

 姉の護衛の料理長を招き寄せるのも、ダメだ。

 

 かといって、このまま敵の数を増やすのは避けたい。



 せめて、なにか一手が――――……



 瞬き一つで、青白い光が視野に割り込んできた事に気がついた。

 



 === 【命育の子守唄】発動、33秒前

 === ユニコーンが【初級解毒(アン・ジバブル)】を発動しました

 === ベルルムが解毒されました




 疾走するユニコーン。

 あの氷柱みたいな角が発光していた。




 === 【命育の子守唄】発動、30秒前

 === ユニコーンが【初級解毒(アン・ジバブル)】を発動しました

 === タロウが解毒されました




 あ、働いてたんだ――――むしろ、存在を忘れてたわぃ!!




 === ユニコーンが【中回復微継続フェーブル・トレト・ビュー】を発動しました

 === フランチェスカが回復されました

 === 【命育の子守唄】発動、27秒前

 === ユニコーン【無毒化(ジブルブル)】を【中域(ベース)】で発動準備中!




 つか、誰だよ、フランチェスカって。

 まさか、妖精さんの名前か?イメージだけど、あんな感じの裏方さんって、自分の本名隠して、コードネームで呼び合う感じがするし。


 いや、でも女の人の名前っぽいし、妖精、女の人だったというオチ?

 筋骨しっかりしているし、普通にオッサンに見えるんだけど?


 ま、それらは後回しにしよう。


 私と同じように数匹の蜂をお供に戦闘区域の周囲を遠巻きに、パカらっているようだった。

 そうか、だから蜂の毒にやられる奴が二人しかいないのか。


 てか時折、戦場付近に、料理長の姿が見えるような、見えないような――――っつか、きっちり姉守れや、ごうら!!


 戦場に姉が出てきてないから、安全圏にいるのだろうけど。

 なんかやらかしそうで、超不安だ。


 ともかく、蜂のほとんどが毒持ちだったら、全員毒にかかってもおかしくないし……てっきり確率で毒に、かかっているのかと思ったけども。


 ユニコーン、もしかして意外と、友達のために頑張ってるんだな。



 ちょっと、ほーんのちょっと見直し――――………



 

 NEW 【やべぇ!わっち、今カッコいい!今、世界で四番目にイケてる!逆さ吊りのピック・ブランィー兄弟と、馬鉄拳法オロロン師範の次にイケてる!今、物凄く輝いている!見よ、このわっちの雄姿!特にぴっちぴちギャル(5歳~16歳まで)、三百人に見てほしい!誰か、わっちの雄姿を動画記録水晶ハディカム・クリスタルでとっ】




 ……――――どころか、安定の株の暴落っぷりだ。

 

 本日の株価の暴落っぷりを記録したかもしれない。

 むしろ、異世界の人物で最低値の可能性もなきしにもあらずだが。


 いつか、絶対メール機能を停止する方法を探ろう。


 もしくは必要でなければ、『ユニコーンの前で眼鏡をかけるな』という家訓を岸田家に作らねばなるまい――――主に私の精神のために。


 この異世界の人間は、意思疎通ができないからと、ユニコーンの外見に騙されているような気がするのは私だけだろうか。


 ユニコーンに英雄が載っている話とか聞いたら、色々な意味で吹き出す自信がある。

 もっとも、世の中のユニコーンはもっとまともで、あれが特殊だという可能性もあるけども。


 ともかく、ユニコーンの魔力が切れるまでは、なんとか安全か。


 攻撃を100%と躱さなくてもいいので、大分、動きが楽になる――――まぁ、当然痛いのは嫌なので極力避けるけど、回復があるなら傷も癒してもらえるだろうし。


 かなり数が多いが、やるしかない。


 加速しようと足に力を込めた――――その刹那。




「ふっ、かぁああああぁぁあぁぁああっつ!!!!」




 鈍い打撲音と共に、大気がビリビリするほどの大音声。

 

 蜂がドーム状に群がっていた部分が内側から、爆発でもしたかのように爆ぜた。


 あそこって、ロリコーンの――――いや、ユニコーンのお友達が結界を貼っていた場所じゃないのか?あれ、毒にやられ……ん?ロリコーン、そもそも毒回復できんだろ?


 あ゛ん?もしかして、近寄ると蜂の集中砲火になるから、見捨てたのか!?

 確かに共倒れは目に見えてるけどさ!?


 


「あぶっ!!」




 考え事してたら、ひゅんと音がしそうなほどの速度で、眼前を蜂の頭部が横ぎった。

 

 つうか、蜂の身体の一部分が周囲に飛び散って、違う意味で戦況が混乱し――――もろにジークの腹部に蜂の胴体が!身体がくの字に!あぁ、弟子の顔面に足が!鼻血でてんぞ!うわぁあ!羽が!蜂の羽が木に刺さって、ひぃいっ!!意外に硬いのか蜂の羽ッ!!


 よかった集中砲火を受けなくて。


 無差別なので近隣の蜂にもぶつかっているので、完全に攻撃と化している。



 たしか結界が使えるとか言ってたから、もしや魔法使い?

 今のも魔力っぽい感じしなかったけど、なんか威力のある魔法??



 炸裂した蜂の残骸という名の攻撃を繰り出した中心に、男の姿。 


 ロリコーンの友は人型だったのか。


 姉が羨むほどのキューティクルなのだろう。

 サラサラのストレートの襟足の長い金髪が風圧に靡き、その隙間からツンと尖った耳が現れたのが見えた。



 ――――ま、まさか、ロリコーンの友達って、エルフ!??



 ならば、今のは普通の魔法ではなく、エルフが使用するテンプレ的な精霊魔法か!

 だから、魔力を感じなかったのか!


 ファンタジー世界にいったら会いたい亜人のアンケートを集計したなら、獣人と並ぶか、一位を得るであろう種族に、戦場であることも忘れて、ドキワクしてしまった。


 エルフは老若男女、眩い美貌を持つ、高潔な種族である。


 草食系か、超高圧的か、ツンデレか―――できれば、友好的な草食系を熱望したが、間髪入れずに後悔することとなった。



 彼は、あのロリコーンの友人だった。



 尖った耳がエルフであること示してはいる。


 たしかに面立ちは整ってる。


 が、想像していた中性的な印象は皆無で、男らしい戦士的な顔で、壮絶な笑みを浮かべた口元から牙のような八重歯が覗き、水色の双眸には強烈な闘志。


 どうすれば、そんなになるのかわからない太い首に筋骨隆々の肉体。

 たぶん、スキンヘッドといい勝負だろう。 


 その筋骨隆々のエルフが、まるで格闘ゲームのワンシーンのようにアッパーカットの体制で、大地から私の胸元ぐらいまで、飛び上がっていた。


 完全に、昇○拳である。


 後、もう一度言っておこう――――彼は、ロリコーンの、友人、である。




「この俺様の勇士を見守ってくれっ!主に百四十歳以上の熟女(マダム)達よ!」




 戦場に、野太い蛮声が響き渡る。


 ガラガラと、ユニコーンに続き、エルフという種族に対する淡い憧憬が、こなっごなに、崩れ去ったということを、明記しておこう。



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