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岸田家の異世界冒険  作者: 冬の黒猫亭
二日目 【異世界生活の始まり】
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Act 01. 異世界生活二日目

あー、ごほん、ごほん、お待たせいたしました!

第二章突入でございます――しかしまだ書き終わっていないんですが、大丈夫ですかね、自分。

見切り発車で勢いのまま、猪突猛進ですな。

 闇、闇、闇―――自分すら不確かな暗澹とした暗黒。




 そこで、浮かび上がる真っ白な蝶…いや、蛾だろうか?よく分からないが、ともかく淡い燐光を放って、闇の中を羽ばたいている。


 煩いぐらいの数多の羽音がぶつかり合い、時に重なる。


 起きているのか寝ているのか分からない狭間の意識に、僅かに、耳朶に届く音が、それが私の存在を辛うじて保っている。


 そして、煩い羽音に混じって、音色が聞こえた。

 音は緩やかで、弦を奏でたような音で聞き覚えたがあった。

 

 

 ヴァイオリンだ。



 子供の頃、近所の川原で、ヴァイオリンを練習している女の人がいて、子供心にとても印象に残った。

 CDや、テレビで聞いているよりも、ずっと美しく、体に直接、響くようで、虜になった。


 元々音楽が好きだったこともある。


 年の割には歌が上手いなんて、叔父が褒めてくれた。

 歌は祈りであり、誓いなのだと――雅美ちゃんにはない才能だな、と笑っていた。


 兄はチートだけど、音痴だから。

 

 毎日のように川原に通っては、私は両親に誕生日にヴァイオリンを強請った。

 

 子供には高価すぎて、買い与えられなかったが、それでも地道に小遣いを貯める私を見て、両親が折れて、小遣いの足りない部分を補って、中古のものを買い与えてくれた。


 子供用の中古でもいい値段だったが、私は嬉しくて、女の人に、色々と習った。

 単純に持ち方や、一音を鳴らすという基礎だけだったが、綺麗に音がなる度に、体の中から震え上がるような幸福が満ちた。


 私は一通り音を繋げるようになり、音をはずさない様に緩やかに旋律を奏でた。


 旋律というのもおこがましい、即興の単音。

 子守唄のような静けさで。


 内側から溢れる。


 誰かが息を呑むような音が聞こえて、私は振り返る。

 母が大きく両目を見開いて泣いていた。


 

 ――……突如として、暗闇に炎が灯って、意識が戻ってくる。


 闇に浮かぶ蝶は、炎の中に飛び込んでいこうとする。

 何十も、何百も、その身を燃やし、堕ちていくにも関わらず、迷いもなく、ただ吸い寄せられるように。


 徐々に小さくなる炎。


 どれよりも大きな灰色の蝶が、炎に向かっていく姿に、激しい焦燥を覚えた。



 とめなければ、とめなければ――……


 

 それを止めようと伸ばした手には、ヴァイオリンが握られていた。

 



 ・


 ・


 ・


 ・


 ・





「ミコ、ほらっ、起きなさいよ」



 布団を引き剥がされ、私は身震いして、体を丸める。


 なんか、変な夢見てたような気がするが、それよりも姉だ。


 目覚まし時計はならなかったので、学校は休みのはずなのに、なんで姉の声がするんだろう。

 茫洋と考えながら、もっと惰眠を貪るために反射的に、声とは逆の方向へ体を転がす。


 ここで、お決まりの台詞だ。


 

「あと…ご、ふん」

「っていって、5分で起きたことないじゃない」



 そらそーだけども。

 いや、でも、まじ今日は眠いんですよ。



「じゃぁ、あと、ろく、じかん」

「殴るわよ」



 元々、私が夜更かし大好きな上に、低血圧ってしってんじゃん? 


 なんか、だるいし、まだ体が6時間ぐらいしか寝てないよ、あと6時間は寝ないと駄目じゃん、と訴えかけてくるんでございますよ。


 1日12時間寝ないと、体が納得しないし。



「朝食、食べ損ねるわよ」

 


 と姉がベットサイドから動く気配がする。


 大丈夫ー。

 母さんは、なにがあっても、私のー……あぁ、うん、時々私の朝食、食べちゃうけど。


 仕方なしにパンにジャムとか塗って、ミルクと砂糖たっぷりの珈琲を飲んでると『朝からちゃんと食べないとお昼までもたないわよー』って、私のご飯食べながら言うんだよね。


 って、あんたいうな、母!とか、耐え切れずに、つっこんじゃうんだよね、私は。


 パターンだよ。パターン。


 そうそう、猫と鼠が追いかけるアニメみたいに、典型的な――……

 


「…う、うぅ……ま…ぶしっ…」



 唐突に瞼を閉じていても分かるほどの射す光に、思わず呻く。


 今日もいい天気らしい。


 うっすら目を開けると、姉が後光を受けながら、豪奢な赤いカーテンを一纏めにしている……あれ??


 私の部屋、カーテンは緑のチェックですけども。

 母さんが勝手に取り替えちゃった?


 しかも、窓でけー。 


 ぼーっと、姉を見てると、視線に気がついたようで、振り返る。


 

 てか、姉、服装が袖つきのロングワンピースみたいなのって珍しいね。



「寝ぼけてるの?叔父さんの家に行く途中で、変な緑の動物轢いて、コスプレ外人拾って、変な所にきたの、覚えてないの?」



 えーと、えーと……たしか、そう…変な緑って、ゴブリンか。あれを轢いて、王子と騎士たちと、熊と車に乗って―――ぷぷぷ、重量オーバーだよね。


 なんか城にいって、偉い人にあって――――!!



「うぉおうう!!どこ此処!!牢屋に突っ込まれたんじゃなかったっけ?由唯姉、雅兄の隣ジャン!勝手に入ってきたら、看守になんか言われたりしないのってか、監獄って朝食付?!ベーコンエッグサラダついてる??バイキング形式な―――ぐぁあ!」



 あたりをキョロキョロしながら、背後に下がったせいで、ベットから落ちた。


 う、うぅう、尻が痛い。背中も痛い。ちょっとHP減った。



「……見事にパニックね」


 

 尻を摩りながら、よろよろと起き上がると、周囲は結構な広さがある綺麗な部屋だった。


 私は六畳間の一人部屋だが、そこよりも倍以上ある。

 家の居間よりも広いだろう。


 模様の刻まれた赤い絨毯に、アンティーク調の調度品は必要最低限といったところだが、一生縁が無さそうな高価そうなものばかりであった。



「なんで…牢屋じゃないの?」



 てっきりベットで寝てたから、牢屋で寝てたのは夢だと思ったけど、この様子だと昨日のすべてが現実だったのだろう。


 っていうか、私の夢オチとかじゃなかったんだ、やっぱり。

 

 はぁーと、思わず長いため息が出てくる。

 


「とりあえず、着替えて、凄い格好だし」

「あ、うん」


 

 姉は車から私のカバンを持ってきてくれたらしく、素直に着替えることにする。


 ってか、それって昨日言ってくれてもよくなかった?

 ひどい格好だぞーとか。


 まぁ、いいけど。


 この部屋、浴室もついているらしく、中に入ったが、さすがに猫足のバスタブには水もお湯も入っておらず、お風呂は断念する。


 仕方なしに、ドア越しに話を聞く。


 体を軽くシャワーシートで拭いて、下着から全部取り替えることにした。

 服も予想以上にパーカーがダメージを受けているので、新しいパーカーにしておこう。



「あんた寝てから、2時間もたってなかったと思うけどゼル君きたの」

「ぜ――あぁ、弟王子が?」



 話を要約すると、その時点でゴブリンはまだ確認できていなかったのだが、牢屋に突っ込むという宰相のあまりの所業に、異議を唱えた弟王子が直談判して、まともな部屋を用意してくれたらしい。


 勿論、外に宮廷騎士なるものが、入り口で立っているらしいが。


 命の恩人の上に、国のためにゴブリンの襲来を警告した人間にする行いではないと、王子なのに謝ってくれた…らしい。


 私はずっと寝てたけど。


 あと、騎士(毒抜き)もやってきて、一緒に謝ってたそうだ。



「王子が謝るのお門違いじゃん―――決断した責任者、自分で来て謝れ」

「ったく、本当よ。一発殴ってやりたい、あの赤毛!で、今日は、正式な謝罪をかねて朝食に招かれてるってところ」



 あー、むかつく。

 腹の底から苛立ちが湧き上がってくるが、姉の怒り心頭状態に、溜飲が下がる。


 そうか、でも姉の服装が中世ヨーロッパ的なロングワンピースみたいなのになったのは、服を貸してもらったのではないかと思う――ついでに言えば、よく似合ってる。


 たしか、中世時代は、胸よりも足を出すのが駄目だって聞いたことがある。

 だからか分からないが、姉は引きずりそうな裾だ。


 踏んで転んでも助けられないからね、私。



「一応、個人個人の部屋用意されて、あんたは寝てたから、父さんが背負って運んできてくれたのよ。ちゃんとお礼言っておきなさいね」

「…うん?父??」



 兄じゃなくて、父?珍しいこともあるもんだ。


 母以外に手間をかけて? 

 いや、ちっちゃいころは、結構父の方が過保護だったよう気もするけど。



「もしかして、兄が頼んだ?」

「え?あぁ、疲れたからとか、言ってたかもしれないけど」

「ふーん」



 意味あるんだろうな、兄のことだから。

 

 イベント乱立してないだろうな。


 自分の手で負えないことは受けないでほしいんだけど、私の安息のために―――どうしてもやりたいってなら、家族に簡潔に百文字以内で説明して承認を得てくれってんだ。


 まぁ、いいけど――いや、よくないか。


 着替え終わって、寝室に戻るとベットに腰掛けていた姉はイライラしたように足を組み替えていた。

 いつもよりも、声もトゲトゲしてたけどさ。



「由唯姉、大丈夫?」

「っ、大丈夫じゃないわよ」



 ふぅーと、長い息を吐き出すと、首を横に振る。



「まさか、本当に異世界だなんてね。てっきり、ドッキリか、夢かと思ってたけど……ったく、いつまでもそうしてると!ひっぱたくわよ!」



 姉は突然背後を向くと、空中に怒鳴りつけている。


 ばちん、と何かが弾ける。

 なんか、気泡が割れたような薄い音だった。


 びく、と肩を竦ませる聞いてみるも答えずに、姉は髪を掻きあげて、だるそうに立ち上がった。



「ごめん、あんたじゃないから……まったく、どうなってるのよ、この世界は」



 なに?なんかあったの??

 怖いんですけど!凄く怖いんですけど!


 …も、もしかして、なんか見えてる??

  

 大丈夫?

 本当に大丈夫??


 うろうろ、と気になって姉の周りをちょろちょろしてしみるのだが、でこピンされた。



「いいから。後で兄さんにどうにかしてもらう。先に朝食」

「……あい」



 まぁ、兄に後で相談するならいいか。

 解決方法が早く分かりそうだしね…でも、本当に大丈夫だろうか。うーん。


 ドアを一歩出ると、話の通り、またフルフェイスの門番がいたが、なんかよくわからないが、慌てているようで、右往左往している。がちゃがちゃ煩いんですけど。


 その元凶はすぐに分かった。



「せいっ!!」



 聞き覚え掛け声と共に、視界を足が横切った。


 何が起こったか一瞬わからないが―――あぁ、どうやら兄が誰かを一本背負いしたらしい。


 どしんっ、と受身も取れずに鎧をきた男が廊下に転がり、それでも反抗しようとしているのか、床に寝転んだ男を兄が羽交い絞めにしている。


 こちらに気がついたようで、その体制のまま、笑っている。



「っと…由唯、ミコ、おはよう」

「……おはよう」



 いつもなら『一本』と白い旗を揚げたくなる光景だが、私は寝起きで頭がそこまで回っていなかった。



「……なにしてんの、兄さん」



 呆れた様子の姉の言葉が背後から投げかけられて、私は頷く。


 本当、兄、朝っぱらからなにしてんの。

 ってか、その羽交い絞めにしてる人って、昨日の騎士(目つき悪)じゃないかいな。


 

「ははは、個人的に友好を深めてるところ、だ」



 これがCMならば、爽やかな笑顔で、きらっと並びのいい白い歯が光ったところだろうが、妹の私にとっては実に胡散臭い。


 しかも「だ」のところで、いっそう強く首を絞めたようで、騎士(目つき悪)がぐったりと床に転がった。

 どうやら、失神させたようだ。


 どう見ても、友好を深めているってよりは喧嘩してるって感じなんだが。


 何がおきたのか知らないが、兄は別に自分から意味もなく喧嘩を仕掛けるようなことはしない。


 それも兄が一方的に勝者――よく考えると、本業騎士を羽交い絞めにして失神させる兄って、やっぱり只者ではないな。



 ごろり、と騎士(目つき悪)を廊下に転がして立ち上がると、兄は平然と埃を掃っていた。


 きら、と白い歯と眼鏡が光り、爽やかで笑顔を浮かべていた。

 うーん、胡散臭い。


あとは全体がはっきりしてから、ゆっくりと更新していきます。

一日一話という目標が脆くも崩れ去って、肩を落とす作者でございます。


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