Act 05. 王子の血を追え
生い茂る森は、非常に幻想的だった。
葉が太陽光を遮り、薄暗いのだが、差し込む一筋の光が一層美しい。
いつもなら、ご機嫌になってもいいぐらいの景色だ。
「なんで、私が……」
だが、獣道すらない森の中へと、王子の血を、ヘンデルとグレーテルのように追って進むのは、いい気分がしない上に、風で葉が揺れるたびにおっかない。
だってさ、いつゴブリンがでるかも、だよ。
兄の金属バットと、私のレンチで撃退できるわけ?
いや、昔暴走族に一人で突っ込んでいた兄ならやりそうだけど、私無理だし。
つーか、父いけよ、父。
普通こういうのって、野郎どもの仕事じゃね?
もんもんとしながら、兄の背中を追いながら、小枝を折って、流れるように大木に蛍光ペンで矢印をつけて、その後方を歩む。
よく叔父の家の裏庭(山脈)で迷子になっていた日々の賜物だろう。
「っつーか、自分たちで受けたんだから、自分でいけっつーの」
「まぁまぁ、そういうな。さっき寝てた分、少し働け。本当に三段腹になっちまうぞ」
「うっ…平気だし!」
ワゴンから見送る面々を思い出して、いら、とする。
『おれゃ、持病の水虫がな』
父よ!森に入るのに、関係ない!
その年で、水虫だけしか持病がないって、存分に健康だい!
お前の靴、二度と洗ってやるものか!!
『お母さんも、持病の四十肩が…ごほごほっ』
って、四十肩は咳きこまんでしょうよ。わざとらしすぎるワイ!
どうせ、お父さんいかないなら私もいかなーい、とか思ってるんでしょ!
このラブラブ馬鹿夫婦め。
『アタシ、ヒールだしぃ、せっかくネイル塗りなおしたのに折れたらどーすんのよ』
あーもー、父のスニーカーでいけよ!水虫になれ!
ってか、お前の花柄の爪なんか知るか!引き受けた本人いけよ!!
しかも、私の武器レンチって、リーチ短くね?死ねと?私に死ねと?
『やはり、こんな幼子にまかせるのなら、私が!』
殺すぞ!この王子!
手に持ったレンチが震え、思わず振り上げかけてしまった。
殺人光線が利いたのか、王子が怯み、家族のどっ、と笑い声が車内に響く。
『その子、一応18歳』
『え、18歳?と、年上なんですか!!』
目を丸くして、本気で驚いているあたりに、更なる殺意が湧いてくる。
無論、彼に悪気がない。
だからこそ、怒ることもできず、始末が悪いのだ。
くっ、これだから天然系は!
思い出すだけで、胃の辺りがむかむかする。
要胃薬、といっても、所詮は精神的なものを緩和してはくれないだろう。
あ~、猫とか、犬とか、小動物に触りたい!撫で回したい。
いやもう、いっそ、森だから狼でも熊(切実に大人しいやつ)でもいい!
「っつーか、14歳に『幼子』いわれたかないし」
「ははは。いいじゃないか。実際、ゼルの方が、よっぽど大人っぽいぞ」
「むきー!!」
地団太を踏むも、兄は笑って取り合わない。
が、ふと、笑い声が止まり、片方の眉を器用によせて、訝しげに振り返った。
なにか、疑問があるときの顔だ。
「なに?」
「年、言ってないよな」
「ん~…王子は言ってなかった、と思うけど」
あの後、言葉は交わしてないってか、大爆笑してた家族にムカついて、さっさと出てきたのでわからないが、年齢の話はしてないと思う。
「王子?金髪碧眼だからか?安直な」
「って、私も思ったけど、あれ、本物の王子だし」
「……本物の?」
「ついでに、その首からぶら下げてるやつ、王子ん家の国宝だって、後で返した方がいいよ。販売価格の桁が凄いことになってたから」
「ん~……」
兄は足を止めると、顎に手を当てて、明後日の方向を見ると、本格的に思考に集中し始めた。
こうなると、どれくらいかかるのかわからない。
私はこれからの危機を想定して、自分のステータス画面を表示させる。
アップしとかないと、まずいだろうか。
ゴブリンとの退治は一般人にはきつすぎるだろうし――ってか、私、一撃で、即死だな。
【岸田 真実子(18)】 職業:ゲーマー(Lv51) サブ職業:専門学生(Lv12.)
HP:114/120
MP:97/99
【筋力】 17
【俊敏】 39
【知性】 11
【直感】 97
【器用】 17(+3)
【意思】 7
【魅力】 14
【幸運】 42(+7)
【技能】 [悪運] [調査] [一枚の壁]
【補正】 母の慈愛 父の加護 地属性20%耐性
【EXP:3621】 【次のレベルアップまで:106】
【ボーナスポイント】 426P
結構歩いてるから、地味に体力減ってるのはわかるけど、MPは何に使ったんだろ??
なに、地味に精神的ダメージの反映??
えーと、とりあえず、適当に100ぐらい使っちゃうか。
私、家族よりもボーナスポイント多いし。
ゲーマーは肉体職業じゃないから、正直パラメーターの補正に期待はできない。
職業を変えれば、多少は補正がつくけど、盗賊、遊人、吟遊詩人、弓使いじゃなぁ。
基本的にネットゲーじゃ、ほとんどソロプレイヤーか兄が加わるかどうかだから、剣士とか戦士がほとんどで、サブに遊びで魔法使いとか、重装備でも素早く反応ができるように盗賊はつけてたけど。
盗賊なら、器用さと素早さ。
弓使いなら、直感と素早さ。
遊び人なら、大きく幸運。
吟遊詩人なら、直感と魅力。
補正がつくにしても、微妙に少ないなぁ。
盗賊か、弓使いかぁ…職業はやっぱり、保留。兄の選択次第で変えるしかないなぁ。
できれば、弓使いになりたいなぁ。
弓道、アーチェリーとか興味あるし、後方支援なので、危険度は低いだろう。
うん、兄全面的に、盾にしようとしてるけど、兄の性分だろうし――あ、でも本当に魔法が使えるなら、絶対魔法使いとで悩みそうな気がするけど。
先ずは、三ケタ台ゲットしよう。
「とにかく、直感力にポイント3プラス――ぎゃっ!」
【直感】97の横にある+、-に手を伸ばす前に、三ポイントプラスされて、ピコピコ点滅している。
『決定しますか?はい、いいえ』と新たなウィンドウが横に出現する。
が、今、私が+-を触れる前に、三ポイント加算されたということは、音声でも入力可能のようだ。
「決定します」
と、呟くと、97が100になった。
ぱらららーん、と少し小さめの効果音がなり、それが実行された。
私のステータスの初の三ケタ台に思わず、にやにやしてしまう。
ゲームの達成感ほどではないが、なんとなく画面で自分が成長しているのが分かるのはうれしい――もっとも、これが、私の頭がいかれていなければ、の話だが。
あと、97Pポイントどうしようかな~。
後、スキルは幾らあっても、消えることがないので、これも入れておこう。
【集中Lv1】 10P
【五感強化Lv1】 20P
NEW 【虫の知らせLv1】 20P
【敵索Lv1】 40P
【調査Lv2】 50P
お、おおぅ。さっきより、スキルがひとつ増えてる。
虫の知らせ…なんか、スキル名だけでは、イマイチ何に役立つのかわからない。
直感が100になったから、出てきたみたいな感じであるなら、直感に関するものなのだろう。
う~ん、悩みどころだけど、よし、集中、五感、虫のスキル取得しよう。
技術は嵩張らないし、多分、今みたいに、スキルは何かを達成しないと出現しないので、それを待っていても、使えるのか分からないし。
「集中、五感強化、虫の知らせ、取得。決定します」
んで、残りは47P。
敵索はどうしようかなぁ…40Pは手痛いなぁ。
それだったら、1Pで、HPか、MPを10増やせるほうがお得感があるけど――Lv1だと、一キロ圏内に敵がいるかどうかだもん。
しかも、現在周辺地図がないため、どの方向からかは不明記ってちょっと不親切だよ。
大雑把な機能だけど、ソロプレイヤーなら必須だなぁ。
バックアタックとかされて、クリティカルヒット食らったら、即死亡コースに乗っちゃうしなぁ。
ま、いちおう付けておこう。
残り7Pは、一ケタ台である、精神に+3Pにして、残りの3Pを体力に+して、最後の1PをMPにでも入れておくか、減ってるし。
で、私のステータス、オープン。
【岸田 真実子(18)】 職業:ゲーマー(Lv51) サブ職業:専門学生(Lv12.)
HMP:156/160
MHP:109/109
【筋力】 17
【俊敏】 39
【知性】 11
【直感】 100
【器用】 18(+3)
【意思】 10
【魅力】 14
【幸運】 42(+7)
【技能】 [悪運] [調査] [一枚の壁]
[集中][虫の知らせ(シェバ・ティーユ)][敵索]
[五感強化]
【補正】 母の慈愛 父の加護 地属性20%耐性
【EXP:3621】 【次のレベルアップまで:106】
【ボーナスポイント】 326P
おー!拍手大喝采!
使えるのかわかんないけど、技能がいっぱいあると、それだけで強そうだ。
「なにが強そうなんだ?」
「いや、スキルがさぁ、ボーナスポイントで増やしたら、二行になって………終わったの?」
冷静な声をかけられて、一人で興奮していたのが恥ずかしくなり、意気消沈する。
なんだか、温度差をすごい感じるよ、兄。
ちょっと面白いのになぁ―。
「ミコ。単刀直入に聞くが、なんであいつが王子で14歳だってわかった?」
「ついでに、サブ職業、聖騎士だけど――ってか、雅兄がゴブリンの時、後でって言ったから」
「ぎゃーぎゃー、騒いでたときか」
「ぎゃーぎゃーはしてない!もういい、とりあえず、眼鏡さんどうぞ」
私は、風呂で裸になってもはずすことのない眼鏡を兄に渡す。
兄はすごーーーーく、怪訝そうな顔をしたが、大人しく眼鏡をかけると、一瞬呆けた。
「うぉう!なんじゃこりゃぁ!」
お気に入りの古い探偵ドラマの主人公顔負けの、叫びを上げた。
どうやら、ステータス画面が見えているようだ。
よかった。私の頭がいかれたわけじゃないらしい。
「俺のステータス、ジョブが、お前さんのより多い」
「よけいなお世話だっ!じゃなくてさ、ちょこちょこ弄って、スキル増やしたんだい!」
「ほほーうぅ」
と兄は唸って、ぽんと、私の肩をたたいた。
「……ステータスに振ってもよかったんじゃないのか?」
「悪かったね!それでも、ちょっと入れたの!後で職業決めてから、相談してから入れるつもりだったの!」
思いっきり反論するも、ステータスを観覧していた兄が、急に眉根を寄せた。
「くっ、剣士か…魔法使いか…聖職者は、だめだ…いや、サブ職業で…くぅう!!」
やっぱり言うと思った。
やーいやーい!って、うらやましい悩みだな!おい!
「あれ?」
「どうした?本職ゲーマーよ」
「悪かったな!専門職がサブ職で!じゃなくて」
「なんだ、盗賊よ」
「まだ、盗賊にしてないから!てか、候補は危険の少ない弓使い!」
どうやら、兄は私の職業を盗賊に決めてしまっているようだ。
まぁ、兄が剣士で前衛にでるにしろ、魔法使いで後衛に下がるにしろ、中衛は必須だから、どちらを選んでも合理的だろう。
「てか、雅兄の顔がはっきりと見える」
「ん?お前、眼鏡はここだぞ――あぁ、五感強化を取得したからじゃないか」
「あ、なるほど」
五感強化をしたから、眼鏡がないとボヤける顔が、わりとはっきりと見える。
というか、この視力だと眼鏡いらないな。
「いらないなら、俺にくれ!」
「やんねーよ!心を読むな、心を!てか、車に戻ったらあるじゃん、自分の」
「う~ん、でも同じように見えるかどうか」
兄は私に眼鏡を返しながら、度が合わなかったらしく目を揉んでいる。
私は再び、眼鏡をかけたが、裸眼と変わらなかった。
―――そして、その時だった。
精神を苛立たせるような甲高い警戒音。
ステータス画面が、真っ赤になって点滅を始めると、≪WARNING≫の文字が、出現した。