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岸田家の異世界冒険  作者: 冬の黒猫亭
三日目 【冒険者の卵】
89/119

Act 18. 兄は仏じゃないから、三度ではない 

 関係なーい!

 私に関係ないったらない!


 


「も、もしかして―――ミィコ殿、ユニコーンの対話が可能なのですか!?」




 可能では、こざいません!!


 問われることすら我が名に傷がつくぐらいなので、全力で首を横に振っておく。


 『対話』はしてないので間違っていないだろう。強制的に受信しているだけなので、ユニコーン側からの一方的なものである。




「……あれね、電波系って奴ね」




 姉の言う事は間違ってない。


 主にユニコーンがナルシストでロリコンな電波系なのだから―――けして、けっして、私が電波系ではない!とこっそり主張しておこう。




「おい、坊主。俺達に敵意がないってことを言っておけ。こんな間近でユニコーンに興奮されてはかなわん」




 ぼ、ぼぅ――――この、くそじ―――失敬。


 ハーフダークエルフの糞爺様よ。失礼ながら、私はユニコーン対応窓口ではございません、このすっとこどっこい。後で覚えていろ。


 無言のまま、冷たい視線を送ると、器用に片方の眉だけ寄せている。


 


「ミィコ、ト言ッタカ?難シイノカ?」

「………すみません」




 やればできない事もなさそうな感じだけど………勘弁してください!したくありません!!みてください、この鳥肌―――て、別に袖めくってないけど。


 私は動物大好きを自負しておりますが。


 このナルシスト!

 このロリコン!

 この電波!


 外見を差し引いても、どこに愛すべき所があろうというのか!むしろマイナス!


 いくらモッフモフの可愛いウサギ様でも、中身がこれだったら、即効刃つきたてているわい!


 今、即効ナイフ投げつけないだけでも、十分頑張ってる、私!


 ユニコーンも興奮してるし、周囲の人間がなんやらいってくるので、兄に眼鏡を渡して、耳を押さえる。


 世の中には拒否権というものがある。

 ここで発動させずに、いつ発動させるというのだ。




「おっと、これは……」




 兄は私の眼鏡をかけると、珍しくほろ苦い顔になる。

 

 右手と左手を同時に空中で動かしながら、視線を世話しなく動かして、私の拒否の発動の意味を知り、ふぅ、と小さくため息をついた。




「悪いですが、ユニコーンさん。そのブラザーってのが、危険なのは分かりましたが……ちょっと落ち着いてくれませんか、断片的で話が飲み込めないですが」




 ひぃん!と、鳴くユニコーンの鼻っ柱は即、兄に向いたのだが、更に兄の両手と眼球の動きが早くなっているので、自重せずにドンドン、メールを津波のように送り付けているのだろう。


 傍から見ると、兄は妙な動きをしている。

 なんか、こう凄い早い曲の時の指揮者のようである。


 分からない人たちには、いっそう意味不明な上に怖いだろう。




「申し訳ありませんが……落ち着いてくれますが」




 兄の二度目の言葉は、ゆっくりと言い聞かせるように。


 苦い顔から、いつものキラッキラの爽やかな笑顔へと変化を見せるが――――眼鏡がなくとも見える、背後から立ち込める暗雲。



 ピピー、イエローカード二枚。二枚です。


 なんと試合開始から二分半と、兄審判の驚異的なスピードでの警告です。



 ちなみに私の中ではチャラ男がイエローカード一枚だとすると、ユニコーンはレッドカード三枚である。退場の退場の退場である。つまり、消えろといっても過言ではない。

 

 兄の圧力に、視線を彷徨わせるユニコーン。




「あら……なにかしら?」




 姉が不思議そうな声を上げる。


 振り返ると、とても冷ややかな目をしている姉が、『七色の女王の弓(レディレインボー)』なんぞをユニコーンに構えている。




「……これを放ったほうが、世界平和の為に良いような気がするんだけど」

「おぅ――――やめくださいぃぃぃぃ!!!」




 言った!言っちまった!

 ユニコーン絶対、今、姉のことも『年増』って間違いなく言った!



 恐るべきは姉の勘!!!



 慌てて、弟王子とチャラ男が止めているが、未だ構えている危険な状態だ。


 すんごい声を上げたジークがハラハラして、兄と姉を交互に見ている―――というか、主に姉を見張っている。兄とユニコーンの遣り取りも気になるんだろうけど。



 ふぅ……ここに母が居なくて良かった。


 母の場合は直感が働いた時点で、無言で放っているに違いない。 



 兄の手は諦めたように、ぴたりと止まった。


 こちらに顔を向けもせず、固まった爽やかな笑顔のまま、私に子犬でも追い払うように、しっしっ、と手を振っている。



 ちなみに、小さな疑問ではあるが、仏の顔が三度あると決めたの誰だ?




「い、一体何がどうなってるんスか?」




 私に聞くな弟子よ。

 なにが、一体どうなったか―――なんて知りたくも無い。



 だが私にも、皆に言えることはある。



 姉と視線が交わり、私が何を言うのか悟ったようで瞳を細め、姉は弓を構えるのやめると――――ユニコーンに背を向けた。


 







「――――総員、至急、安全地帯まで退避!!!」









 焦ったような姉が戸惑う弟王子の腕を引いて、走り出しながら『馬鹿!早く逃げなさい!』と怒鳴っている。



 試合開始5分でレッドカード。


 

 さすが異世界である。 

 私もこんな驚異的な速さで兄のレッドカードを見た事は無い。




「え、ま、いえ、何がっ!?」




 とりあえず、私も、死亡者を最小限にするためにジークと、近くに居たラ・イオさんの外套を掴むと引っ張って、兄に背を向けて走り出す。


 騎士たちは訳が分かっていないが、弟王子を追って、走り出した。




「……ヤハリ、力ヲセーブシテイタカ」




 振り返ったらしいラ・イオさんの呟きと共に、数メートル遠のいた背後から、ユニコーンの絶望的な嘶きと、ずどどーん、と大地を震わせるような音が響く。


 鳥達が一目散に飛び去る。


 つられて視線を送ると、巨大な木々が三本倒れていた。


 私一人では腕が回らないほどの大木が――――ユニコーンを囲うように。



 兄のレッドカードは普通の退場ではない。

 たぶん……察するに、この世から半分退場だろう。



 逃げ遅れ、大木に後ろと左右の退路を立たれ、白い馬肌を更に青ざめさせたようなユニコーンが、犬歯を剥き出しにして壮絶に笑う兄が対峙していた。


 ああいう所は、叔父と本質的によく似ている気がする。

 なんだか、改めて妙に実感した。



 駄々漏れの殺気と、ぎらりと怪しく光る『百人切呪詛刀』。


 それを握った手から、あの武器やで見たような赤いオーラのようなものが、ぶわり、と兄を包むほど広がったのが視野に入り、前を向いた。



 一キロちょっとを全力で走り続け、大丈夫かな―――主に森の生態系が―――と思いつつ、流れた汗を袖で拭う。


 この汗は、運動したから、というわけではないだろう。




 ひぃいぃいん。ひぃいいいいいん。




 遠くから、ユニコーンの悲痛な嘶きが絶え間なく響く。

 ついでに、なんか嫌な具合の音と………合間に兄の悪魔みたいな笑い声が。


 


「――――ったく、ああいうトコ、叔父さん、そっくりなんだから」




 姉が唾棄するように呟く。


 同じ感想を抱いていたらしく、思わず鼻で笑ってしまう。

 



「い、いったい……な、っ…なにが」



 

 あまり会話に口を挟んでこず、遠巻きにこちらを見ているだけの影の薄い妖精さんが、おびえた様子で、姉に問う。 

 

 髪をかきあげた姉は形の綺麗な眉を寄せて、ぼそりと呟いた。




「………ただの、逆ギレよ」



 

 そう……あれは兄の逆ギレである。いや、今回はただのキレかもしれないが。


 だが兄はあのハイパーなチート能力を使って、全開でキレるものだから、周囲への被害半端ないのだ。


 おまけに、ちょっと理性もプッツンしているので、周囲―――主に可愛い末の妹とか、可愛い末の妹とか、可愛い末の妹など―――が巻き添えを食らうのである。


 ちゃんと合図をするだけ成長だ。



 ちなみに、悪魔全開な感じの笑みが、若い頃……暗黒時代の兄なのである。

 しいていうなら、兄・旧バージョンとでも呼ぶか。

 

 昔の兄はなんというか、死に急いでたというか、盗んだバイクで走りたいよねというか、周囲の環境に反発していたような感じというか―――俺の居る場所はここじゃねぇぜ!みたいな目で、いっつも遠く見ていたというか。

 

 


「ぎゃく、ぎれ……」




 金髪が引きつった顔で、姉の言葉を反芻する。




「好きにさせとけば、収まるんじゃない………もう、橋から河にダイビングは勘弁してほしいわ」




 と、半ば投げやりな姉の声が、私に乾いた笑いを誘う。


 ………秋だったから死ぬかと思ったけどね。

 

 まさか、あれを強引に止めるとなると、父か、母か、叔父がいないと駄目だろう。私達姉妹では火に油を注ぎかねない。止まった事は止まったけどね。




「………彼の叔父も、そうなのか?」




 久しく口を閉じていたスキンヘッドが、姉に問うと無言で頷く。




「あ、うん……君達の家は、大変だな……」




 とスキンヘッドは我が家の境遇に同情したのか、涙腺を緩めている。



 ―――ちなみに、おまいらの王だけどな。



 ぽろっと出そうになる心の声を堪えて、視線を彷徨わせると、チャラ男とジークが若干青ざめていた。それはわかるけど、なぜか、妖精さんも。


 ついでに弟王子が怯えたように、ぶつぶつと『……ぐった……なぐ……』とか、言っているけど大丈夫か。


 


「ん?……なんか」

「どうした」

「―――っなんつーか、なんか忘れてる気がするんだが」



 

 妖精さんが問うが、腕を組んで金髪が不思議そうに首を傾げている。


 


「……あれでは、忘れるのも仕方ない」




 うーん、たしかに。兄のレッドカードが発令された時の笑顔?は、正直その日の予定を全部忘れてしまうぐらいの衝撃がある。


 『忘れるぐらいだから、たいしたこと無いんじゃなーいの?』とチャラ男が付け加えた静寂が訪れたが、私は密かに違和感に気がついていた。




 ――――実は、一人、足りなくない?




 なんだか痛いほどの沈黙が落ちて、遠くでは、いつの間にかユニコーンの悲鳴と兄の哄笑は聞こえなくなった。


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