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岸田家の異世界冒険  作者: 冬の黒猫亭
三日目 【冒険者の卵】
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Act 07. 魔法の指輪

 何事も、シンプルが一番だ。

 

 見出しなど要らない、書くとしたら一文でいいだろう。


 あいにくと持ってきた荷物の中にはファンシーな猫たちが毛玉で遊んでいる模様の入ったメモ帳しかないが、これで十分だろう。


 もしこんな状態を想像できていたなら、もうちょっとましなものを持ってきたがあいにくと、持ってない。いや想像できていたら、むしろ凄すぎる。


 が、心は伝わるはずだ。



「先立つ、不幸を、お許し、ください…――」

「なっ、何を書いてるんだ!!いえ、書いてるんです!ミィコ殿!!」



 部屋を出て行ったはずのジークがいつの間にか入ってきている。


 いや、だって、こういうのはちゃんとしておかないと。

 

 もしかして、ダイイング・メッセージの方がよかっただろうか?

 まだ途中だが、書いておくか。



「実行犯は…魔物、主犯は…母…間接殺人事件…」

「違います!そうでなくて、私が守りますから、どうぞ安心してください!」

「報酬はドーナッツか、ハニートースト」

「ぜひ、揚げたてのオーナツを――――ではなくて!」



 正直者な上に、ノリのいい食いしん坊騎士め。

 腹芸は皆無だな。


 でも今晩は焼き菓子マドレーヌなので、背後にご注意ください。

 一国の王が虎視眈々と狙っておりますので。 


 どうやら、ジークは『(まおうさま)の命令は絶対☆マドレーヌ姫の滋養強壮のご飯の材料を狩り隊』に同行するようだ。


 あ、そうか、護衛騎士だもんね。

 一緒にってことは、もしかして兄も行くから騎士(目つき悪)もだろうか。


 ご愁傷さまです。


 わかってた。わかっていたよ。母の『お願い』を断りきれるはずもなく、ジークと共に肩を落として帰ってきた。



 人質ならぬ熊質である。



 熊であっても、王子なのだから護衛がついているし、大丈夫だろうと思ったのだが相手は母だ。


 あの兄の張り巡らした罠さえ『なんとなく』ですり抜けるツワモノなのだ。



「何度もドアをノックさせていただきましたが、返事がなかったもので失礼いたしました」



 昨日は逃走した振りしたから、そこは信頼がなさげだしね。

 着替えも風呂場なので別にかまわないし。



「ともかく、今は万全の装備を」



 シャツにズボンにブーツなのだが、それに厚手の革のベストのようなものを着用。

 騎士団の予備らしく、若干でかい。


 これがあると、胸当てが擦れて痛い思いをしないし、ナイフなどは簡単には通さない防刀ベストのようだ。


 んで、届きたての軽防具だ。


 どうやらドワーフ親方から誰かが貰ってきてくれたらしい。

 ジークに手伝って貰いつつ装備。


 ブーツの上から膝下まで覆う脛当てを細いベルトで括る。

 黒革の手袋に、腕は手の甲の部分と肘下までの篭手(ガントレット)

 心臓狙いの攻撃を防ぐだけであろう簡易の胸当て。


 すべて合わせても、身に着けているせいか、さほど重量は感じず、全部合わせても2キロもないだろう。フィットしてるけど、物凄い軽くて不安なんですけど。


 とりあえず、致命傷にならなければ、大丈夫か?


 ラジオ体操の動きで確かめるが、関節は動くし、胸当ても薄いので邪魔というほどではないけども。



 次に腰に太めのベルト。

 昨日買った小剣と、魔物様のお肉を解体するための短剣一本。


 後、魔石をポケットに。


 


 ………生きて帰れるのか、これ。




 門番のようにフル装備にしたら動けないのは目に見えているが、逆にこんな簡素な部分鎧で大丈夫なのだろうか。


 不安要素しかないといってもいい。


 ステータスをUPさせるしかないと眼鏡をかけると、部屋に響くノック。



「ミィコ、私だ」



 門番が扉を開き、慌てた様子でジークが壁際へと下がると、姿勢を正し頭を下げる。


 

「まだ出発していなかったようで、何よりだ」



 よくわからないけど、頷いておこう。

 もしかして、行かなくてもいいのかなぁと思ったが、そうは甘くない。



「これを、お前にやろう。持っていくがよい」



 彼女が差し出したのは、指輪である。

 

 一見、細身でなんの変哲もない銀の指輪だ。

 よく見ると内側に1、2ミリ程度の小さな緑色の石?が入っていて、その間を繋ぐように模様というか、文字だろうか?



 む…なんとか…とげ?――――無限の棘(エ・ピーヌ)



 まったく日本語じゃないけど、読める不思議。さすが異世界。喋るだけじゃなくて、読めるのか……もしかして、書くこともできたりして。


 何気に内側の方が凝っている。


 硝子球か、魔石かわからず、眼鏡で見つめる。




  +  +  +




【古き銀棘の指輪】 

 

 緑琥珀(グリーンアンバー)の嵌め込まれた古の純銀製の指輪。

 複写変化魔法付与付。女性限定。

 MPを消費して、銀製の刃物を創造できる。

 夜活性化型、月変動型、闇属性に指輪をした手で触れるとダメージ有り。

      

 販売価格:146000 B




  +  +  +




 指輪版チート!

 そして、値段、高っ!

 

 思わず、その値段に反射的に首を横に振っていた。


 たぶん青ざめているであろう私。



「こ、高価な物……受け取れない」



 いくら相手が王族だろうとお姫様であろうと、叔母歴二日目の方から貰っていいような値段のものではない。


 身に着けて歩くどころか、金庫の中に厳重に保管しておいたほういいだろう。

 国宝でないのが、不思議なんですけども。


 ってか、もしかして、この世界は魔法付与とかの製品は気軽に買えるんだろうか?


 

「気にするな。昔、古代遺跡の調査で入った時、拾ったのだ」



 っていうか、一国の姫よ……なぜ古代遺跡の調査??

 いや、別に個人の自由、なのか?



「呪いもなにもなかったので、記念として譲り受けたもの。学術的な価値もさほどない。ただ古い銀は闇属性の魔物を退ける。装備していっても、負荷になるもではなし」


 

 イベ叔母様は遠慮する私の手を取ると中指に指輪を嵌めた。


 少し中指には大きかったのだが、驚いたことに丁度よい大きさへと変わった。

 

 目を丸くする私に、叔母は笑みを零した。






 叔 母 、 デ レ た !!






 じゃなくて、なんか初めて素の笑顔をみたような気がした。

 悪戯が成功した子供っぽい顔、これがきっと身内に見せる顔なんだろうと思う。


 なんだか、ちょっと嬉しい。かも。しれない。



「驚いたか?少し魔力を持っているようで、きちんと持ち主の指に合うのだ。とはいっても、男が嵌めても変化はないのだがな」

 


 女性限定装備だからだと思われます。

 


「もし気後れするならば、今晩は多めに菓子を作るとよい」


 

 いやいや!馬鹿高いお菓子だな!!

 ひとつ、うん十万のマドレーヌってことか!




 でも。




「お気遣い、ありがとうございます―――でも」

「……私からの、贈り物は嫌か?」



 形のよい柳眉を寄せる叔母に、私は首を横に振る。

 嬉しいけど、ちょっとばかし私が貰うには不相応な代物だと思う。



「今晩、お返ししますから……貸してください」



 きょとんとした叔母だったが、すぐに意味はわかった様で瞳を細めて頷いた。



「わかった。ならば今晩、必ず美味い菓子と一緒に持ってくるがよい。無論、五体満足でな」



 五体満足かは別として、指輪に報いて生きて帰ってこれるように努力しよう。


 私は頷いて、己の右手の中指に嵌った銀の指輪を見る。



「どうした?まさか銀アレルギーか?」

「い、いえ……あの、使ってみてもいいですか?」

「使う?――まぁ、好きに使ってよい」



 ドキドキというか、そわそわする。

 新しいゲームソフトの、包装のビニールを剥ぎ取ったみたいな。


 ヴァイオリンを止めてからゲームに走ったけど、別にゲームは嫌いじゃない。むしろ達成感が合って、好きだった―――まぁ、飽きることもあったけど。


 嵌めてるだけでは使えないようだ。


 多分、内側に書かれていた文字が呪文なのだろうと推測。


 

無限の棘(エ・ピーヌ)



 すう、と右手から不可視の何かが移動していく感覚。

 間違いじゃなかったようだ。


 掌に集中していき、瞬き一つで現れたのは、刀身全てが銀で出来た―――バターナイフだった。


 いや……ナイフ?

 刃物なんだろうか、バターナイフって!?


 握り締めると、意外とずっしりと物質があるという重みがある。

 



「っ!」




 指輪の性能を知らなかったであろうジークが驚いような気配がある。



 

「ミィコ」


 


 イベ叔母もまさか、刃物がバターナイフとは思わなかったのだろう。実は私も思わなかったよ。普通にRPG的なナイフを思い浮かべていたというのに。 


 なんともいえない表情でイベ叔母は私を見つめている。

 


無限の棘(エ・ピーヌ)



 今度は刀身全てが銀でできた細身の――――果物ナイフである。


 バターナイフ、テーブルナイフ、果物ナイフ、包丁、テーブルナイフ、中華包丁、果物ナイフ、パン切ナイフ、ets、ets。


 ………17本まで頑張りましたが、使ったことのあるものしか出てきません。



 確かに、刃物だけど!



 三本目あたりから、最初に出した一本目がふ、と元々無かったようにテーブルの上から消えていく。

 一度に出せるのは、三本が限界で、それ以上出すと、消えちゃうのだろう。

 


 国宝級でもあっても、使う人間によりけり、か。



 短剣が出てくる前に精神的疲労に項垂れる。


 っていうか、狩に出る前から、MPごっそりと――――アフォか、私は。



 体育座りで膝に顎を乗せて、壁を向いて、床に『の』の字を書いて、なんともいえない切なさを消化する。


 後で兄になんて言われるのか。


 そりゃ、時間が経てばMPは自然回復するけどさ。


 


「ミィコ」




 はい、あんまり使いこなせそうになくて、スミマセン。

 

 テーブルナイフで何とか頑張ってみたいとは思いますが、シュールだなぁ……魔物から突き出てるテーブルナイフ、果物ナイフ、包丁、中華包丁。 


 胃袋に収めようという猛者がいるのだから、あながち間違いではないというか。




「なんだ、その魔法は?発動の呪文だけで、呪力を行使できるだと!?」




 でも、私はこれを使いこなせる自信がな――――?


 





「いや、待て……使ってもよいかと聞いたということは、指輪?まさか、それは魔法具か――――いや、ただの遺跡から出てきた銀の指輪で大きさが調節され、護符程度の役割しか………そんな馬鹿な!?」







 イベ叔母は眉根を寄せて、苦悩するかのように額に手を当てていた。


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