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岸田家の異世界冒険  作者: 冬の黒猫亭
二日目 【異世界生活の始まり】
42/119

Act 02. プレイボールとデットボール

 

 騎士(目つき悪)は、他の騎士に担がれて消えた。


 一体、なにがなんやら。

 

 どうせまた、兄に因縁でもつけてきたのだろう。


 ふははは、馬鹿だなぁ。

 寝込みを襲わないと兄に勝てるわけない――いや、寝込みも無理か、時々部屋のドアが開けるだけで、起きるし。


 それは、さておき。


 残った数名の騎士が私たち兄弟を囲んで、案内してくれるらしい。

 がっちゃ、がっちゃと煩いんだけど、うん、朝食を食べるまでは我慢するよ、私。


 案内された部屋は、食堂かな、と思ったのだが、広い部屋に長い机がひとつあり、いうなればお偉いさん専用の食堂といったところだった。


 王家専用なのだろう。


 そこには両親と、赤毛の宰相――私と姉の視線は睨みに近かっただろう――と、弟王子の姿があった。


 全員が食卓についているが、あと二十席ぐらい空いている。

 端と端に座ったら、会話難しいね。

 

 王様と王妃が座るであろう上座の二席だけが空席で、王子の隣も空いているが、熊王子が人間だったころに使っていたのだろう。 


 つまり、スカスカなんですが、適当にかけてくれということで、私は姉の隣に座った。


 昨日の投獄から一転して、客人扱いということは、もしかすると、ゴブリンの偵察に向かっていた者が帰ってきたのかもしれない。



「昨晩は失礼した。王の命令とはいえ、投獄など」

「すみません、ほんとうに」



 と、私と姉が席に近づくと、立ち上がり、宰相と弟王子が頭を下げた。


 うぉいい!なおさら悪いわ!王の命令かい!

 きっと魔法的な何かで、通信とかしてたんだろうな…あぁ、やだやだ。


 考えると、腹がたって、腹がすくからやめよう。



「陛下からも直々に謝罪を、と朝食の席を賜りました。すぐにいらっしゃるとは思いますが―――サミィ殿。こちらを陛下から渡すように言い付かっております」



 同じ列に座っていた兄に、宰相は何かを差し出した。


 長い棒切れのような……しかし、とても見覚えのある金属――って、ただの金属バットかい!

 車から勝手に持ち出したのか、兄が遠い目をしてみせる。


 魂が口から出てるんじゃない?ってぐらい、遠い目だよ。



「予測は…してたが……」



 あれ……でも、なんかすごいボロボロだな。

 

 違うバットだ。


 いや、兄の持っていた金属バットもゴブリンとの対戦で凹んでいたけど、それは痛んではなかった。

 渡されたバットは年季が入ってるというか、相当古いもののように思える。


 はて??


 もしかして、あれが兄の標準装備だと思われたのか?


 装備を作ってあげたって感じでもない。

 一日や二日でできる代物じゃないだろう、多分。

 


 でも、なんだろう。

 すごく、寒気が。嫌な予感がする。



 なんだろう。この嫌な感じは、あぁ、そうか―――どこかで見覚え(・・・)があるから、本能的に危機感が増幅されるのだろう。


 ぞわっと背筋に冷たいものが走り、毛穴が開く。



「兄さん??」



 少し青ざめ、げんなりとした様子で項垂れている兄に、姉が小首をかしげる。


 兄の態度はおかしなものだが、なんでかはわからない。



「レジィー陛下、こちらです」



 第一騎士団長に連れられてやってきた王は、隣の騎士と比べると小柄で華奢なものだった。


 年齢は60歳ぐらいだろうか?


 白髪が殆どの癖のついた黒髪は綺麗に撫で上げられており、覗く目はやや窪んでおり、タールのように重い黒目で、目元には年齢を感じさせる皺があった。


 面立ちは整っているのだろうが、顎髭がすべてを晒してはいない。

 が、頬が痩せこけているのはわかる。


 立っているだけで威厳のようなものを放ち、見るものの意識を平伏させるような存在感。


 よくRPGとかで出てくる恰幅のいい感じではなかった。

 王冠もかぶってないし、服装は高級そうではあるが、けして派手ではない。


 だが覇王然としていて、瞳を惹きつけられる。


 この人が元凶なんだな―――思考をめぐらすより先に、大きな音を立てて、兄が席を立つ。


 王族が出てきたら立って迎えるのが礼儀なのかと、兄を見遣る。


 が、驚いたことに、久しくみない焦燥した表情で兄は更に青ざめて、じりじり、とその場所から、後退しだしていた。


 その手には、金属バットを握り締めて。



「悪夢だ…」



 と、ぽつり、とうわ言のように呟いた兄の声は掠れている。


 なにが悪夢だって??


 その視線の先には、このイシュルスの王様がいる。

 言葉を発さず、表情の読み取れぬ王様は長いローブの下に手を入れると、す、となにかを取り出した。








 野球のボールだった。








 一つではない―――大きく開かれた指の間に四つほど野球のボールが挟まっている。

 白球は、兄が持っているバット同様に年季を感じさせるように黄ばんでいた。

 

 こんなことをするのは、一人しかいない。

 いや、一人しか知らない。


 兄が拒絶するのも、もっともである。



「頼むから―――誰か、嘘だといってくれっ!!」

「さ、サミィ殿??」



 宰相の声に兄は余裕がないようで反応しなかった。


 珍しく現実逃避をし、認めたくないというように首を横に振る兄に、無表情だった王は聞き覚えのある声で、悪魔のような凶悪な微笑を浮かべ返した。


 父とよく似た面立ちなのに、まったく浮かべる表情は違っていた。









「まぁ・さぁ・みぃ・ちゅわぁぁぁんっ、ご無沙汰やでー」








 

 下手な関西弁で、嫌がらせのように兄を「ちゃん」付けで呼ぶ人物は、一人しかいない。


 ここが異世界というのなら、絶対にいなかったはずの男。

 この世で、唯一兄が嫌がる敵対者。


 兄の鬼門。



「げっ!」

「れ、怜二おじさんっ!」

「怜二?!」

「あらやだ」



 なんで、こんなところにいるんですかい、あんたは!


 父の弟である岸田怜二きしだれいじが、極悪な笑みを浮かべたまま、野球ボールを振りかぶり、プレイボールと言わんばかりに、剛速球を兄に放っていた。



 ……球が、見えなかった。



 ただ、叔父の手が動き、白い線が空間に描かれた…様な気がするだけで、見えなかったそれを、辛うじて兄が避けた。


 反応が遅かったら激突してただろう。

 当たった、というものではなく、激突が相応しい。


 それは、兄の背後にあった巨大な窓と窓の間あたりの石壁に重々しい音を上げてのめりこむと、表面を粉砕し、細かな欠片を床に散らばすほどの威力であった。


 人間の骨であったと思うと、ぞっとする。


 

「今のは挨拶がわりや~」

「いやいやいや!当たり所悪ければ死ぬだろう!」



 そうだな、兄。


 だが叔父にそんな世間一般の正しい認識と常識を求めるのは間違っているよ。

 

 今までやつが、そんなことに収まったか?

 答えは、否――素手で川の中の魚を掴むようなやつだぞ!?リアルに箸で蝿つかむんだぞ?!そして、がっくりと肩を落として、箸を洗いにいくんだぞ??


 兄と同様に叔父も、チート的な存在だ。

 だが、兄より長く生きている分、一枚も二枚も上手なのである。


 しかし、どう見ても姿は父よりも年上のような感じになってしまっている気がする。


 父の弟なのに、父より老けてるってどうよ?


 たぶん、中肉中背だった容姿が、細身というか、ガリガリになっているせいか、別の人みたいに見えるし―――というか、一瞬ぱっと見、気がつかなかったし。


 

「おじ、さん??陛下!これは一体どういうことなのですか!」

「ち、父上!??」



 と赤毛の宰相と弟王子が声を荒げたが、叔父さんは、ガン無視で、兄と睨みあっている。



「雅美ちゅわーん。叔父さんが、遊んであげるでー」



 ひぃいいぃ!!


 遊んであげるでーじゃない。

 叔父の目はマジだ――肉食獣の目だよ。



 たぶん、今の言葉を叔父さん翻訳すると―――

 


『雅美ちゃーん。叔父さんが今日こそは確実に仕留めてあげるでー』



 ―――となるのだろう。



 思わず身震いしてしまった。

 隣の姉も青ざめていたが、きっと私も青ざめていただろう。兄いたっては蒼白である。


 怖い!怖すぎる!


 ホラーは怖いけど、叔父さんはもっと怖い!


 一昔前に流行った呪われたなんとかの、映像を見ても、これほど戦慄しないだろう。

 この二人の対峙はそれ以上の恐怖であるが、幸い私にはまったく無関係という喜ぶべき事態であった。


 

「アデュー雅兄」

「兄さん、長生きしてね」

「怜二、ほどほどにな」

「先に朝食にしてるからねー」



 家族の出した答えは叔父スルーである。


 触らぬ叔父に祟りなしって、言葉知ってる?


 詳しいことは知らないが、兄が幼いころは普通に接していたようだが、なんでもその時からチート能力全開だった兄が、うっかりと叔父の股間を蹴り上げたらしい。


 それが、叔父の自尊心を傷つけたらしく、それ以来、二人は血で血を洗うような―――うん、忘れよ。

 

 思い出すと、朝食がまずくなるから。


 

「う、裏切り者―――っ」



 兄が断末路のような悲鳴を上げると、第二球が放たれた。


 当たったら骨がただですまなさそうなデットボール狙いの悪球も金属バットで打ち返す―――金属バット、二十度ぐらい折れ曲がってるけど――と、兄は一瞬にして身を翻して、走り出した。


 跳ね返ったボールは、一瞬にして高そうな壷を粉砕した。


 唐突に兄が走りだす。


 ドアを開ける時間すら惜しかったのか、勢いをつけて、兄は身を丸めると、窓ガラスを突き破った。


 うぇええええっ!!?ここ2階じゃなかったっけ?



「へっ!甘いわ!王宮は、わての庭やでー!!」



 ばさぁあ、と長いローブを脱ぎ捨てると、叔父もまた勢いをつけて、隣の窓ガラスを突き破って、兄の後を追っていってしまった。


 いやだから、ここ2階だよね―――!!?


 慌てて、窓の外を全員で覗いたが、庭には既に誰もおらず、ガラスの破片だけが散らばっていた。


 驚いたことに王宮の庭らしき場所には、鉄骨むき出しの塔――電波塔・・・が立っていた。

 そう父が叔父の野球が見たいという我侭のために作ったあれである。


 古びて蔓が絡まり、苔のようなものが生えて錆びているが見間違えるはずがない。


 昨日の夜車の中から見たのは、これだったのか。


 天辺には、最後に会ったとき叔父が盗まれたと大騒ぎしていた風見鶏が、ぎ、ぎぃ、と鈍くはあるが風任せに回転している。


 なにより、その隣。



「あれ、叔父さんの家、だよね?」

「た、ぶん」



 と、辛うじて、私は答えた。


 ログハウスみたいな叔父の家に、下から土の柱のようなもので幾つも貫かれていた。

 家の筈なのに、まるで巨大なハリネズミのようになっている。


 昨日私がゴブリンに投げつけていた魔石で発動したあれに酷似しているが、大きさが半端ではない。


 大き目の魔石で胸元まで土の柱が出たが、あれの比ではない。

 十倍以上あるだろう。


 魔法だと思われるが、これを放てる魔法使いがここにいるということのなのだろう。


 横では私たち兄弟が埋めたジャガイモの花やら、茄子の花や、向日葵やらの花が、風に揺れていた。 


 私たち一家は車ごと異世界に突っ込んできたが、叔父さんは家の土地ごと異世界に来たらしいことが、よく分かった。


 遠くで兄の悲鳴と、叔父の雄たけびが聞こえる。





 ちなみに、叔父さんのステータスは、こうだった。






   【岸田 怜二(59)】 職業:騎士(Lv68) サブ職業:イシュルス王(Lv51)


    HP:2810/7819 (+182)

    MP:71/612  (+45)


   【筋力】 474 (+15)

   【俊敏】 387

   【知性】 311 (+40)

   【直感】 505

   【器用】 139

   【精神】 601 (+20)

   【魅力】 418 (+40)

   【幸運】 116


   【技能】 [威圧ディープハイ] [策略(アティッフス)]  [剣技ソードガレ] 

        [守護盾(ドウシールド)] [狼の牙ウルフ・ファング] [底力クライアッパー]

        [慧眼ハイアイ] [健康優良児ハッピーライフ] [王家の剣クラウン・ソード]

        [天恵ギフト] [再生レイェネレ] [兄弟の絆アガット]


   【補正】 イシュタル神の寵愛 マルス神の寵愛 イシュルス男児の心意気 王補正 ?

        雷耐性 炎耐性 氷耐性 闇耐性 毒耐性 魔眼耐性 土耐性 下克上 英雄補正 

   

   【EXP:76429】  【次のレベルアップまで:948】


   【ボーナスポイント】 172 P

 





 ……兄、死んだな。



この話でいいか凄い悩んだけど…うん、ご都合主義万歳!岸田叔父参上!

岸田兄は薄々気がついていた模様ですが、信じたくなかったようだ。


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