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岸田家の異世界冒険  作者: 冬の黒猫亭
一日目 【真実子の長い一日】
7/119

Act 06. ある日、森の中~♪

「うげっ!なんか、警告されてる」

「お前さんの敵索に、なんか引っかかったんだろうな」


 

 数秒で警戒音は鳴り止んだが、ステータス画面は青のグラデーションから、赤のグラデーションへと変貌していた。


 その上では黄色く大きな文字が点滅している。




 ―――WARNING。警告。




 つまり、私を主点として、敵が一キロ以内に侵入したということになる。


 人間同士ならば、レンチでもいいけど、多分無理。

 私、死ぬよ、これ。

 

 伝説の武器も持たせず裸の村人Lv1に、ドラゴン倒せっていってるようなもんじゃね?

 


「兄、任せた」

「敵のステータスがはっきりしねぇから、俺も自信ないなぁ」

「マジで?」

「大マジだ――ゲームと違って、コンテニューはないだろうからな」



 いまいち自分たちの身におきていることは、現実味がないが、いつもマイペースな兄の今までになく、真剣みを帯びた低い声が、否応なしに危機感を煽る。


 私はパーカーで手汗を拭うと、レンチを握りなおして、周囲をうかがう。


 一キロの範囲内というのは広すぎる。


 相手がこちらに気がついているのか、どうかも分からないのだ。


 コンテニューがない。

 つまり、死んだらそれっきり、ということだ。


 当たり前だ。


 だが、自分の身に降りかかっていることが、あまりにも、いつもとかけ離れていて、認めたくなかっただけ。


 私も兄も、ゲームや漫画が好きな分、分かっているのだ――両親や姉よりもずっと。


 だから、その分、彼らを守らなければならない。


 ここは、日本ではない。 

 自分たちが知らない世界なのだと。


 これから、化け(モンスター)と戦わなければならない、のだと。



「うん……でも、雅兄は行くんだよね」



 周囲を警戒していた兄が、僅かに振り返ると、からっとした笑みを浮かべた。



「当然」



 その笑顔だけで、私は高鳴る心臓が落ち着くのを感じる。


 マイペースな兄で品行方正で通っているのに、彼に友人は少ない。

 だが、兄は友人を、見捨てるような男ではない。


 そして、あの子供を見捨てることもできずに、間に合わないとしても、彼は行くのだろう。


 仕方のない兄だ。


 だから、この愚妹が少しでも力になってやろう。



「ん。じゃ、一緒にいく」



 たとえ、力に成れなくても、私は彼の血のつながった妹なのだ。


 彼らが最後まで私の味方であるように、私も最後まで彼らの味方なのだから。


 同じ遺伝子を引いてるとは思えないほど、私は卑劣で臆病者だけど、彼や姉や、両親のように、優しくて強い人になりたいという、気持ちは嘘じゃない。


 強くなりたい。


 体も、心も――家族のように強くなりたい。



「おう。いいか、気は抜くな。俺が絶対が―――ん?」

「なに?」



 兄がはっとした様子で、進みだした足を止めるから、訝しげに問う。

 だが、聞かなければよかったと心底思った。



「なんか今の俺の台詞、勇者っぽくないか?」

「知るかっ!死亡フラグ立てろヴォケ!!」



 怒鳴った私に、何の罪があろうか。


 なんか勇ましい思ったけど、やっぱりいつもの兄である。


 私は前を歩く兄の後頭部に振り下ろすべくレンチを振りかざした―――その時だった。

 



 ひゅん。




 と空気を裂くような音。



「いつっ!」



 同時に、レンチに何かが当たるような感触。

 そのまま、私の手が痺れて握力が抜けると、レンチが地面に転がった。



「ミコ!伏せろ!!」

「え、あ?」



 兄の声と共に、私の頭を茂みの中に押し込む。

 その視線の先から、数十メートル先から、緑色の物体が、耳を劈くような咆哮しながら3体が森を飛び出してくる。


 ―――ゴブリンだ!


 敵。放たれた矢は、私が冗談でレンチを振り上げていなければ、兄の頭を貫いていたのは―――考えると、全身の毛穴が開いて、嫌な汗が噴出してくる。


 果たして、村人Lv1ですらない私たちに勝てるだろうか。


 死んでいたゴブリンよりも小ぶりだというのに、生きて躍動しているゴブリンは恐ろしかった。

 手にしている斧や剣は飾りでもないし、飛んでくる矢は終わりがない。


 兄の舌打ちで、正気に戻る。


 

「足りない…――ミコ、レベルは」



 怯えるより早く、生存本能が刺激されてたせいか、私は歯を食いしばった。


 敵のステータスが、はっきりと表示されるが、それは自分や兄のように、大量の情報量はなかった。

 ほかにも私の横に画面が浮かび上がったが、見ている余裕はない。 




   【ゴブリン兵士】 Lv6. 


   H P:87/110

   M P:21/21


   

   【ゴブリン兵士】 Lv7.

 

   H P:97/130

   M P:19/19



   【ゴブリン兵士】 Lv6. 


   H P:40/108

   M P:26/26




  止まりそうになる息を、懸命に吐き出した。



「右からゴブリンレベル6、7、6。HP残量、右87、中97、左40」



 咄嗟に――だというのに、まるで、いつもやっているネットゲームの中のように、私は兄に情報を公開する。


 本来なら、兄の役目だが、兄はステータス画面が見えない。

 見えていたところで、邪魔になっただけだろう。


 弓を引いているゴブリンは遠すぎて、ステータス画面が見えない。


 兄の行動は、迅速で迷いがなかった。


 私の落としたレンチを一番左ゴブリンに投げつけると、鈍い音があがった。

 遠めにも紫色の血が噴出し、千鳥足になると一度転んだ。


 2体のゴブリンと接触まで、距離が短い。




   【ゴブリン兵士】 Lv6. 


   H P:24/108

   M P:26/26



   

 すぐさま、ステータスが変わり、左のゴブリンが目に見えて、走る速度が遅くなる。

 HPが直接ステータスに影響を及ぼしているのだろう。



「左、HP24!」



 私は、そこら辺の石を拾い上げると、更に左ゴブリンに投げつけた。


 その間にも、遥か彼方から、もう一体いるのか矢が飛んでくる。

 先につぶしたいが、ここを突き抜けていくのは自殺行為に等しい。


 せめても、と足の遅いゴブリンに拾った石を投げつける。


 私にできることなど、これくらいしかない。


 兄ほどの強肩ではないので、威力はないが、2、1、2と、順調にHPが削れて行く。

 兄も拳大の石をひとつ投げつけて、6減った。



「残り、13!」



 私は小石をいくつも拾いながら、眼前に迫ったゴブリンに対して、大きく後ろに下がった。

 逆に兄も咆哮を上げて、金属バットを構えた。


 一番、足の速かった右のゴブリンの剣と、金属バットが交錯し、火花が散った。 

 

 私は二番目にやってきた真ん中のゴブリンに連続で小石を投げつける。

 やはり、1、2ポイント削っただけで、大ダメージにはならないが、集中をこちらに少しでもひきつけるには十分だった。


 小蝿を振り払うように、投げた小石を振り払うと、私に向かって突進してくる。


 が、なんと右ゴブリンにつばぜり合いしていた兄が力で勝り、相手をよろけさせると、その金属バットは、綺麗に真ん中ゴブリンの手首に決まった。


 涎を撒き散らしながら、叫びを上げる真ん中ゴブリン。


 一瞬、鮮やかな戦いぶりに、逃げることも忘れて、呆けていたが、すぐに気を取り直して、叫ぶ。



「真ん中71、右83!」



 邪魔にならないように左ゴブリンに投げつける小石を手にしながら、戦闘を見守るしかない。


 兄の一撃が、大よそ20前後だとすると、左は一撃。

 えーと、20前後だから、えーと、えーと、右が4回――そう、真ん中5回。


 が、兄の動きは予想以上に素早かった。


 咆哮をあげる真ん中ゴブリンを無視し、右ゴブリンの脳天に金属バットを渾身の一発を振り下ろす。

 

 会心の一撃だったのか、ぐしゃり、と生々しく頭蓋が砕ける音が響くと、まったく動かなくなった。

 右、ゴブリンのHPは0になり、ステータスが消えた。



「雅兄っ!!」



 しかし、兄の動きが鈍った隙を、真ん中ゴブリンの一撃が放たれる。

 が、それを間一髪で躱したが、下から伸びた斧を裂け切れずに、シャツが切り裂かれた。 

 

 もうすでに、左ゴブリンが迫っている。


 私も負けじと、石を投げつけるが、決定打はない。


 1、1――三つ目は、目に当たったようで、3の減少。残り、8。

 

 しかし、真ん中ゴブリンは唯では倒れず、幾度となく兄と斧と金属バットを交えて、互いにHPを削りあっている。


 気がつけば、兄の腕から血が流れていた。


 

 ―――ひどく、悔しかった。



 力がない。

 兄を救えない。


 もう死にそうな左ゴブリンですら、素手では倒すことは私にできない。

 周囲にある石はすでに、投げきってしまった。


 真ん中ゴブリンとの鍔迫り合い。


 やってきた瀕死の左のゴブリンが刃を振り上げる―――その、凶刃が、兄に、迫った。

 

 駆け出した私よりも、先に薪を真っ二つになるかのような音が盛りに響いた。




 ごきゃり。




 そんな音だった気がする。


 兄と対峙していたゴブリンの首が不自然な方向に曲がり、空中に浮き上がると、だらり、と手にしていた斧を落とす。

 

 一瞬にして、絶命しているのが分かった。


 はっとした兄が間髪を入れずに、瀕死のゴブリンの一撃をいなすと、力任せに、その脳天を叩きつけ、大きく揺れて、ゴブリンの体が大地へと倒れた。


 同じくして、首の折れたゴブリンが地面に転がった。


 レベルアップのファンファーレと共に、その背後から、口元をゴブリンの紫色の血で染めた漆黒の毛並みの巨大な熊が私たちを燃えるような緋色の双眸で見下ろしていた。


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