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岸田家の異世界冒険  作者: 冬の黒猫亭
二日目 【異世界生活の始まり】
63/119

閑話 【金髪騎士の動揺】

 エミィリオは顔色を変えないように努めたが、内心焦りを感じていた。


 流れる汗は、運動量に対して多い。

 



(なんだ、これはっ―――)




 この兄弟に感じたものをなんと言葉にしていいか、エミィリオには分からなかった。






  +  +  +






 とりあえずミィコと呼ばれた流離人ルエイトの少年に自分勝手に剣を振らせたが、やはり足運びも、剣の使い方も、何もかもが完全なるド素人だった。


 街中を歩く女子供と変わらないへっぴり腰で、数日で前線に出るような力の持ち主ではない。

 この時、騎士エミィリオは、そう断言できた。



 あの流離人ルエイトといえど、人の子供でしかないのだ。



 すでに隣では木刀の交差する音が、軽快に響いている。




「いくぞっ!サミィ!!」 

「ええ、どうぞ。ベルルム師匠」




 背を向けているが不足のない弟子を得て嬉々とした声をあげるベルルム。そして、この流離人ルエイトの才能豊かな兄・サミィの口元には微笑が浮かんでいる。


 やってきた流離人ルエイトは噂では家族だというし、東方よりの顔立ちがどことなく似ているし、二人の立ち振る舞いからも、兄弟で間違いはないだろう。


 サミィは第二騎士団でも五本の指に入るベルルムの獰猛な剣筋を前にしても余裕があるようだ。


 正直、ベルルムが羨ましい。

 兄のサミィは剣筋は粗いが、多少は武術の心得があるようだし、隠しきれない天性の才能が輝いている。数日で前線も難しくないだろう。



 しかし、自分の尊敬する正騎士ハイナイト――いや、今は準騎士ガーディアンナイトになってはしまったが――だった、アルケルトは自分に少年の鍛錬を指示した。


 第二騎士団には細剣レイピア使いは少なく、学生騎士相手に何度か鍛錬を行ったことしかない。


 だが、アルケルトが望むなら、なんとしても任を遂行したい。

 彼がこの少年を数日で前線に出せるようにというのなら、そのために努力は惜しまないつもりだ。



 エミィリオは硬く決意していた。



 戦闘に生かせそうだったのは、その素早さ。

 先ほど見せた身軽さ。 

 

 それは細剣レイピアを扱うものには重要な素質ではある。

 ゴブリン相手に正面から向かっていくには不向きだが、相手の隙を突き、弱らせるには十分だ。


 そこは普通の同世代の少年よりも優れているようで、瞬発力に恵まれている。


 軽く基本中の基本である型を三つ教え、ミィコは暫くそれを意識させ、打ち込ませた。

 基本だからこそ、疎かにしてはならない。


 だが、今は時間がない。


 だからこそ、実践に近い状況で対峙して、感覚を覚えさせることにした。


 戦場で危険なのは、恐怖で動けないことだ。いくらゴブリンの動きが早くないとはいえ、足を竦ませてしまったら、避けれる一撃も避けることができないだろう。

 

 こんな少年に、相手を殺せとはいわない。

 生き延びている事を目標に定めた。

 


 実践模擬の簡単な手合わせ。


 やはり素人らしく、基本の動きですら隙だらけであった。

 その隙目掛けて打ち込むと、息を呑む音がする。


 加減しているとはいえ、痛みがないわけじゃない。だが、その痛みを忌避する感覚を覚えていれば無駄に敵に突っ込もうとは思わないだろう。その点、ミィコは慎重で、強引に飛び込んできたりはしない。


 内心、エミィリオはミィコを見直していた。

 関心したといってもいい。


 教える経験の少なかったエミィリオが力加減を間違い、激痛だと予測される打撃でも、息を詰めたり、一音を零すだけで、悲鳴を上げることはなかった。

 

 息は荒いが、眉根を寄せる程度で、苦痛で顔を歪ませることも殆どない。

 恐怖で目を逸らすこともない。


 我慢強いタイプの人間なのだろう。


 同い年ぐらいの学生騎士ならば、先ほどの一撃で悲鳴を上げてたに違いない。


 それに若者特有の血気盛んな気骨はなく、落ち着いている。

 もしかすると、荒事には場数を踏んでいるのかもしれないとすら思えた。



 わっ、と第二騎士団の歓声があがる。

 ほとんどが、派手な交戦となっているベルルムとサミィを遠巻きに観戦しているようだ。一部で賭け事まで始めている始末だ。


 数日後にはゴブリンとの大戦があると分かっているはずだが、相変わらず第二騎士団は団長の気質が表立っているせいか暢気なものだ。だが、日頃の鍛錬を怠っている者は皆無であろう。


 木刀を交えている二人を眺める。


 あちらは、ベルルムと互角とはいわないが、サミィは吸収率が高いようで、この僅かな時間にベルルム特有の東方の型を自分のものにしていた。

 

 特に滑るような独特な足運びは、顔に似合わずベルルムが得意とする技術だ。


 恐ろしい才能を持つ男である。

 あと半月、いや十日もあれば、ベルルムすら凌ぐだろうという予感すらさせた。


 やはりサミィと目があって、なんだか背筋によからぬものが走った。


 その一瞬の隙にベルルムが打ち込む。


 意識がこちらに向いていないことに気がついたミィコも打ち込んできた。

 遅れはとらないだろうが、慌ててエミィリオは構えた。



 暫くするとミィコは全部当たっていた木刀が、五回に一度は回避するようになっていた。

 

 それは彼の素早さと瞬発力のなせる技かと思っていたが、こちらの動きを予測・・しているようで、打ち込むより先に防衛の構えをとる。


 体力を消耗して動きが鈍いはずなのに、五回に一度が、四回に一度に。

 徐々にではあるが回避するようになっている。

 

 時間が経てばたつほど普通は集中力を欠いて、当たる回数が多くなるというのに、ミィコは逆だった。

 

 驚くことに集中力を増している。

 それに、無駄な動きが目に見えて減っていてる。


 防戦一方だったミィコは反撃に転じることもあり、剣筋を先に読まれて木刀で防がれることすらある。


 四回に一度が、三回に一度に。


 それどころか、こちらがひやり、とするような一撃まで放ってくるようになってきた。

 ミィコの突きが腕を掠めたのには、驚くしかなかった。


 直接木刀で防ぐ他に、こちらの剣筋の流れを木刀で変え、最小限の回避ですぐに反撃へと転じるのだ。


 本人は呼吸は荒く、頬に汗を伝わせているものの、攻撃は鋭い。

 的確に急所を狙ってきている。


 体力はエミィリオの方が勝っているだろうが、額から汗が滲むのを自覚していた。


 肉体的な疲労よりも、精神的な疲労が大きい。


 たった一日、それも数時間でこれほど明確に成長する少年と対峙したことはない。

 前に何度か教えた騎士学生を相手にしていても一度もなかった。


 あまりにも非凡な兄と比較するから、彼は凡人以下に感じるが、同年代の少年にしては頭ひとつ抜きん出ている才覚があるのだ。


 兄ほどじゃない。

 だが半年もすれば、この少年はエミィリオと互角に持ち込む可能性すらある。

 

 エミィリオもベルルムとほぼ同格。

 第二騎士団では五本の指に入るといってもいい。


 圧倒的に戦力も経験もエミィリオが勝っている―――だが、じりじりとした焦りを覚える。


 ベルルムに関しては、自分よりも脅威を感じていることだろう。

 彼の気合の入った声が聞こえないのが、何よりの証拠だ。ベルルムは切迫すると、声を潜める癖がある。



 最もエミィリオの精神を乱したのは、サミィだった。

 ベルルムの観戦する第二騎士団の歓声が上がるたびに、視線をちらりと向けるのだが、常に・・サミィがこちらを見ている・・・・ことに気がついた。


 何度見ても、サミィはエミィリオの視線に一瞥を返す。



 これが意味しているのは、ただ一つ。



 サミィは歴戦の騎士であるベルルムに背後を取らせていないのだ。

 もしくは踏み込んでも、すぐに此方を向くように対峙を調節・・しているとしか思えない。 


 そんなことができるとしたら、相手が弱い場合だけ。


 つまり、ベルルムと対峙した時点で、剣に関して素人であろうサミィがベルルムよりも力量が上だったのかもしれない―――そんな事ありえないと思いながらも、寒気が走る。



 なんだ、この兄弟は。



 木刀を握る手に力が入る。焦りからか、ミィコに本気で打ち込んでしまった一撃は鈍い音がする。同時に強烈な殺気が自分に向けられた。

 

 それはミィコ本人からではない。

 ベルルムと鍛錬しているはずの、サミィだ。


 第二騎士団のほとんどは、ベルルムとサミィの鍛錬――いや、対戦の観戦に周り、エミィリオとミィコの鍛錬を気にしているのは、戦っているはずのサミィだけだった。




「―――エミィ!!」




 打ち込んだ刹那、アルケルトの声と、更に強いサミィの殺気に注意が削がれ、ミィコに放った一撃が回避されると同時に、懐に飛び込まれた。


 狙われた無防備な喉元に突き出される木刀。




 ―――まずいっ!




 騎士としての本能だけで、なんとか避けたが、若い頃に刷り込まれた危機感は煽られるがまま、蹴りを繰り出していた。


 だが幸いな事にミィコは剣を捨て、蹴りを両腕で防いだ。

 しかし、長時間の鍛錬で足腰がフラフラしていたようで、華奢な体は木刀置き場に吹っ飛んでいった。

 

 派手に音があがった。

 ぐったりと動かないミィコは置いてあった木刀か、それを収納している棚に当たって、額を切ったようで、流血しているのが遠めにも分かった。

 


 駆け寄るよりも先に、誰かの舌打ちが聞こえた気がした。  



 振り返る刹那、ベルルムを含む複数の悲鳴が響き――どうやら、サミィはすでに複数を相手に鍛錬していたようだった――野次馬の第二騎士団を潜り抜けて、サミィが俊敏に駆け寄ってくる。


 そのサミィ越しに、崩れ落ちるベルルムと三名ほどの騎士が見えた。




「まて、頭を―――へぶっ!っぐあっ!!」

「え、エミィ!!」 




 頭を打っているから、動かしてはならないと、注意するよりも早く、立ちはだかったエミィリオは腹部に木刀を受けていた――いや、受けていたようだった。


 気がつけば、サミィが木刀を振りきっている。

 木刀の軌跡を知覚すらできなかった。


 崩れ落ちる体に間髪をいれず、頭部に衝撃が走り、目の前がちかちかする。

 体が浮き上がり、受身も取れずに地面に叩きつけられ、エミィリオは意識を失墜させた。


腹部に一発木刀を打ち込んでからの頭部へ回し蹴りで(たぶん)、ノックアウト……兄半端じゃありません(涙)しかも、ジークさんも遅すぎ。どんだけ、団長探して走り回ってたんですかね;;


年末は仕事が繁忙期なので、少々更新がスローペースになるかと思います。申し訳ありません orz う、今でも十分遅いですが(汗)

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