Act 17. ユニコーン、はじめまして
皆は、こんな経験あるだろうか?
新しい携帯を買って、性能を学んだり、用もないのに電話かけたり、試しにメール送ってみたりと、楽しく過ごしている。
しかし何日か過ぎて、突如知らないメールが届く。
あれ?
登録してないけど、知り合いかな?
そう思って、開いたら――――なんと、迷惑メール!!
もう、最悪!
なんて、それを削除するわけだ。
だけど、それから数日、朝も夜も関係なく迷惑メールが。
しかも新しい携帯だから、マナーモードにか辛うじてできたのに、拒否設定がわからない。その上、今度はタイトルからして、口にするのも憚られるようなものばかり。
このURLを押したら、料金とか面倒ごと発生しちゃう!
わかっているのに、メールを止められない、この恐怖!また朝方三時とかにメールくるんじゃないの!?と慄くわけだ。
それを、まさか―――――異世界で味わうことになろうとは。
+ + +
カントリー風林檎ケーキを分け終えて―――弟王子よ……いつのまにか近距離に移動してきて、ガン見するのはやめて―――馬の鳴き声と共に、眼前に新たに出てきたウィンドウが現れた。
イシュタル神からよりも、開けるのを躊躇うタイトルであった。
NEW 【誰か!誰か、たす―――野太い声が聞こえたけど、できたら5歳から、16歳ぐらいまでの、新鮮乙女で、お願いします!いえーすろりろり!のーたっち!ぎぶみー!今ならもれなく、お礼にわっちの鬣付!―――けて~!!】
………これは、黙殺してもいい部類のメールだろう。
完全なる迷惑メールである。
マップ画面に青い点が端っこから入ってくる。
馬の鳴き声から察するに、たぶん送信者が馬に乗って近づいてきているだろう。
「ミコ」
情報を求める兄に、簡潔かつ正確に流した。
「一つ、青、変態」
完璧である。
この少ない情報ではあるが、聖徳太子のごとく、容易に兄ならば理解するだろう。
私はメールを開けることなく、カントリー風林檎ケーキもどきを齧った。
その時である。
ひひーん、と再び、馬の嘶きが、近くで聞こえた。
NEW 【や、やべ!久々に森で全速力したから、わっちの自慢の金髪に、小枝に絡まってびびった(笑)風魔法で粉砕したけど、その破片、日頃からお手入れしている美しい白いお肌に当たって痛かったし orz 明日青痣になってたらお婿にいけない!美少女(5歳~16歳まで)よ、傷ついたわっちの繊細な心をいやし――――】
しかも、ロリコンな上にナルシストか!!
タイトル長すぎ!しかも、タイトル長すぎて途中で切れた!
まさかの、イシュタル神を上回るウザさ!
タイトルでこれなら、本編の長さはいかほどになるというのか。
背筋に走る嫌悪感を我慢し、全世界の可愛い少女たちの為に、私は立ち上がった。
まだ見ぬ、従姉妹マドレーヌ―――たぶん、弟王子の妹なのだから、超美人には間違いないだろう―――と、ルイの為にといっても過言ではない。
が、現れた馬の上に騎乗しているものはいなかった。
馬はよく見ると、ファンタジーではお約束の角の生えたユニコーンである。
ただ角が透明で、鬣が金髪の白馬。
髪の毛→鬣。
白い肌→白馬。
送信者は、お前か!!!と突っ込みは当然であった。
金髪騎士の慌てっぷりから、やっぱりテンプレ的に、神の使いとかで保護されちゃっているようだった。
NEW 【やっとついたぜ!さあ、美少女達よ!わっちの話を聞いてくれ―――って、むさ!むっさい!むせい!驚きで三段活用しちゃったよ!なんて、雄率の高さだ!!すごい雄の匂いしかせんわ!わっちを窒息死させる気か!】
やっぱり、このメールが見えているのは、私だ―――
NEW 【なんてことだ……この世に神はいないのか!!とくによぅじょな女神は!というか、わっちはそれ以外、神とは認めん!というか、やだやだやだ!】
もしかしたら、兄もメガネをかければ見え―――
NEW 【ノンノン、呼ばないでエルフ!あいつら天然の若さじゃねぇんだよ!?実際はすんごいんだよ!?十歳ぐらいの容姿で、50歳近いとかだよ!?おまけに横暴なんだよ!】
早っ!メール、早っ!
つーか、思考駄々漏れなんですけど!?
タイトルですら、全部読み終わる前に新着表示されて、前のメール流れるし!
NEW 【つーか、わっちの話、誰も聞いてねぇし!なに身内で相談しまくってんだよ!おまいら雄の尻を追っかけなければいけないなんて、どんな拷問!猿人なんて、おそわねぇよ!?雄なんておそわねぇよ!?美少女なら違う意味で美尻追いかけちゃうけど!?】
なんか嫌だ。
この馬の意思が分かるとか、身内に告げるのが嫌だ。
むしろ、私の名誉に傷がつくから!
面倒な争いは避けるに限るが……ヤダ。
できれば、このまま華麗にスルーしたいんですけど。逃げるの大賛成!
NEW 【いや、雄どもだが、わっちは頑張るよ!我が友の危機の為に今立ち上がって頑張るけども、雄相手に……ってか、なんで森の中に美少女の一人や二人や、十八人ぐらい落ちてないんだ!】
この危険な森の中に、普通の美少女がいたら、確実に死ぬわ!
すぐに奔って森の入り口目指すに決まってるだろ!
ってか、なんで十八人!
突っ込みどころが多すぎて……ん?ブラザー?助けてほしいってことか?
「ミィコ殿!下がって!」
途端に大きく嘶いたユニコーンに、ジークが叫び、私に手を伸ばす。
どうやら、どこか分からないが、また独り言を零したようだ。
しかし、先にやらねばならないことがある。
NEW 【お、うぉお!!!乙女じゃないのに、わっちの話が通じるのか!この年増は!!】
誰が年増だ!
私は、まだ十八歳だ!!
反射的に出た拳が、ユニコーンの横っ面を捕らえた。
そのまま、叫びながら、近くの木を前足で蹴っている。
NEW 【いきなり殴るなんて、しどい!!母様と、お婆様と、近所のさっちゃんと、ヴィオルドファングと、我が友と、出会い頭に、頬を舐めちゃった美少女のお父さんにしか殴られたことないのに!】
ジークからの問いもそこそこに、私は素早く兄の背後に逃げ込んだ。
心境的には、がくがく、ぶるぶる、である。メール機能が……悪徳業者に知れ渡ったアドレスみたいに、絶え間なく、メールを受信し続けている。
すまない、ルイとマドレーヌよ。強く生きてくれ。
この強敵に、私は勝てそうにありません。
私はそっと、眼鏡を外した。
=== ユニコーンは、脳内会議の結果、満場一致で、有害指定に決定いたしました。