Act 25. vsイシュルス女王蜂 2
これは不味い―――贔屓している野球チームのライアンツが九回の裏のツーアウト満塁で四番が三振取られて、相手チームに負けた時の叔父の気配くらい、やばい。
残念ながら、女王蜂に対する対策は練られていない。
料理長の反応から予測すると、女王蜂は並の蜂よりも強いが、前線の師匠爺と白刃の働きがあれば、さしたる問題がないと判断される程度のものだったのだろう。
しかし、現実は無常だ。
魔法を使ってくる上に、高い知能を持っている。
先ほどよりも数を削いだとはいえ、統一性のない特攻が無くなり、まるで兵士のように足並みそろえて的確に襲ってくるのだ。
今は、均衡している戦況ではある。
師匠爺と兄の快進撃で、なんとかという状態だ。
時点で、ラ・イオ。
その次ぐらいにジークが食い込んでくる。
ログは相変わらず瞬く間に動いているが、それに、こちらが攻撃を受けたというダメージ表示も混ざるようになってきている。
しかも、幾度か攻撃を受けたスキンヘッドと弟子が、毒状態になっている。
どうやらレベルの高い蜂は、毒持ちらしい。
かなり、まいった。
そもそも数の暴力で来られると、ひとたまりもないから、『8.17作戦』で数を削ったのだ。
これから敵の援軍が半端なく来るよ、と言われたに等しい。
士気が下がるのは間違いない。
元々、こちらの方が不利なのは、明白なのだから、一気に戦況がひっくり返るだろう。
落下で損傷しているものもあるが、それでも蛹はかなりの数だ。
こちらの方向から見える部分だけという注釈だが。
おまけに、魔法を使うイシュルス女王蜂。
撤退の二文字が脳裏を過る。
しかし、それは簡単なものじゃないだろう。
数が数だし、ユニコーンに出会った時のジークと同じ決断をせねばなるまい。
殿に立候補したところで、力量不足と年齢を理由に一蹴されるであろうし、弟王子なぞ罪悪感から立候補しそうで怖い。
せめて毒持ち二人だけでも、回復したい。
解毒剤は料理長が持っている可能性があるが、身を翻せば蜂を連れて帰ってしまうだろう。
姉の護衛の料理長を招き寄せるのも、ダメだ。
かといって、このまま敵の数を増やすのは避けたい。
せめて、なにか一手が――――……
瞬き一つで、青白い光が視野に割り込んできた事に気がついた。
=== 【命育の子守唄】発動、33秒前
=== ユニコーンが【初級解毒】を発動しました
=== ベルルムが解毒されました
疾走するユニコーン。
あの氷柱みたいな角が発光していた。
=== 【命育の子守唄】発動、30秒前
=== ユニコーンが【初級解毒】を発動しました
=== タロウが解毒されました
あ、働いてたんだ――――むしろ、存在を忘れてたわぃ!!
=== ユニコーンが【中回復微継続】を発動しました
=== フランチェスカが回復されました
=== 【命育の子守唄】発動、27秒前
=== ユニコーン【無毒化】を【中域】で発動準備中!
つか、誰だよ、フランチェスカって。
まさか、妖精さんの名前か?イメージだけど、あんな感じの裏方さんって、自分の本名隠して、コードネームで呼び合う感じがするし。
いや、でも女の人の名前っぽいし、妖精、女の人だったというオチ?
筋骨しっかりしているし、普通にオッサンに見えるんだけど?
ま、それらは後回しにしよう。
私と同じように数匹の蜂をお供に戦闘区域の周囲を遠巻きに、パカらっているようだった。
そうか、だから蜂の毒にやられる奴が二人しかいないのか。
てか時折、戦場付近に、料理長の姿が見えるような、見えないような――――っつか、きっちり姉守れや、ごうら!!
戦場に姉が出てきてないから、安全圏にいるのだろうけど。
なんかやらかしそうで、超不安だ。
ともかく、蜂のほとんどが毒持ちだったら、全員毒にかかってもおかしくないし……てっきり確率で毒に、かかっているのかと思ったけども。
ユニコーン、もしかして意外と、友達のために頑張ってるんだな。
ちょっと、ほーんのちょっと見直し――――………
NEW 【やべぇ!わっち、今カッコいい!今、世界で四番目にイケてる!逆さ吊りのピック・ブランィー兄弟と、馬鉄拳法オロロン師範の次にイケてる!今、物凄く輝いている!見よ、このわっちの雄姿!特にぴっちぴちギャル(5歳~16歳まで)、三百人に見てほしい!誰か、わっちの雄姿を動画記録水晶でとっ】
……――――どころか、安定の株の暴落っぷりだ。
本日の株価の暴落っぷりを記録したかもしれない。
むしろ、異世界の人物で最低値の可能性もなきしにもあらずだが。
いつか、絶対メール機能を停止する方法を探ろう。
もしくは必要でなければ、『ユニコーンの前で眼鏡をかけるな』という家訓を岸田家に作らねばなるまい――――主に私の精神のために。
この異世界の人間は、意思疎通ができないからと、ユニコーンの外見に騙されているような気がするのは私だけだろうか。
ユニコーンに英雄が載っている話とか聞いたら、色々な意味で吹き出す自信がある。
もっとも、世の中のユニコーンはもっとまともで、あれが特殊だという可能性もあるけども。
ともかく、ユニコーンの魔力が切れるまでは、なんとか安全か。
攻撃を100%と躱さなくてもいいので、大分、動きが楽になる――――まぁ、当然痛いのは嫌なので極力避けるけど、回復があるなら傷も癒してもらえるだろうし。
かなり数が多いが、やるしかない。
加速しようと足に力を込めた――――その刹那。
「ふっ、かぁああああぁぁあぁぁああっつ!!!!」
鈍い打撲音と共に、大気がビリビリするほどの大音声。
蜂がドーム状に群がっていた部分が内側から、爆発でもしたかのように爆ぜた。
あそこって、ロリコーンの――――いや、ユニコーンのお友達が結界を貼っていた場所じゃないのか?あれ、毒にやられ……ん?ロリコーン、そもそも毒回復できんだろ?
あ゛ん?もしかして、近寄ると蜂の集中砲火になるから、見捨てたのか!?
確かに共倒れは目に見えてるけどさ!?
「あぶっ!!」
考え事してたら、ひゅんと音がしそうなほどの速度で、眼前を蜂の頭部が横ぎった。
つうか、蜂の身体の一部分が周囲に飛び散って、違う意味で戦況が混乱し――――もろにジークの腹部に蜂の胴体が!身体がくの字に!あぁ、弟子の顔面に足が!鼻血でてんぞ!うわぁあ!羽が!蜂の羽が木に刺さって、ひぃいっ!!意外に硬いのか蜂の羽ッ!!
よかった集中砲火を受けなくて。
無差別なので近隣の蜂にもぶつかっているので、完全に攻撃と化している。
たしか結界が使えるとか言ってたから、もしや魔法使い?
今のも魔力っぽい感じしなかったけど、なんか威力のある魔法??
炸裂した蜂の残骸という名の攻撃を繰り出した中心に、男の姿。
ロリコーンの友は人型だったのか。
姉が羨むほどのキューティクルなのだろう。
サラサラのストレートの襟足の長い金髪が風圧に靡き、その隙間からツンと尖った耳が現れたのが見えた。
――――ま、まさか、ロリコーンの友達って、エルフ!??
ならば、今のは普通の魔法ではなく、エルフが使用するテンプレ的な精霊魔法か!
だから、魔力を感じなかったのか!
ファンタジー世界にいったら会いたい亜人のアンケートを集計したなら、獣人と並ぶか、一位を得るであろう種族に、戦場であることも忘れて、ドキワクしてしまった。
エルフは老若男女、眩い美貌を持つ、高潔な種族である。
草食系か、超高圧的か、ツンデレか―――できれば、友好的な草食系を熱望したが、間髪入れずに後悔することとなった。
彼は、あのロリコーンの友人だった。
尖った耳がエルフであること示してはいる。
たしかに面立ちは整ってる。
が、想像していた中性的な印象は皆無で、男らしい戦士的な顔で、壮絶な笑みを浮かべた口元から牙のような八重歯が覗き、水色の双眸には強烈な闘志。
どうすれば、そんなになるのかわからない太い首に筋骨隆々の肉体。
たぶん、スキンヘッドといい勝負だろう。
その筋骨隆々のエルフが、まるで格闘ゲームのワンシーンのようにアッパーカットの体制で、大地から私の胸元ぐらいまで、飛び上がっていた。
完全に、昇○拳である。
後、もう一度言っておこう――――彼は、ロリコーンの、友人、である。
「この俺様の勇士を見守ってくれっ!主に百四十歳以上の熟女達よ!」
戦場に、野太い蛮声が響き渡る。
ガラガラと、ユニコーンに続き、エルフという種族に対する淡い憧憬が、こなっごなに、崩れ去ったということを、明記しておこう。