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岸田家の異世界冒険  作者: 冬の黒猫亭
二日目 【異世界生活の始まり】
62/119

Act 21. 悪魔、降臨しました?

 ジークが私の隣の冴えないオッサンの名を叫んでいるようで、先ほどとは違う意味で、第二騎士団の諸君がざわざわした。


 え?この隣の人、第二騎士団長とかなの?


 


「団長…?」

「え、あれ団長か?」

「いや、どうだろう?半月ぐらい会ってないから…」

「え?俺、二ヶ月」

「まじか!トーマス団長かなぁ?」

「でも、ジークホークさんがいうなら、団長だろう」




 ええ??自分とこの上司だろう?顔わからないのか―――と、隣の地味な親父を眺めるが……うん、覚えられないかもしれない。何度会っても、難しいかも。


 どんだけ、印象薄いんだ。


 なんかホクロみたいな特徴もないし、髪の毛もありきたりな茶色だし、目も同じ色してる。

 辛うじて髭が生えてるけど、第二騎士団の面々に髭面が多いせいか、これといって特徴ともいえない。


 ぬぼーっとしていたオッサン騎士の瞳が少し泳ぐ。




「トーマス団長!今までっ――」




 喋る機関車のような名前が再び、叫ばれると、それが合図だったようにオッサン騎士が砂煙を上げながら、猛烈な勢いでジークとは逆方向に走り出した。


 瞬く間に数メートル離れたオッサン。


 その背中には小さな足跡が―――って、私の靴の足跡じゃない?

 もしかしてさっき木に登るために踏み台にした人か!?


 ちっと、珍しく舌打ちした険しい顔のジークが無言で、間髪いれずに、走り出した。

 

 第二騎士団の面々からは、歓声?が起こった。




「逃げた!間違いない団長だ!」

「と、トーマス団長!」

「あのスピード、まさしく団長だ!」

「ジークホークさんが引き剥がされている!団長だ!」

「俺、二ヶ月ぶりに会った…」




 …わけわからん。

 第二騎士団、わけわからんよ……。



 団長も、団員も謎すぎる。



 そして、一体何しにきたんだ、団長よ。


 案内人の不在により、不安に引き攣る私の横で、兄が笑いを堪えているらしく、それを発散するために木を叩いている。

 

 一体、今のなにがツボに入ったのかわかんないよ、兄。



 今日からここで世話になると思ったら…なんか、頭痛いよ……姉、ヘルプ…





  +  +  +





「お二人が――いや、一人かもしれないが、戻ってくるまで軽く鍛錬でもするか」



 そう言ったのは、金髪騎士だった。


 どうやら、彼はこの第二騎士団の纏め役に近いらしく、ぱんぱん、と手をならして、ジークと団長が消えていった方向から意識をこちらに戻した。


 女みたいな名前の癖に、やるな、こやつ。

 


「では、よろしくお願いします。ベルルムさん」

「さん、はよしてくださいよ。ただのしがない騎士です」

「はは、では俺のことは、サミィと呼んでください。身分もない、しがない一般市民ですから、ベルルム師匠」



 「さん」から、「師匠」にグレードアップしてるよ、兄。


 きょとんとしたスキンヘッドは―――きょとん顔も怖いな―――豪快に笑い出した。

 笑い声が聞こえなかったら肉食獣が牙を向いたって顔だ。



流離人ルエイトとは、謙虚なんだな、サミィ殿」



 あはは、と兄も負けじと、洗剤CMばりの爽やかな笑顔で笑っている。



「お前の武器はなんだ?」

「一応、刀を買いました。今日は木刀という話だったので置いてきたんですが」

「俺と一緒か」



 二人は同じ武器だったためか、一気に打ち解けた感じである。

 

 ってか、スキンヘッド!その顔――は関係ないけどさ――で刀使ってるの!?まったく似合わない!むしろ武器が斧二つとか言われたほうが、納得するよ。


 兄は声を張って、第二騎士団の面々を前に軽くお辞儀をしてみせる。



「俺はサミィです。いつまでかはわかりませんが、お世話になります。どうぞ、ご指南のほど、よろしくお願いします―――ほら、ミコ、お前もお世話になるんだから挨拶しろ」



 兄の背後から、前に出されて、第二騎士団の視線が集まって、緊張した。

 こういうのは得意ではない。というか、コミュニケーション能力の低さを舐めるなといったところである。



「…ミコ、です……よろしく、おねがいします」



 告げて、頭を下げる。


 あ、もしかして、兄のようにご指南よろしくお願いしますの方がよかったか?と思い至ったが遅い。


 咄嗟に兄に言われたから、そこまで思いつかなかったけど、姉曰く、最初の日こそバッシッと決めればいいと。でも私はどうしてよいのかわからない。


 そして、拍手が起きたのにびっくりして、兄の背後に戻る。


 至る所から「よろしく」とか「頑張れよ」とか掛け声が聞こえて、その方向に頷いて答えた。 

 兄も笑顔でそれに答えていた。



「じゃ、ミィコはこっちな」



 やっぱり、ミィコなんかい!!しかも、即呼び捨て!?

 この、金髪騎士め。


 と睨みつけている間にも、兄はスキンヘッドと話をしながら、木刀を取りに行ってしまった。


 

「お前の得物は?」



 さっきジークと話していた時とは、うってかわって愛想が悪いというか、かなり口が悪い。


 武器は、と聞かれて、自信を持っていえるものは一つもない。

 強いているなら、包丁だけど、この場でそれをいったら、呆れられること間違いない。


 金髪騎士は横に並ぶと、割と大きかった。


 さっきは、スキンヘッドと並んでいたせいで、小柄に見えていたけど、170センチぐらいだろうか。

 もっと身長が低いかと思った。

 


細剣レイピア……」

「ふーん、俺と同じ細剣レイピアか」

「……たぶん」



 と、期待されてもあれなので、付け加えた途端に、金髪の騎士の眉根に皺がよる。



「たぶんって、なんだよ―――まさか、お前素人か!?」



 頷く私に、金髪騎士は「ありえない」と呟いて、呆れたように、大げさに首を横に振っている。


 私も同意しておこう。ありえない。


 こんな剣も持ったこともない―――いや、兄はあれ、規格外だから、平凡だと思っちゃだめだよ―――ド素人を戦場につれてったりしないよね。


 なにかの間違いだよね?なぁ、叔父よ――殺す気か!!

 間接的殺人事件か!だったら死ぬときのダイイングメッセージは「おじ」って書いてから死ぬぞ!

 


「アルケルト様は何を考えてられるのだ……いや、俺の能力を試しているのか」



 よく分からないことをブツブツと呟いていたが、よし、と突然、気合を入れるような声を上げた。



「お前に自分の身を守れるぐらいまでにするからな。覚悟しておけよ!」



 いらんわ!そんな覚悟!

 

 金髪騎士の意思の強い瞳に気圧されて、私は一歩下がった。



 背後では兄とスキンヘッドが、すでに鍛錬を始めたらしく、木刀の打ち合いの音が響き、第二騎士団の歓声が響き渡った。






  +  +  +






「~~ろ、~きろ、ミコ」



 瞼の裏に日差しが差し込む気配。

 もう朝か。学校に行かねばなるまいが、全然動きたくない。むしろ、休みたい。体がだるい。頭痛い。


 つーか、なぜ兄の声がする?いつもは姉か、母だけど。まぁ、どうでもいいや。


 ここで、お決まりの台詞だ。



「あと…ご、ふん」

「お前の意識がないだけで、五分前から声かけてるぞ」



 く、煩いなぁ、もう。

 いいじゃん、今日は体調が悪いので欠席します。頭痛い。



「あと、はち、じかん」

「そりゃいいが、晩飯食い損ねるぞ」



 そりゃ、死活問題だ。


 母さんは、なにがあっても、私の―……あぁ、うん、時々私の晩御飯、食べちゃうけど。


 仕方なしにパンにジャムとか塗って、ミルクと砂糖たっぷりの珈琲を飲んでると『ちゃんと食べないと、夜中にお腹すいて目が覚めちゃうわよー』って、私のご飯食べながら言うんだよね。


 って、あんたがいうな、母!とか、耐え切れずに、つっこんじゃうんだよね、私は。


 パターンだよ。パターン。


 そうそう、最後には三分間ギリギリでヒーローが巨大な怪獣をやっつける、典型的な――……



 あれ、これ今日の朝も、似たような事、考えていたような。



 しかも、ベットが硬いというか、頬に当たってるのって地面じゃね、これ?じゃりじゃりいって、石が当たってるし。


 目開けたら、兄の足があるし。視点が低すぎ。



「お、生きてるみたいだな。平気か?」



 いや、全然。目を瞬かせながら、起き上がろうとしたら、眩暈が―――つうか、頭が凄く痛いんですけど?頭に触れると、ぬるっとした感触がする。


 手を離すと、真っ赤になっていた。

 スプラッター。頭部裂傷で、気絶したっぽい感じか。


 でも、傷の感触がないような気がする。 


 ぐるっと、周囲を見渡すと屈んで私を揺さぶっていた兄に、ごっついオッサンの群れ―――じゃなかった、騎士が私を囲んで心配そうに覗き込んでいる。


 どうやら、金髪騎士との訓練中に気絶させられたようだ。


 とほほ…普通の同世代の女性よりは体力があると思っていたが、かなりもうクタクタだった。

 あぁ、日頃の引きこもりが、響いてるんだろうな。


 騎士と訓練してたんだから当然か――って、少しは手加減ってものを知らないのかね、金髪騎士よ。

 

 私は兄に頷いて、ポケットから手拭――グラデーションのかかった三日月の夜空の下でウサギが餅つきをしている可愛い奴なのに勿体無い――で手と頭の流血を拭った。


 後で洗っても、血がとれるだろうか?


 起き上がると、ふらふらした。

 出血多量か、もしくは完全に打撲を味わっている全身か。動きすぎという可能性もある。


 眼鏡越しに兄が、私を覗いていた。


 血を拭っていて思っていたんだが、出血の原因であろう傷はカサブタになってるんでございますが??

 姉……は見渡す限りいないし、昨日は頭に怪我なんてしてなかったはずだ。



「……傷、ない」

「治しておいた。兄ちゃん、そこまで薄情じゃないぞ」



 え、ええええ!!??治したって、誰が!?いったい、いつ、どこで、どんな風に!!地球が何回、回った時に!



「俺。今。ここで。今朝の由唯と同じように。この世界が自転しているか不明だ」



 正確に心読まれた!!!

 ってか、どうやって!お前は魔法使い兼剣士とかだっただろう!?



「ま、細かいこと、気にするな」



 …………そうか、兄だもんな。細かいこと気にしてもしょうがないか。


 爽やかに兄が笑い、私は冷めた視線を兄に送る。



「……どのくらい?」



 寝てたんだ、私は。


 金髪騎士に型を習ってから、即木刀で打ち込みになった。

 もう、休憩もなく、ただひたすらに、どれくらいやってたのかわからないぐらい。


 ほぼ一方的に木刀で殴られまくってた。

 

 前に兄と倉庫に閉じ込められて、木刀で殴ってきたやつとは比べ物にならないくらいの速度でかわせないのがほとんどだった。

 

 しかも、当たると骨が折れるんじゃないかってぐらい、ものすっごい痛かった。

 泣くぞ!この野郎!と思ったのは一度や二度ではない。


 途中で、ジークが戻ってきて声をかけられたような気もする。


 最後に覚えているのは、金髪騎士の一撃をかわして懐に入ったと思ったら、アイツは体を回転させて、その反動で蹴られたのは覚えているけど。


 足がふらふらだったから、そのまま吹っ飛んで記憶がない。



「大丈夫だ。ほんの三十分ぐらいだ」

「……ん」



 そうか。三十分か。



 ―――その三十分の間に一体、なにがあった?兄よ?



 どうして、私をぶっ飛ばしたはずの金髪騎士がのびてるんだ!?

 第二騎士団の面子の一部が、彼を囲んで頬を叩いてたりしてるんですけども!?私じゃ、ないよね!どう考えても!


 あっちでスキンヘッドと数名の若者騎士が肩で息して、転がってるし!

 

 なにやらかしたんだ、兄よ。

 怒らないから言ってみ?


 第二騎士団のむっさいオヤジどもの、兄を見る目が滅茶苦茶怯えてるんだから、なにかやったんだよね!




「あははは、色々と」




 って、爽やかな笑顔が今は黒いよ、兄!


 兄とは反対側にジークがいることに気がついて、視線を送る。



 ジーク!あんさんは何か知ってるよね?!この場にいたんだよね!?と、目で訴えたが、彼は青ざめたまま首を左右に緩く振った。 



 なんだ!なにがあったんですか!??

 ま、まさか、悪魔あにが非道の限りを!?


 だ、誰か至急、説明求む!


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