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岸田家の異世界冒険  作者: 冬の黒猫亭
二日目 【異世界生活の始まり】
61/119

Act 20. 第二騎士団へようこそ

 

 ジークが所属する第二騎士団で世話になるらしい。


 昼食が終わった後、連れて行かれたのは地獄―――騎士の鍛錬所だった。

 バタバタしているのは常なのか、ゴブリンの大軍に備えてなのかはわからない。


 すでに鍛錬が始まっていたらしく、気合の入った掛け声と、激しい剣戟の音が響き渡り、むさっくる……いや勇猛果敢なイシュルスの騎士たちが汗を流していた。


 うん、わりと吐きそう。

 まだなにもしてないけど、口元を押さえてしまう。


 幸一を―――カレーライスを食べてきたから、すぐ嘔吐できるよ。たぶん。



「……雅兄」

「なにもいうな。俺だって、死活問題でなければ、近寄らん領域だぞ?」



 兄は何処か遠い眼をして「せめて全員、女騎士だったらやる気が上がるんだがなぁ」とぼやいていたが、スルーした。


 私だって、ファンタジーにありきたりな獣人とか、もふもふ系だったら120%やる気でてるわぃ!

 

 ただですら、熊王子がどっかにいってしまって、癒しが足りない。

 せめて叔父の家にいたウサギがいたら……この際、柵の中で放し飼いしていた鶏でもいいよ。見るだけで、癒えるよ。

 

 せめて叔父に厩舎に入る許可を取っとけばよかった。

 馬に人参食べさせてあげるくらい許して欲しい。



「アルケルト様!」



 兄妹で青ざめてげんなりしてると、誰かが案内役のジークを呼んだ。

 ちなみに姉はチャラ男と専門の場所?で修行するらしく、どこぞに連行されていった。


 「様」と呼ばれているということは、もしかして彼は偉い人だったのだろうか?


 呼んでいるのは、私よりも三つか四つ年上ぐらいの褐色の肌にくすんだ金髪の若騎士である。

 姉と同い年ぐらいだろうか?

 

 どうやらジークを尊敬しているらしく、若者特有のキラッキラした瞳で彼を見ている――いや、年下であろう私がなんですが。



「エミィ、様はやめてくれ。俺は今はしがない準騎士ガーディアンナイトだ」



 エミィってもろ女の名前のような気がするが、男、だよね?

 やっぱり、すぐに忌避の声があがる。



「エミィはやめてくださいよ。俺はエミィリオですから……アルケルト様の実力は正騎士ハイナイトではないですか――と、失礼。こちらの方々は、騎士の入団希望…ではないですよね?」

「いや、入団希望ではないが…」



 全然目に入ってませんでした、といった感じで、後ろにいた私たちに視線を向ける。

 

 怪訝そうに私たち兄弟を頭から足の先まで眺めて、値踏みされているようだ。しかもそれを繕わないのは正直者なのだろうか?別に悪意はない気がするが、気分はよくない。


 いや、入団ではないですが、似たようなものです。

 ものすごく、残念ながら。


 

「昨晩の流離人ルエイト殿だろう」

「ベルルム。二人とも丁度いい」



 今度はぬぅ、とスキンヘッドの強面のおっさんが出てくる。

 



 怖っ!!




 私は視線を逸らして、反射的に兄の後ろに隠れた。 

 父も顔が怖いけど、ヤのつく本職の方々でも、こんな怖い方みたことないわ!ってぐらいの顔だ。


 頭部と顎の辺りに傷があるし、眼力が半端ない。

 こりゃ子供泣くわ。


 兄も私も見上げなければいけない長身で三十代半ばぐらいの熟練の騎士っぽいハ――いえ、スキンヘッドに、見覚えがあるんだけど、もしかして昨晩、車を警護していた騎士だろうか。


 滅茶苦茶、こっち見てたし。


 しかもベルルムって名前……聞き間違いとかじゃないよね。

 変わった名前だ。


 

「え?昨日の流離人ルエイトって……まさか!牢屋に突っ込まれたって話だろ?」



 ええ、突っ込まれておりましたよ。

 

 どうやら、出されたという話までは広がっていないようだが、流離人ルエイトがやってきたことは、ばれているらしい。


 

「間違いない。こっちのちっこいのは、昨日の馬のない馬車から顔をだしていた」



 と、兄越しに覗き込まれて、反対側に移動する。

 しかし、スキンヘッドも負けじと、反対側から覗き込もうとするので、また逆に移動する。


 やっぱり、昨日の奴だったのか。



「……馬車の警護は第一騎士団の仕事だったはずだぞ」

「あっはっはっ、なんだか面白そうだったんで、一人きぜ―――いえ、代わっていただきました」



 絶対、気絶させたんだろう!!


 ジークも若騎士もしっかり聞こえていたようで、呆れ顔でスキンヘッドを眺めている。

 どうやら、この男は問題児?のようだ。



「代わったって……規則違反じゃないか、それは」

「まぁ、細かいことは気にするな。ほーれ、怖くないぞ」



 説得力なしっ!すっげー怖いわ!その顔で子供――いや、あんまり認めたくないが、侍女の扱いも含めればそう思われていて仕方がない――好きか!吃驚するわ!自分のキャラクター守れよ!どう見ても古参の騎士っぽいんだから、どっしりと構えてろ!無言で新参者を睨みつけろ!



「暇なら、おにーさんとあっちで遊ぶか?」



 暇じゃない!遊ばない!おにーさんって年か!

 っつーか、兄は一人で十分です!手に余ってます!これ以上いりませんから!ノーセンキュー!


 ついにはヒートアップして、兄の周りでぐるぐると回りだす羽目になった。



 くっ!フェイントなど使いおって!



 伸ばされた手を持ち前の足の速さでギリギリ避ける。


 兄は助けてくれるどころか、面白そうに笑っているだけであった。

 ジーク、ヘルプ!と視線を投げると、なぜか微笑ましそうに眺められていた。



 み、味方がいないっ!


 

 こちらは汗が出てきたが、スキンヘッドは全く汗をかいていないし、涼しい―――いや、相変わらずの怖い顔であった。



「こらこら、じっとしてろ。ここは本当に危ないんだ。子供が来るところじゃないぞ」



 お前が一番危ないわ!そして、誰が子供だ!


 視界の隅に、屈んだ騎士を発見して、そこに駆け出した。

 休憩時間となったのか、木陰に入ったらしく、丁度よく木の前であった。 



「すみません」

「ぐあっ!」



 一言断ってから、その背中を踏み台として跳躍し―――やっぱりまだ少々慣れないが、いつもよりも高く飛び上がれるようだ――太い枝に手を伸ばして、足を乗せ、一気に登った。


 そのまま勢いに任せて、私の体重を支えられる限界の枝まで見極め、天辺に向かう。

 

 最終的に、細い枝の上で膝を抱えて、相手が諦めるまで待機。

 相手が上ってくるようなら、隣の木に移動するために、周囲の木々の状態を確認しておく。 


 勢いよく上がってきた反動で、枝が上下に撓っているのが若干危なっかしいが、少しでも遠くをモットーに実行しております。はい。



 よく、昔から兄の敵に襲われたときに使ってたなぁ、この手。

 

 相手が諦めるまで木の上で本読んでたり、携帯ゲームしたり、痴漢撃退グッヅの警報機を複数投げて、人様に警察を呼んでもらうとか、上ってこようとする人間を蹴落としたり懐かしいなぁ。


 一回隣の木に飛び乗るの失敗して、誰かを下敷きにしたっけ……私も若かった。


 あの後、追い詰められて大変だった。

 交番に駆け込もうと思ったら、巡回中で誰もいなかったし。



 あ、なんか涙出てくる。

 


 突き抜けるような秋空――といっても、この世界に秋という概念があるのか、秋であるかもよくわからないけど――眺めていると、下が騒がしくなる。


 ついでに、物凄く木が揺れている。

 

 茂る葉の間から下を覗くと、慌てているスキンヘッド騎士が、私を追いかけるように木登りしようとして、幹に抱きついて、困り果てた顔の若騎士とジークが押さえ込んでいるようだった。


 頼むから抱きつくなよ。

 あんまり太い木じゃないから、振動が上までくるんですけど。


 兄が爽やかな笑顔で仲裁に入るが、その目は「オモロイ人達」だと語っている。

 

 多分、しばらく兄妹が騎士の鍛錬にお世話になりますよ~みたいなことを話しているらしく、若騎士とスキンヘッド騎士がこちらに悲鳴が聞こえるほど驚いている。


 後頭部だけで顔は見えないが、その間に第三者がやってきて兄と向き合って、なんやかんや言ってる。聞こえる言葉の端々が刺々しい怒声だ。お世辞にも友好的とはいえない。


 私の上っている木の幹に、男の拳が渾身で叩きつけられ、一際大きく揺れた。




 ばきっ



 

 あっ、と間抜けな一音を発して、全身に浮遊感。


 反射的に手を伸ばし、地面に落ちきる前に、何とか下のほうの枝を掴んで、地面に叩きつけられるのを回避した。どうやら、身体能力も上がっているような気がする。


 ホッとしたのも束の間、ごん、と鈍い音がした。


 あと短い悲鳴。


 足元を見下ろすと、先ほど兄に文句?を言っていたような男が地面に倒れていた。

 どうやら白目を向いて気絶しているようだ。


 その頭部の横には私の乗っていた枝が転がっていた。



 しかも、男の顔をよく見ると、騎士(目つき悪)だった。



 姉にも兄にも気絶させられていたから、この男を失神させるのは明日かな(笑)なんて、冗談まじりで思っていたが午後のうちに現実のものになろうとは。ぷぷぷっ。


 とりあえず地面に降りて、「不可抗力」と謝罪して、両手を合わせて拝んでおいた。





  +  +  +





 足を掴まれて、他の騎士に引きずられていく、騎士(目つき悪)を見送り、改めて二人を紹介された。


 くすんだ金髪に褐色の肌をした細身の方が、エミィリオ。通称エミィ(本人非許可)。

 スキンヘッドの方がベルルム。歴とした騎士で、兄弟が多く子供が好きらしい。なんてはた迷惑な。



「二人には、サミィ殿とミィコ殿に指南していただきたいと思っている」



 というと、二人が大きく両目を見開いた。



「こんな優男を――」

「こんなちっこい子を――」


「「冗談でしょう?!」」



 二人の声が、一部、綺麗に重なった。


 詰めるように一歩前に進み出るが、ジークが迫力にやられたように後ろに下がる。


 ちっこい子って私か…地味に喧嘩売られてるのだろうか?

 兄、優男って。そのまんまじゃん。



「それが冗談ではないんだ。数日後の大惨事・・・は知っているだろう?」



 大惨事って、もしかして、ゴブリンの大軍のことであろうか?

 すでに騎士団には伝わっているらしく、二人の騎士は勿論だというように顔を引き締める。



「彼らは前線に出る」


「な、なにぃ!?」

「なんとっ!?」

「え!うそ!」



 え?兄だけじゃないの?私も決定事項なの?


 さらに悲鳴を上げる二人に合わせて、こっそり私も悲鳴を上げてしまった。



「だ、駄目だろ!それは!」

「危険ではありませんか!」

流離人ルエイトをそのような場所へ!」

「無理だ無理だ!」



 しかし、四人で額を突き合わせていたのだが――こんな青空の下では機密性などないが―――鍛錬をしていたはずの第二騎士団の面々が私たちを取囲んでいる。ジークの言葉に、各々好き勝手に叫んでいるので、誰も私の悲鳴に気がつかなかっただろう。


 いつの間にか、鍛錬の剣戟の音がせず、物凄い人が集まっていた。




 なんだ、この騎士団?




 しかも、しゃがんで本格的に話し合いを始めちゃってるんですけど?



「―――も時間がなさ過ぎるだろう」 

「ジークが連れてくるほどだ。流離人ルエイトとはいえ、きっと――」

「いや、むしろ、我々の第二騎士団でお守りするというのはどうだろうか?」

「おお、それはいい考えだ!」

「いやいや、しかし、鍛錬をと望まれて――」



 親身になりすぎってか、アットホームってか。

 なんか、可笑しくない?


 他の騎士団もこんな感じなのだろうか……非常にイメージというものが、この世界に来てから崩れ落ちているのですが?


 スキンヘッド騎士と若騎士も完全に輪に入ってしまっている。

 それを止めるべくジークが声を上げているが、あんまり聞き入れられてない。

 

 第二騎士団?の面々が、やんややんやと本人そっちのけで言い争っている中で、覇気のない髭のオッサン騎士が横にぬぼーっと立っていて吃驚した。


 あまりにも地味過ぎて、側にいるのも気がつかなかった。


 たぶん集団に最初から紛れていたのではないかと思うけど、特徴がない分、わからなかった。



「君も、若いのに大変だねぇ」



 こくこく、と大いに同意すると、オッサン騎士――五十歳前後だろうか?――苦笑を浮かべた。


 モブの中のモブって感じだが、いい人だ。


 でも、この人がサラリーマンなら、中間管理職なんじゃないかという雰囲気だ。

 かかあ天下を強いられているとか。



「それにごめんね。皆、どうも感情移入しやすいたちでねぇ」

「―――とてもよい所だと思います。俺は」



 兄が答えると、オッサン騎士は困ったように、でも誇らしそうに笑った。

 

 うーんん、駄目だ。

 どうも年上特有の威厳みたいなものが感じられない。



「そういってもらえると、ありがたいよ。でも仲がいいんだ、僕たちの預かる第二騎士団は」



 おまけに気弱そうな感じが、同期や部下にも舐められ―――え?







 僕たちの預かる・・・第二騎士団?

 






「ん?どうかしたのかい?」



 オッサン騎士が不思議そうに小首を傾げると、丁度よくジークが此方に振り返った。

 そしてオッサン騎士に視線を向けると、はっとしたように声を上げた。







「トーマス団長!」






 なに、その機関車みたいな名前はっ!―――驚くよりも先に私は内心ツッコミを入れていた。


すみません…大分遅れておりました orz

三日に一遍ぐらいって思ってたけど、最初にご感想でいただいていたように無理でしたね(涙)

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