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岸田家の異世界冒険  作者: 冬の黒猫亭
二日目 【異世界生活の始まり】
44/119

Act 04. 第58回岸田家首脳会議+α

すみません、勘違いしていたせいで、投稿していたものを一度削除させていただきました。


時間の流れを逆にしてた……すみません(滝汗)

あと、早い段階でご指摘していただきまして、本当にありがとうございます。被害は…すくない、はず。

 目を開けると、叔父さんと父ががっちりと抱きしめあっていた―――いや、正確には嫌がる叔父を涙目の父がぎゅうぎゅうと暑苦しく抱きついていた。

 

 二言、三言、小声で言葉を交わし合うと、ぱんぱん、と叔父が父の肩をタップをする。


 普通男兄弟は反発するものだ、というけれど、叔父と父は例外らしい。


 私たちが生まれる前は、取っ組み合いの喧嘩をしてたことが多かったらしいけど、仲がいいのだ。

 

 なんかこう…絆みたいなものを垣間見る。


 でも、暑苦しい所で意識が覚醒したな、と顔を逸らそうとするが、三半規管がシェイクされまくってて、くらくらと眩暈がする。


 あと、涙と涎の感触がするが、まったくもって動きたくない。

 というか、動けない。


 吐かなかったのは奇跡に近い。


 テーブルに突っ伏したまま、しばし茫洋と眺めていると、今度は母が叔父と数度言葉を交わして、にこやかに会話をしている。



「……死んだか、俺」



 テーブルにしがみ付いて起き上がる兄。気がついたか。


 うわー、生まれたての小鹿のように足がぶるぶるしてるよ。足が。

 こんなボロボロの兄を見るのは二年ぶりぐらい…つまり、前に叔父と追いかけっこしたときぐらいだろう。


 そのときは叔父もボロボロだったが、今回はかすり傷しかないのはすごいことだ。


 ってか、ゴブリンとの戦闘よりダメージが大きいって、どうよ。


 叔父さん>>>>>>>兄>ゴブリンの群れ>騎士(目つき悪)ぐらいの力関係って、なんか間違ってない?


 なんとなくだけど、叔父一人でゴブリンの大群ぐらい追い払えそうな気がする。

 別に、警告する必要なかったんじゃなかろうか?



「何とか生きてるよ。HP71あるよ――赤判定だけど」

「……それ、瀕死ってことじゃないか?ん、ミコ、お前さんのHPも39しかないぞ。赤判定」

「メリーゴーランドDX」



 呟くと、納得したように、『あれか』と兄は苦笑を浮かべた。

 同類相憐れむような感じだが……あれ、私、なんで叔父から攻撃受けてるんだろう。

 

 仕方なく、行儀が悪いのは承知だが、机に臥せったまま、サクランボに口に入れて、体力回復を図る。


 胃の中が気持ち悪いんだけど、死亡するよりはましだ。


 兄も同じ考えに至ったのか、それとも単純に朝食抜きで腹がすいているのか、残り物の食事を引き寄せるが、一口目でぴた、と手が止まった。


 宰相や団長の手前、顔をしかめるわけにはいかずに、いつもと変わらぬ素振りで食べだした。

 背に腹は変えられないと思ったのだろう。



「肉と果物がいいよ」

「ん」



 小声で忠告しておこう。

 兄はスペアリブみたいなやつをナイフとフォークで優雅に食べ始めた。


 叔父も両親も着席して、ようやくまともな――約二名瀕死の状態ですが――第58回岸田家首脳会議の空気である。

 

 

「じゃ、きし――」

「岸田一族、集合。岸田家首脳会議in異世界やで~」



 はい、残念兄。

 いじけない、いじけない。振り上げた肉つきフォークをとりあえず下ろしとけ。


 集合の合図は叔父にぶんどられちゃったね――って、叔父さん。手を叩いて集合を呼びかけているけど、もう全員揃っているから。


 叔父さん、やること兄と被って――あ、叔父さんのお嫁さんと、熊王子を呼んでるのか?

 手叩いただけでくるのかなと思ったけど、予想通り誰も来なかった。

 

 そうか。兄の仕事を奪いたかっただけか。



「陛下、お願いですから、まず説明をお願いします」

「なんや、今までのやり取りで分からんか?これが俺の兄や」



 ひくひく、と頬を引きつらせた赤毛の宰相の叔父が父を指差した。


 

「お待ちください。彼が貴方の弟いうなら分かりますが、どう見たって、貴方の方が年上だろうが!ごぅらっ!」



 後半は繕うことを止めたようで、驚きのまま叫ぶ。

 

 あ、それは私も思った。

 

 叔父は、叔父だけど、やっぱ、どうみても父の方が若いよね?

 父の若作りって範疇じゃないよね??



「……叔父さん、なんで、59歳になってるの?」

「ご、59歳??まって、怜二叔父さんは今年で41歳になるんじゃ」



 大きな目を見開いて驚く姉に、兄が長い息をついた。


 そうだね、最後に会った二年前だから、本来ならそんなものか。



「あれから?」

「そや、すこししてからな」

「やっぱり。こっちが二年ってことは――大凡、比率は1:10か」

「たぶんそうやろ、なぁ」



 叔父が苦笑を浮かべ、兄は困ったように、くしゃり、と癖のついた黒髪を掻き毟る。


 相変わらず、意味不明なやり取りで疎通が取れている兄と叔父は、絶対似たもの同士だ。

 考えていることは、つーかーだし。阿吽、だったけ?



「レジィー!だから、いつもいってるだろうっ!わかるように説明しろ!」



 どうやら、赤毛の宰相はいつも叔父さんに煮え湯を飲まされているタイプらしい。

 団長はなにを考えてるかわからないが、弟王子は困った様子だ。


 というか、これがいっつもだから、気にしないほうがいいよ。

 ストレス溜まるだけだし。



「俺たちが最後に叔父さんに会ったのは、二年ぐらい前だったよな?」



 日にちまでは覚えてないが、大体そのくらいだ。



「それから、叔父が異世界にきて二十年ぐらい。ってことは、異世界の10日が日本じゃ1日ってことだ。だから二年前ぐらいに異世界にきた叔父さんが父より15歳ぐらい年上になってるということになる」

「……そ、んなっ」



 兄の言葉に、大きく反応したのは、姉だった。


 若干ズレはあるだろうけど異世界10日=日本1日、異世界10年=日本1年となるわけだ。


 すでに異世界生活1日を終えているけど、あちらではちょびっとしか過ぎてない。

 つまり、異世界一ヶ月過ごして、あっちで三日ぐらい?


 異世界は予想以上にすごい速さで時間が流れていくのだろう。

 

 あっはっはー、全然実感わかねー。


 特に目の前に年食った叔父がいるのに、叔父が叔父のまんまだからかもしれないけど。



「ひどい…ひどいわ…あたし…」

「由唯姉……」


 

 椅子を立ち上がっていた姉は、また再び力なく椅子に凭れた。


 姉の戸惑いはわからないでもない。


 こっちで三歳年齢を重ねても、戻ったら三ヶ月ぐらい?

 叔父のように二十年近く年をとっても、戻ったら二年しかたってないって、どーよ。


 私で想像するなら、もう体は38歳なのに、もどったら20歳扱いで成人式を向かえちゃってるわけだ。


 あれ、成長期にまだ片足突っ込んでる私が一番ダメージ大きくない?

 とりあえず、成人式は出れないな。


 すぐに帰れればいいけど、叔父が二十年もここにいるということは望みが薄いような気がする。


 根暗でインドアな私には友と呼べる存在はいなかったけども、姉はこうみえても、世話好きで、割と社交的なので、多くの友がいた。


 私以外の多くの妹達。すごい美少女が『お姉さま』とかって、姉に擦り寄ってるのびっくりするよね。

 ちなみに、姉の高校は女子高じゃなかったんだけど。


 それにナースだから、多くの患者を抱えていた。


 いくら不可抗力とはいえ、42歳の肉体で、25歳の扱いを受ける姉……そらー、想像したら落ち込むよね。



「大丈夫、由唯姉。まだ月9の最終回終わってないよ」

「あら、そうね。ならいいけど」



 うなだれていた姉はあっさりと持ち直した。

 うむ、あと二ヶ月ぐらいはこのネタで姉の気を紛らわせれるだろうか。


 てか、友と患者はいいのか、姉よ。


 

「そ、そやな…月9…月9な…大変やなぁ……」



 叔父よ。ここは突っ込むところだよ!

 似非関西人としては「なんでやねん」って突っ込むところだよ!!


 なんで月9で持ち直しているんだよって。

 

 頬を引きつらせた叔父は気を取り直して、睨みつけている宰相に片手を振った。



「つまりや、たぶん流離人ルエイトの元の世界と、こっちの世界は時間の流れがずれてんねん。せやから、兄貴よりも、わてのほうが年上になっとるんやろ」

「……分かった…いや、分からないが、分かったことにする」



 もう、言葉も繕う気もないのか、砕けた口調で宰相が赤毛を揺らして首を横に振る。


 きっと規格外な叔父の言動に振り回されたんだろうな。

 苦労がにじみ出てるよ、それが。

 かわいそうに。



「本当にそうなら、これが『噂』の家族なのか?」

「噂、ですか?」

「凶悪で規格外な一家だと」



 極悪非道の叔父さんに言われたかねぇ!

 

 善良な一般市民の家族全員の冷ややかな視線が叔父に刺さる。

 視線だけで人を抹殺できたら叔父は即死しているぐらいだ。特に姉のは痛いぞ。

 


「あることないこと吹き込んだな、怜二」

「なにいうてん。本当のことしかいっとらへんで~?」



 珍しく反応した父が叔父さんを怒りを含む眼差しを向けた。

 


「子供たちはさておき、この純情可憐な母さんのどこが凶悪なんだ?こんなに可愛いのに!」

「もう、やだー、お父さんたらぁ。だ・い・す・きv」



 いや、もう、いいから。両親よ。

 朝からおなかいっぱいだよ。ご馳走様。


 後、本当に私は、弟とか妹とかいりませんので――ただですら、生きている間に拝めないだろうなと思っていた従兄弟が目の前にいるだし。


 自重してください、まじで切実に年齢考えて。

 

 なんかもう、果実食べるのも止めようって気になるから。


 ってか、さりげなく子供たちは凶悪で規格外って認めちゃったよ。


 私?この平々凡々たる私もそこに入ってるんですか!?兄と姉は分かるにしても、私だよ、私!

 どこをどーみたら、凶悪に見えるんだい!規格内の範疇だから。



「……なにいうてん…一番、義姉さんが凶悪な人やないか…」



 ぽつり、と零す叔父の声が聞こえたのか、一瞬、父に抱き寄せられている母の瞳が細められた。


 あー…その母の目の輝きが、ゴブリンの戦闘中に兄が見せたような野獣の輝きをしていたことを追記しておこう。親子デスネ、ヤッパリ。


 それに気がつくと叔父は頬を引きつらせて、話を切り替える。



「ま、まぁ、ともかくや、俺も最初の半年ぐらいは帰る方法を探したんや。でもな~、途中から忙しくて、それどころやなくなって結局、きちんとは探してないんや」

「望みは」

「……薄い、限りなく、って言っとくわ」



 叔父が半年探して、見つけられなかったものを、私たち家族が探し出せるかといわれれば、難しいだろう。


 それだけ叔父の能力は高い。


 年の分だけ、兄よりもチート的なものが研ぎ澄まされているっていうか、強くなっているというか――残念ながら、お好み焼き焼こうとして、粉塵爆発起こしたぐらいの、料理オンチだけど。


 調子いいと、カップラーメン作れるけど。


 限りなく薄いってことは別に帰れないってわけじゃなさそうだが、時間がかかるということだろうか。


 叔父は探すのをやめたということは、きっと異世界で骨を埋める気だったんじゃないだろうか。

 奥さんもいるみたいだし、子供が二人もいるし。


 なんとなくそんな気がした。


 もし可能性がないなら、叔父は「ないで~」と軽い調子であっさり言ってしまうだろうし。



「それになぁ。帰れたとしても、早くみつけへんと浦島太郎みたいになってまうで」



 うわぁ~…10年探して、見つかり、帰還したとしてもあっちでは1年ほどしかたっていない。でも、よぼよぼ、見たいな感じ?


 微妙すぎる。28歳で、専門学校に通い直すのか。それは、嫌だ。 

 あ、隣を見ると姉が、鬼のような顔で叔父を睨みつけている。姉は四十代になっても二十代扱いになってしまうのだろう。


 老いた体が大変で、ギャップに若干周囲が違和感を感じるくらいだろうか。


 でも別に叔父が元凶ってわけじゃないんじゃないか?

 大体の現状は叔父だけど。


 ていうのか、なんでこっちとあっちじゃ時間の流れが違うんだろうね。



「―――期限を決めたほうがいいな」

「期限?」



 兄の言葉に私は、のろのろと突っ伏していた顔を上げた。



「早いうちはいいぞ。うちは、ほかに親戚がいないといっても、俺の場合は上司が失踪者届けを出すかもしれない。警察官が失踪となれば、割と問題視されるだろうしな。そこから芋づる式に一家が失踪してることが判明するだろう。それに一年もいないとなれば、学校は金が払われてなければ、退学になっているだろうが、由唯や父さんの場合は会社をクビになってるだろうし」



 つまり、あまり長いこといると、まずいんですね。


 たしかに、一年もここにいたら、さすがに私の通っていた専門学校は授業料未納とかで、学校は退学になっていることだろう。


 早めに戻っても、年齢詐称しているだろうと疑われるぐらいのことは起きるだろうけど。

 同年代が、もう同年代に見えません、みたいな?



「こっちの生活に慣れてしまったら、あっちで社会復帰が難しい」

「現実的じゃあないってことね」



 姉は、ひどく不満げだ。

 美貌を保つことに執念を燃やす姉としては、年齢以上に年寄りに見られるなど、想像したくないのだろう。


 ていうのか、両親も危険な。


 今はまだ四十代だけど――いや、私母の年齢教えてもらったことないし、誕生日に蝋燭を立てたこともないのでたぶんだけど――二十年経って、六十歳になって戻ったとしよう。

 すると、父にいたっては八十歳ぐらいまで働かないと、定年退職ではないので、年金も支給されない。


 むむ、死活問題である。


 って、私たちも八十まで―――よし、思考シャットアウト。考えないようにしよう。

 


「それでも故郷だしな。戻っても生活できないってわけじゃないし。帰りたいってんなら、まぁ、がんばるしかないが――それだったら、いっそ生活したほうがいいんじゃないか、と。生活習慣も違うし、一から全てを構築するってのは面倒だが、幸い戸籍を弄れそうな人もいるし」



 ちら、と兄が叔父に視線を送る。



「あたりまえや。悪いようにはせーへん」



 当然、といわんばかりに叔父が肩を竦めた。


 不幸中の幸いっていうのか、叔父の存在のおかげで、苦労はしないかもしれない。

 五十年かかって、かえっても五年後とかだったら、目も当てられない。



「だから、ある程度、目処を決めて、駄目ならきっぱりと諦めたほうがいい――と、兄ちゃんは思う」



 言い聞かせるように、ゆっくりと言葉を切って継げた。


 勿論、兄は全力で帰還方法を探すだろう。

 だが、その確率は低い――少し悲しげな表情は言外に示唆していた。



「そや、お前たちに、聞かなあかんことがある――」



 静まり返った食卓で叔父が真剣な顔をして、岸田家族を眺める。



「――俺のライアンツはどうなった?」

 


 ライアンツ……叔父の好きな野球チームである。

 調子のいいときは上位三位に入るときもあるのだが、悪いときは頗る悪いという微妙なチームだ。


 そして、それが私たち家族が二年近く叔父の家に近づかなかった理由である。


 叔父の機嫌が悪くて、兄どころか、私までボコボコにされるから。


 あと、ライアンツは叔父のじゃないよ。

 というか、空気読め。いま、絶対そんなの聞く雰囲気じゃなかっただろ!



「ここ二年、最下位争いだよ。んで今年が現在1位」

「っしゃぁああ!!ルアイメッツを抜いたんやな!さすが中島や」

「いや、中島怪我で二軍調整してるけど」

「じゃ、米倉やろっ!」



 ……そいつも、去年移籍してるよ。

 

 叔父が大好きなライアンツの情報がわからないなんて、本当に異世界で生活してたんだだなぁ、としみじみ思ってしまった。


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