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岸田家の異世界冒険  作者: 冬の黒猫亭
三日目 【冒険者の卵】
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Act 09. マドレーヌ姫の滋養強壮のご飯の材料を狩り隊

 料理長は悪くない。



 偶々放り投げたバナナの皮が誰かに拾われて、滑るように細工されたに過ぎない。

 だから、バナナを投げた人間に殺意を覚えるのはお門違いだろう。


 そうだな、兄。


 悪くない、料理長は全然悪くな―――って割り切れるか!



 なんてもん書いてくださったんじゃい!!第八十三回、岸田家裁判が開廷したなら、身体の自由を奪い、靴も奪って、足の裏を鳥の羽で十五分のコチョコチョの刑という重刑だ!


 いや、十五分など生温い!三十分は頑張るよ私は!笑いすぎて腹筋痛めろ料理長、と悪魔な私が囁く。


 隣でそんなのは駄目だぞ、と天使な私が囁く。

 

 身体の自由を奪ってから、目の前で料理長以外に美味しい料理を振舞うのだ―――おぉ!名案だ、天使な私!相手が食べたことのない異世界料理を―――料理人であるからこそ効くエゲツナイ―――ってなんで天使な私の方が残虐なのだ?


 きっと脈々と受け継がれている岸田家の血がそうさせた―――いや、今はどうでもいいけどさ!



 とりあえず料理長に髭を抜きにかかったら、兄に襟首捕まれて防がれた。

 


 今更ながら、兄姉に逆恨みする人々の気持ちがわかる。



 子供のころから空手一筋で連続で優勝していたのに三年の最後の空手大会の個人優勝を、本腰入れたのが一ヶ月ぐらい素人一年生の兄に負けたんで、せめて腹いせに兄をフルボッコにしたいぜ!とか。しかも素人一年生は、他のスポーツと掛け持ちしてるし。


 世界の女は俺に靡く!と信じてやまないナルシストが姉に告白して、完全玉砕。おまけに存在を忘れられていたなんて信じられん。女を使って悪巧みしちゃうぜ!とか。


 え~、それただの逆恨みやん。

 兄姉悪くないやん。


 なんて思っていたが、自分がなったら逆恨むわ!マジ許すまじ料理長!とその師匠!



 心の中の何かが、ばっきりと折れた気がするよ!この初期意思が一ケタ台の私の繊細な心は長距離移動で鞄入れっぱなしのポッキーよりもベキバキ折れてるわ!オマケにチョコの部分が解けて一部ポッキーが合体して、無性に食べずらいんだぞ―――料理長のせいだ!




「いや、それは、鞄から出すのお前が忘れたんだろ……混乱と怒りのあまり、本題がすり変わってるぞ」 




 兄姉チートすぎるわ!

 むしろ今は、兄姉を逆恨みしてきた彼らに同情するわ!


 同じ生活圏にいなければ、彼らも穏やかな外道生活?を送っていたに違いない!

 

 むしろ、『世界食用魔物大図鑑』がなければ、現代社会のありとあらゆる、ゆとりに甘やかされた私が魔物狩などという過酷な現場に、追い込まれることもなかったはずだ。




「アルケルトさん。暴走したら、この角度でな」

「は、はぁ?え?」




 ジークの間抜けな声。


 兄の手から襟首が離されたが最後。

 ひゅん、と鋭く空気を裂くような音と共に、首の後ろに衝撃で、強制終了(ザ・エンド)




 あ、この感覚って、何度目だっけ―――………


 





   +  +  +








 ………気分は落ち着いたというか、痛い。




 首の後ろが物凄く。




 HPとMP共に二割ほど減っている。

 たぶん、これでも気絶していた分回復したのではないかと思われる。



 よく、私の首が、兄の手刀で切って落とされなかったもんだ。



 きっと私は異常ステータス、ムチ打ちとかになっているのではなかろうか。


 ひゅん、ってもう手刀から繰り出される音ではないだろう。いつか兄は、人類がまだなしえてなかった手刀で岩を割るという業績を上げるに違いない。

 

 

 ――――って、可愛い妹を殺す気か!!!!



 馬車の中で膝を抱えたまま、私は痛む首を押さえたままで、兄をガン睨みしていた。



 出発時間過ぎてるし、メンドクサイ暴走だ。

 一度気絶させて、その間に回収してから、出発するか。



 みたいな、感覚で妹に殺人チョップを喰らわせるとは、鬼だよ鬼。流行の鬼嫁ならぬ、鬼兄だよ。鬼兄。ジークに伝授しようとしてない?


 分類魔物として、母に食材として認識されればいいのに。

 素敵な日々が送れること間違いなし。




「首は大丈夫ですか?ミィコ殿」

「あぁ、大丈夫ですよ。さすがに慣れてますからね、力加減は間違いませんよ」




 なぜかジークの問いに兄がキラキラ笑顔で答えるが、明らかに力加減を間違ってるよ。


 しかも慣れてるって、どんだけ私の首にダメージを与えてきたのだ今まで……一瞬で気を失ってても、完全背後からの襲撃なので、兄なのか、姉なのか、母なのか判別がつかないんだよ。



 多分、私のレベルが上がっていなかったら、救急車の手配お願いします、ぐらいの、虫の息だったと思うんですけど。


 しかし、気絶というのは偉大だ。


 パソコンを初期化されるが如く、頭の中が真っ白になる。

 そうすると、料理長への逆恨みなぞ――――思い出しても、髭十本ぐらいで許してやろうという気分になる。


 今度は兄への殺意が芽生えたけどね。




「馬鹿ねぇ、手刀で首が落ちるわけないじゃない」




 よしよし、と姉が慰めるように私の頭を撫でる。



 でも、まじ痛かったんだって。



 姉も一度経験してみればいいさ。でもレベル低いから危険だよ。首ぽろり、だよ。もしくは目玉飛び出すよ。





「そもそも、背後に立たせたのが悪いわよ」




 ご も っ と も。



 

 ってか、これ馬車?なんか可笑しくない?


 普通の馬車とは違って、地下鉄みたいに両サイドに座る場所があるんだけど、十人ぐらいのっているような気がする。



 姉、私、兄、ジーク、金髪騎士、スキンヘッド騎士、チャラ男、騎士(目つき悪)、料理長(殺)―――なんか、広い馬車の中だが、地下鉄よりも天井が低いせいか限りなくむさっくるしい。暑苦しい。


 姉以外の清涼さの発信源は―――弟王子??幻覚?手刀を入れられた後遺症か?



 てか、さっきの新キャラクター双子美少女は出オチ?

 てっきり、姉の影のようについてくるのかと思ったけど……本当に見送りだけ??




「お体は平気ですか」

「ん」




 いや、実際はスピードの遅いスクーターにはねられた程度の体感衝撃だから大丈夫。

 そんな純真無垢な青い目をうるうるさせられても困るから。


 でも冷静にはなったと思う。


 なんで、地獄行き往復馬車に弟王子乗ってんねん!という突っ込みを入れれるぐらいには冷静になった。




「あぁ。ゼルは、なんか一緒に行きたいって」




 なんて、お気軽にいってるけど、弟王子を守りつつ狩って大変じゃね?

 そもそも、弟王子足怪我してなかった?




「もう完治してる―――回復魔法だ」

「はい、おかげさまで」




 弟王子が微笑んでいる。


 なんでやねん、と思ったが、そうか、魔法か。忘れてた。

 なんか、一日とかで傷が治るって感覚がいまいち身に付かないものだ。



 

「王子は、第一騎士団長より手ほどきを受けております。怪我がなければ、並みの騎士の力量を持ち合わせております。幾度か騎士の巡回の同席されておりますし、経験不足ということはけして―――あれほどのゴブリンの集団は異例です」




 ごめん、弟王子……ジークが付け加えるが、貧弱な王子にしか見えない。

 

 怪我して動けなかった時の印象が強すぎるのだろうか。

 ゴブリンから逃げてきたとかの。


 それとも、私の強さの基準が兄だから感覚が可笑しいのか?

 



「ありがとう、ジークホーク……でも僕は、兄上ほどでは」




 兄上―――熊王子は人間の時も強かったんだ。

 てっきり、熊化したから強いのかと思ってたんだけど。




「僕には才能はないんです。時々、僕は本当に兄の弟なのかと―――」




 自嘲を浮かべる弟王子。

 それに悲しそうに眉根を寄せるジーク。




「王子…そんなことは……」

「すみません―――父母の不貞を疑うような真似を」




 言葉が見つからなかったらしいジーク―――慰め下手というか―――に、苦笑を浮かべ王子は素直に謝罪を口にした。


 

 先を歩む兄に対する劣等感。



 なにをしても兄には敵う事はない。 


 人がちまちま地道に努力してんのに、隣であっさり成功してんの見ると、苛ってするというか、ムカつくというか、自分が情けないというか―――わかる。


 ものすごい、その気持ちわかる。


 少ない小遣いをゲームセンターでガンシューティングに費やして、一位から十位までランキングを塗り替えてやったわ!よくやったな私!と達成感に酔いしれていると、偶々一緒に来ていた兄にものの三十分で一位から三位を完全に塗り替えられた挙句、MAXクリアーされたりするんだよね!使った金は五百円程度って!私は一ヶ月のお小遣い五千円も費やしたのに!やめて!一人で二挺銃って反則ですから!!


 ぬっころす!と何度思ったことか。


 絶対私が生まれる前に、母の腹の中で育つはずだった才能の全てとはいわないが、奪っていったのだろう。そして残ったものを全て姉が掻っ攫ったに違いない。



 ―――あれ、目から心の汗が。

  

 

 でもクレーンゲームで、ほしいものをガンガン取って貰ってる時は、素晴らしい才能の持ち主だ!とか思うんだよね。ただ取りすぎて、同じキーホルダー3個もあるけど。 



 一国の王子の肩を叩くのは馴れ馴れしすぎたのか、ジークは困った様子だったが、叩かずにはいられんよ。


 

 同類相憐れむだよ……あれ、使い方まちがってるっけ?




「え、いただけるんですか?」


 


 うん、とりあえず弟王子、飴でも食べて、元気だして。

 

 叔父さんが昔、言ってたよ―――弟や妹の勝利というのは、兄や姉よりも長生きする事だって。


 カラフルなセロハンに包まれた安物の飴を弟王子が物珍しそうに眺めている。


 


「これは……とても、綺麗ですね」




 ジークも物珍しそうに飴を眺めている。

 

 そうか、この世界には飴もないのか―――うん、今度は鼈甲飴を作るか。

 前に作ったことあるし、そう難しいレシピじゃなかったはずだ。


 うろ覚えだから、美味しいかわからないけど。


 私は自分の分を取り出し、王子に見えるように、セロハンを破り、中のオレンジ味の飴を口の中に放り込んだ。


 王子も同じようにセロハンを破る。

 葡萄味だったようで、透明な紫色の飴を指で摘まんだ。 


 しばらく眺めた後、意を決したように口の中に放り込んだようだ。






「――――お、美味しい!」






 ぱぁああ、と弟王子が笑顔になり、ほっとした瞬間―――馬車の中には、がりっ、ばりっ、という音が響き渡った。

 

 揃いも揃って素晴らしく頑丈な歯である。




 ―――……間違いなく、熊王子と弟王子は、兄弟ですね。


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