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岸田家の異世界冒険  作者: 冬の黒猫亭
二日目 【異世界生活の始まり】
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閑話 【とある騎士達の危惧】

 イシュルス騎士団には、それぞれ象徴するものがある。



 第一騎士団は王冠。


 第二騎士団は剣。


 第四騎士団は盾。



 そして、己が所属する第三騎士団は杖。



 第三部隊は『魔道騎士マジックナイト』の所属する部隊であった。


 騎士の力量を持ち、騎士団ひとつが魔法を重ねることで広範囲攻撃魔法を発動することができる第三騎士団は戦場の花形といってもよかった―――ただ、それは三百年以上前の話だ。

 

 元々魔法には魔法書、魔石と、馬鹿高い費用を必要としたため、主に金を持つ権力者がそれらを握り、原因は不明だが魔力の高い者の出生率が下がり、大陸では魔法技術が衰退していった。

 大体の術式が一子相伝ということも関係しただろう。

 

 同時に第三部隊から『魔道騎士マジックナイト』は激減した。


 イシュルスでは、遥か昔『魔道騎士マジックナイト』を騎士見習いの時から育成するシステムがあったらしいが、長い暴政で完全に機能していなかったのである。


 その費用は、どうなったか想像に容易い。 


 かの有名な異国の竜騎士など、年々繁殖が成功せず保持する竜が雌が三頭と繁殖には難しい老いた雄が一頭だけで、竜騎士団の存続すら危ぶまれているらしい。


 形だけでも残っている第三騎士団は運がいいといえよう。

 第五騎士団のように、抹消されなかったのだから。


 年々魔法を使える騎士は減った。


 現在は自分が知る限り、中級以上の魔法を駆使できるのは、五名しかいない。


 そうして第三騎士団は、魔力が普通の人よりも多少強い、もしくは魔法抵抗が強い騎士が配属されるようになっていた。


 とはいっても、相手が魔術師かわかるかどうか。

 せいぜい、弱い魔法を使える程度だろう。


 これでは、戦闘では役立つというほどではなかった。

 

 そしていつの間にか、魔法で五感を強化しての斥候などから、様々な情報収集の役割を併用し、水面下で動くようになり、最終的には諜報機関のような役割へ変化していった。


 レジィー王が君臨してからは、騎士団の監視も加わった。


 王の杖、という呼び名から、影に潜む奴という意味合いで『影奴エイド』という隠語めいた別称に変わっていた。


 現在はほとんどないが、彼の王が王座に座るまでは騎士団は酷かった。


 実力はないが見栄えのあるステータスを望む貴族のいい温床となっており、不正、収賄など茶飯事。正式な公文書ではないが、仕事の関係で旧体制の不正の調査の報告書を何度か読んだことがあるが、とても尊敬に値する活動などしていなかった。


 中には、理不尽で一方的な殺害をもみ消したものまであったと記憶してる。


 この時代に生まれなくてよかったと、心の底から思うほどだ。


 イシュルスの革命の最中、父親の時代は大変だったろう。

 

 何故騎士を目指したのかは知らない。


 しかし、ほぼ平民と変わらぬ貧乏貴族であった父が騎士団長に上り詰めるなど―――生半可な苦労ではなかったはずだ。


 だが、逃げることもなく立ち上がった父。


 その背を眺めていて、幼かった俺は騎士になりたかったのだと思う。


 残念ながら自分が考えていたよりも、魔力抵抗が強かったようで、父のいる第二騎士団ではなく、第三騎士団に配属となってしまったが、国に使えている騎士であることにはかわりない。





  +  +  +





「その役目を、私に?」




 ザザスは、感情を表に出さないように己を律してはいるが、今回ばかりは困惑げに眉根を寄せた。


 それに気がついたようで、第三騎士団団長ラージスは薄く苦笑したようだった。


 告げられたのは、流離人ルエイト監視・・である。



「珍しいな、お前がそのような顔をするなど」

「―――失礼いたしました。しかし、」



 本日与えられたのは、流離人ルエイトの護衛の援護。


 一人の人間を護衛するのに、一人というのは難しいものだ。

 そのため、表向きには一人の護衛を各々つけ、バックアップするために影奴エイドがつけられていた。


 内密利というのは、彼らが息苦しさを感じないための配慮だったのだろう。

 三人の子供が十人近い護衛がつけば、目立つということもあった。


 ザザスにしてみれば、失敗以外のなにものでもない。


 民間人の買い物と言ってもいい。


 が、結果的には護衛対象に存在が露見し、護衛対象の末の子供が迷子にさせ、鼻血を出す程度の軽傷とはいえ、怪我を負わせるに至った。


 言い訳をするならば、彼らの護衛はトラブル続きであった。


 本来なら、子供が逸れそうになるならば、一行をそれとなく止める芸当ぐらいはできた。


 しかし、今回ばかりは部下を数名引き連れたザザスであっても至難であった。


 率直にいえば長女の容姿である。

 異国の顔立ちとはいえ、街中では見かけることのない美貌だ。


 華やかな空気は、男の視線を集め、ふらふらと寄せ集めるのだから始末が悪い。


 彼女に偶然を装って近づこうとする男の多いことか―――本人が察して、外套の頭巾をかぶってくれなければ更に困難であっただろう。


 長男もそこそこの顔立ちで女が振り返っていたが、長女のように追ってくるほどではなかったようだ。


 その上、貴族の気を引いたか、王の情報を引き出そうと権力者かわからないが、数名の追跡者の姿も確認し、近づけないように牽制する必要もあった。


 彼らが今後どのような立ち位置になるかは不明だが、情報をもらすのは得策ではない。


 手の内を知る第三騎士団のチャイラが、ザザスを援護するように、追跡者を牽制し、さりげなくではあるが長女の周囲に近寄る男を密かに撃退していたのはありがたかった。


 そのせいで、最後尾であったのに末の子を見失ったのだろうが。




「私は、臆病な人間だ」



 

 イシュルス最後の『魔道騎士マジックナイト』と呼ばれるラージスは、考え込むように沈黙した後、独り言のように呟いた。


 五人の流離人ルエイト家族には全員、影から見守られていた。


 父親は鉄の馬車を確認していたようだが、料理を始めた母親に呼ばれて二人で行動。

 午後からは父親は、王の許可を経て、王が当初に持ち込んだとされる鉄の馬をいじっていたらしい。母親は、図書館で本を借りた後は、部屋で眠っていたようだ。


 ザザスの担当であった長女は、凄まじい才能と魔力を秘めていた。


 たぶんであるが、精霊に愛されているのだろう。

 常に彼女の周囲には精霊の気配が漂った。


 魔法の存在を昨日まで信じていなかったとチャイラに零していた長女であったが、初級の回復魔法は習う前より使用可能だった。

 

 そして、年単位を費やして覚える初級魔法を、一日で五つほど覚えて帰った。

 勤勉でもあったが、なにより魔法に対する感覚が鋭いのだろう。


 チャイラは幼い頃、神聖魔法の申し子と呼ばれていたが、それでも一ヶ月で三つの初級魔法程度だったはずだ。


 長女は神童とよんでもいい。

 

 傍目に眺めていても、能力の飛躍に恐れ戦いたものだ。


 しかし、驚愕はそれだけでは終わらなかった。


 どうやら長男も只者ではなかったようで――元々強者であったのかは不明だが――鍛錬の終わりには第二騎士団の準騎士ではトップレベルであるベルルムに勝利したようだ。

 

 その後も、複数の準騎士を相手に鍛錬を繰り返したようだ。

 あのエミィリオすら昏倒させたと報告が入っている。


 こちらは最早、化け物レベルである。


 いつもならありえないが、部下の報告を二度も聞き返してしまった。


 

「王レベルに成長するであろう人物が二人。そして二人は戦闘等は不明―――彼らがどう転がるか、警戒するに越したことはない」

「ですが、彼らは王の」

「君は」



 血の繋がりを主張するザザスの言葉を遮って、ラージスは重々しく、息をつく。



「君ぐらいの世代は、王の若い頃を知らないからだろうな」



 そのラージスの両目に鬱屈としたものが揺れ、見ているものを不安にさせた。

 ザザスは反射的な反論を堪えて、口が開かれるのを待った。



「私たちは―――この国は運がよかったにすぎない。王がこの国を敵と見做したのなら、今頃瓦礫の山しかのこっていなかっただろう」



 いいすぎだ。


 が、イシュルスでは子供の寝物語に使われるほど、王の英雄伝は伝わっている。

 勿論、全てが真実ではないだろうし、誇張されたものであろうが、それを半分に聞いても人の所業ではなかった。

 

 ザザスの記憶には、ほぼ統治されたイシュルスの姿しかない。


 しかし、ラージスには違うのだろう。



「正直、私は怖いのだよ」



 歴代のイシュルス王族の親兄弟で血を血で洗うような争い。


 国が荒れ果ていく姿を知っているだけに、彼らが現王族と争わないかどうか、常に考慮しなければならないのだろう。


 不穏の芽を摘む。


 それもまた影奴エイドの仕事ではあるが、不穏を見極めた時―――果たして、刈り取ることができるのであろうか。


 こちらが監視を続け、その結果兄家族の不信感を煽る可能性もある。


 影の薄い男が口を開いた。

 声を発するまで、存在すら本気で忘れていた。


 

「僕は考えすぎだと思うけどねぇ?」



 実に軽い口調で、同じく報告を聞いていた第二騎士団団長――ザザスの父親であるトーマスが肩を竦めた。



「トーマス、君は気楽すぎる」

「そうかい?僕はそれよりも気になることがあるよ」

「ゴブリンの大群か?」



 ラージスの言葉に、トーマスは曖昧に笑った。 



「それもあるんだけど、なんていったらいいのかな……胸騒ぎがするよ。こういったら可笑しな話だけどね。イシュルス崩壊の危機で流離人ルエイトが一人現れて、イシュルスを救った――――歴代の流離人ルエイトも」



 ふとザザスは思考を巡らすも、確かに歴代の流離人ルエイトが現れたときも、イシュルスは様々な困難に見舞われていたかもしれない。


 確か、過去最多で流離人ルエイトが三人現れたとき、イシュルス―――世界は魔王が率いる魔族に膝を屈しかけていた。


 もう三百年ほど前の話だが、世界には多くの戦火の爪あとが残っている。


 ラージスは表情を変えなかったが、青ざめたように思えた。



「どういう意味、ですか」



 直属ではないが、上位役職の父親に不躾に問うと『ただ思っただけだけどね』と前置きしてから、苦笑を浮かべた。



流離人ルエイトが一人でイシュルスの滅亡を回避、流離人ルエイトが三人で魔王を回避―――流離人ルエイトが五人もいなければ回避できないこと。僕は彼らが現れてから、そればかり考えているよ」



 勿論、現れた流離人ルエイト全員が大業をなしたわけではない。

 力もなく、象徴として平和に余生を送った者だっていた。


 可能性の域をでない。


 しかし、トーマスは危惧している。





「――――僕たちが気がついていないだけで、世界では、すでに何かが起こってるんじゃないかってね」





 それこそ、考えすぎだ、とザザスは一笑できなかった。






「奇遇であるな、我も同じ事を考えておった」





 足音も、ドアが開いた音すらしなかった。

 しかし、三名しかいなかった室内には第四の声が響く。


 全員が瞬時に帯刀に手をかけたが―――黒く、どこまでも黒い光のない両の眼に気圧されるように、頭を下げる。


 手を振って、顔を上げる事を許可したのは他でもないイシュルス王であった。


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