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岸田家の異世界冒険  作者: 冬の黒猫亭
二日目 【異世界生活の始まり】
47/119

Act 07. 出遅れております

 朝食後にその足で出かけるのかと思ったが、一度部屋に戻るように言われた。


 どうやら護衛の騎士と一緒に出かけるらしい。


 確かに兄弟だけで金を持たされて外に放り出されても、装備を揃えるどころか、スリにでも遭遇するのがオチだろう。もしくは値段を割高で吹っかけられるとか。

 

 さすがに叔父もそこまで常識がないわけでは――十分に非道だけど――なかったらしい。


 それから馬車の時間があるらしく、どちらにしてもすぐには外出できないらしい。


 両親は自室へと消えていったが、兄弟は兄部屋に集合していた。


 時間があるなら、やることはひとつである。

 

 ステータス弄りまくりである。

 今のうちにやっておかないと、午後の修行で死ぬ可能性大である。

 

 ベットに腰掛けて私が本格的にステータスを弄ろうとすると、最後に入ってきた兄が扉を閉めた後に呆れたような口調で姉に問いかけている。



「……由唯、ステータス見えないんだよな?」

「見えてないけど、なに?」



 不機嫌そうな姉に、兄は顎を指でなぞりながら思案げな顔で、私を振り返る。



「ミコ。由唯のステータス見えるか?」

「うん??」



 

   【岸田 由唯(22)】 職業:僧侶(Lv1) サブ職業:拳闘士(Lv6)


    HP:177/177 

    MP:248/248 


   【筋力】 24

   【俊敏】 33

   【知性】 29

   【直感】 36

   【器用】 41 (+3)

   【精神】 67 

   【魅力】 108 

   【幸運】 50 (+5)


   【技能】 [魅惑(シャルメ)] [真瞳(レアレテ)] [瞬発(モマン)] 

        [癒しの心アペゼ] 


   【補正】  母の慈愛 父の加護 ヴィヴェル神の加護


   【EXP:1463】  【次のレベルアップまで:30】


   【ボーナスポイント】 201 P


 



 あれ?姉の職業って看護婦じゃなかった??いつの間に職業が僧侶になってるんですけど?

 しかも、サブ職業『拳闘士』って、最初に見たときちゃんと見てなかったかも。

 めちゃくちゃ、異世界職業っぽいな。


 ストーカー殴る蹴るしてた積み重ね…なんだろうか?



「なんか、由唯が『僧侶を修行する』って言った途端に、職業欄のナースが僧侶になったんだ。最初よりステータスも上昇してる。やっぱり気がついてなかったか」

「……そんなこと、できるんだ」

「たぶん、それも宣言に入ったか、由唯の『意思』によって変わった可能性もある」



 姉はわかっていない様子だったが、兄が説明していた。


 これはこの世界で普通…なんだよね?自分の意思で選択しているというか、ステータスが見えないんだから当然だろうけど。


 私たちはこっちの常識なんて知らないのに、それを極々自然に行ってしまう姉って逆に凄くない?


 あんまり考えたことなかったけど、もしかして姉もチート予備軍……なのだろうか?


 単体で微弱と表記されてはいるが、すでに僧侶のスキルである回復魔法【フェーブル・トレト】を覚えて、即使えるようになってしまってるよ。よくみればMPの数値がすごいよ、姉。


 そういえば、姉は外では優秀な人だと風の噂で聞いたことがある。

 家ではダラダラしているので、想像できないけれど


 兄弟の中で私だけか普通の平凡的な人間は……世の中って公平にできてないんだね。

 つくづく実感してしまう。


 姉に説明が終わった後、兄は私に提案してきた。


 

「ミコ、暇なら、遊人以外のサブ職業を選択してみろ。昨日試したんだが、適正のあるやつは基礎技能だけ取得できるぞ」



 ええ?兄昨日弄ったんだ。

 そういえば結構ボーナスポイント減ってるし、何個か技能が増えているような気もするけど、はっきりと覚えてはいない。自分のステータスでもいっぱいいっぱいだったし。


 というか遊人カサノバは技能なしか。


 弓使いと吟遊詩人の順番で選択する。

 すると、弓使いは技能[風読みヴァンリール]を覚え、吟遊詩人は[音響拡大ソン・グランディス]を覚えた。



「さすが兄、外道だ」

「ははは、要領がいいだけだ、要領が」



 それで兄もサブ職がすでに魔法使いになっていたのか、納得。

 たぶん適正のないやつも試したけど、技能はつかなかったというところだろうか。


 

「魔法、使えるの?」



 兄のスキル画面が一ページ?増えて、魔法という欄ができている。 



「太陽から零れ落ちた一粒の赤き熱、我の手に集いたまえ。プティット・フー」


 

 呪文らしい言葉の最後でライターの最大出力したぐらいの火が火種もなく、ぼっと音がしたと思ったら、唐突について揺らめく。


 この世界の呪文は、祈言葉+鍵言葉で発動らしい。


 もっとこう理解できないやみたいなのかと思ったら、意外と普通な呪文だなぁ。

 最後の鍵言葉だけが、呪文っぽい。


 でもやっぱりテレビ画面とかで見るよりも、迫力が主に違う。

 


「お、おおぉう!すご、すごいよ!」

「やだ!なんか手品みたい」



 本物だよ!本物の魔法使いが兄―――なんかちょっと納得いかないけど、魔法使ってるよ!できれば使いたいから、後で私も練習しよう!頑張ろう!使えるかわかんないけど。


 しかし、兄の掌の一センチと少し上で燃えているが、熱くないんだろうか?


 ちょっと手を翳してみる。

 が、炎が揺らめき、私の親指辺りに火が触れる。



「うぁああぢ!!!」

「馬鹿、手を出すな。集中して出し続けるの難しいんだぞ。俺もそこそこ熱いんだから」

「あははははっ!」



 やっぱり、兄も熱かったのか。

 私も、ものすごく熱い。とりあえず口に銜えて何とかやり過ごそう。


 兄が軽く手を振って、火を消した。


 不思議なことに燃料がなく燃えているせいか、匂いみたいなものがまったくない。


 ってか、姉そこまで笑わなくてもよくないでしょうか。半眼で睨んだら、口を押さえたけど笑いが零れてるよ。ぶーぶー。



「あ、由唯、お前も魔法使って治療してみればいいんじゃないか、丁度よく患者がここに」

「兄よ!わざとか!わざとなのか!」


 

 そうとしか思えないけど、私そうじゃなくたって昨日のゴブリンで結構体傷だらけなんだぞ!

 それにさっきも叔父のメリーゴーランドDXのせいで死に掛けたし。



「あー、おかしっ……私呪文なんかわからないわよ、ごほっ」

「まてまて、えーと回復魔法のフェーブル・トレトは…『癒しの守護者ヒールよ。その慈悲深き御心にて、傷つくもに癒しの手を添え給え、フェーブル・トレト』だそうだ」



 スキル画面の簡易の説明がきに書いてあるらしい。


 脳内メモに入れておこう。いつか使える日が来るかもしれないし。


 私は兄に促されて、親指を口からだすと赤くなっていて、姉は苦笑を浮かべた。

 できるかわからないからね、みたいな顔である。


 姉が私の親指に手をかざす。



「癒しの守護者ヒールよ。その慈悲深き御心にて、傷つくもに癒しの手を添え給え、フェーブル・トレト」


 

 ふわり、と姉の手が数秒、燐光を帯びる。


 そして親指から痛みが弱まり、赤くなっていた肌も治っている。



「お、おぉおおう!姉も凄しっ!!」



 傷の癒えた親指をマジマジと三人で眺めながめていたのだが、もっと凄いことに気がついた。

 

 手の甲にあった昨日のかすり傷も完治していた。

 かさぶたに触れると、ぼろぼろと落ちて、その下はすでに真新しい色の違う皮膚。


 予想外の出来事に「おぉ!」と今度は三人で感歎した。


 効果の範囲が手だったのかもしれないが、最初の一歩でこれだけなら、そのうち姉は死者でも蘇らせるんじゃなかろうか。


 ぜひとも我が身の可愛さから、お願いいたします。

 たぶん三兄弟の中で真っ先に死亡フラグを立たせるのは間違いなく私だろうし。

 

 常々思う。


 兄は天才、姉は優秀、私は平凡以下。

 優秀な遺伝を引き継いだのは兄姉で、私は駄目な所ばかりを引き継いだんじゃないだろうか。

 もしくは、二人の遺伝子を引き継いでいないのでは?


 時々叔父に零すと、お前は橋の下で拾ってきたやら、町にきたサーカス団から養子に、などとからかってくるが、小さいころは本気にしていたぐらいだ。いや、むしろ今も半ば本気にしている。

 

 両親は、こんなアホな子供が生まれて、さぞかしがっかりしただろうに。


 一応、これでも頑張ってるんですけど、目の前でさっくさく魔法使われると、なんだかなーと自分にがっかりしちゃうよ。


 そこにノックが響き、ステータス弄りが中断された。


 

「ステータスはまた帰ってきてからにしよう―――どうぞ、鍵開いてます」



 兄が扉に向かって叫ぶと、「失礼いたします」と硬い声色が返ってきて、二人の騎士が入ってきた。


 鎧を着ていない騎士(毒抜き)と騎士(チャラい)である。

 今のタイミングで入ってくるということは、彼らが下町までの護衛ということだろうか?


 挨拶もそこそこに、二人の顔色が物凄く悪い。



「おはようございます。昨日の今日で申し訳ないんですが、よろしくお願いいたします」



 兄の丁重な挨拶に私たち姉妹も挨拶する。


 騎士(チャラい)はともかく騎士(毒抜き)はマトモな部類の人だ。

 いくらこの世界で無知とはいえ、そのぐらいの礼儀はあるぞ、私だって……たぶん。


 騎士たちが挨拶を返し、扉が閉められると、騎士たちが突如と片方の膝をついて、頭を下げたので私たち兄弟は若干びびった。本当。


 誰かに傅くのも嫌だが、誰に傅かれるのも意外と嫌だ。



「昨晩は私の力が至らず、ご不快な思いをさせて非常に申し訳ございませんでした」

「昨日のご無礼をお許しください」



 二人の騎士の態度に、兄は合点がいったようで苦笑をこぼした。


 牢屋の件と車の中での軽口だろう。

 もうすでにどうでもいい。


 牢屋の件は叔父のせいだし、車の中ではむしろ彼らには様々なことを学んだのだ。

 お金とか、お金とか、魔石とか、むしろありがとうございましたと頭を下げるのは私たちのはずである。



「とんでもないです。ゼルスター王子から伺いました。奔走していただいたことに感謝しています。車の中でのことは、貴方達は知る由もなかったし、この世界について様々な事を教えてくださって礼をいうのはこちらです。それに、こちらこそ俺たちのせいでご迷惑をおかけしたようで、もうしわけありません」



 騎士(毒抜き)が不思議そうな顔で、兄を見上げる。騎士(チャラい)は困ったような顔を上げた。

 

 その二人の視線を受けて、兄は真面目な顔で続けた。



「すでに俺たちの事も聞いているようですね。もしアルケルトさんにお許しいただければ、俺の方から降格の無効にするよう口添えさせていただきたいのですが」

「とんでもない!」



 思わず声を荒げたらしい騎士(毒抜き)は一度、口を閉じてから首を横に振った。


 どうやら既に叔父の兄一家であるということは耳に入っているらしい。

 そうか国僕たる彼らが王を敬うのは当然だし、ついでといっても王の兄家族と聞いてしまった以上、昨日のように気軽にはできなかったのだろう。それで突然膝ついたのか。


 

「失礼しました。皆様一家がそのレジィー王の『大切な方』だとお伺いはしております」



 多分、騎士団長から事実と口止めは万全なのだろう。

 秘密は少ないほうがいいとかいっていたし。



「私の降格は皆様とは無関係です。ゼルスター王子をお止めできなかった叱責ですし、受けて当然です。ご容赦ください」



 兄が考えていた模範解答が帰ってきたらしく、満足げに頷いている。


 たぶんだが、兄は口添えする気は最初からなかったのだろう。

 なにせ叔父が決めたわけではないだろうが、誰か上の人間が決めたことを覆すというのは、横暴にも感じるだろうし、無用に恨みを買う。


 騎士(毒抜き)は昨日から礼儀正しかったし、根本的にいい人なのだろう。



「これから暫く家族共々、お世話になります」

「こちらこそ、無礼なきように精一杯、尽くさせていただきます」

「では早速三つほど、お願いが」



 それで兄は言質を取ったといわんばかりに、洗剤のCMみたいな爽やかすぎて胡散臭い笑顔になった。


 さすがに行き成り過ぎて、騎士達が戸惑うのがわかる。

 


「は、はっ、できる限りを」

「ありがとうございます。俺たちは元の世界では極々平凡な一般市民で」



 嘘付け!この鬼!悪魔!トラブルメーカー!歩く災害!

 お前が極々平凡な一般市民の基準ならとっくに世界が滅んでいるっての!!



「人に傅かれるのには慣れていません。これから共に長い時間をすごすのですから、できたら敬語はなしにしていただきたいのですが。ええ勿論、人目がないときだけでも構いません」



 逡巡し、騎士たちは見合うと苦笑を浮かべた。


 そんなことを申し出る客人たちはいなかったのだろう。

 ある意味、これも私たちの我侭かもしれないが。



「畏まり――いえ、わかりまし――わかった。そうさせてもらいま――もらおう」



 騎士(毒抜き)は喋りづらそうだが、逆に騎士(チャラい)はほっとした様子だった。

 想像つかないし、さっき最初の一言発したとき気持ち悪かったよ。



「二つ目は少し難しいかと思いますが、俺たちが何かしたほうが回避できる危険があるなら事前に説明してください。範疇外であれば、けして我々の我侭を優先させないように」



 兄が私と姉を一瞥する。

 それでいいよな、というような目。


 むしろ私たちの我侭を優先されて全員が危険にあったなら、目も当てられない。


 そりゃそうだ、と私たちが無言で返すと、兄は目元だけで笑った。器用な男だ。



「それを俺たちは感謝すれど、叱責することはありませんから。ま、もしミコが何か文句言うようだったら、俺が言い聞かせますから」



 ぐしゃぐしゃと兄は私の頭を撫でる。


 なんだよそれ。まるで私が我侭言って―――時々しか言ってないし。十回に八回は飲み込んでるぞ。

 

 たぶん今の言葉は彼らに言い聞かせたというよりは、私に言い聞かせたのだろう。

 彼らが理不尽な事を言ってきたなら、俺に言え、と。


 

「護衛としては、至れり尽くせりだ…まいりました」



 という言葉とは裏腹に、騎士(毒抜き)の口元は柔らかい笑みを称えていた。



「それで三つ目は?」

「そろそろ立ってください。疲れるでしょう、その体制?」



 そこでようやく、彼らは部屋に入ってきたときから膝を床に付けていたことを思い出したようで、赤い顔で立ち上がった。


ぱらっぱぱー。真実子は[風読みヴァンリール]と[音響拡大ソン・グランディス]を覚えた。


姉がサブ職にプロレスラーでもよかったような…でも実戦経験はないですからね。実験台にはしたけど。

サブ職が拳闘士でも兄妹はスルー(妹気がついなかった。兄言ったら面倒そう)でした。


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