Act 03. 家族で異世界、これってあり?
うん、兄に謝ろう。土下座だ。
サブ職業のゲーマーのほうが、本職の上級国家公務員よりレベルが高いじゃん!とか突っ込みいれて、すみませんでした。
拾った少年の事とゴブリン(仮)のせいで、第56回家族会議が発令されているので、私の声は心の中に留める。
いや、謝る気ないとかいうな、そこ。
きっと、いつか、気が向いたら謝るかもしれないだろう。未来は無限さ。
なので、心の中で、深々とお詫び申し上げますよ、兄。
え、家族会議に参加しないのかって?
いやいや、だって、多数決の時に数割れしないかぎり、基本的に我関せず。
それにしても、このステータス画面のことから説明したって、見えないのなら納得してもらうには時間がかかるだろう。
私は父ほど、KYじゃないから、口を閉じますけど。
【岸田 真実子(18)】 職業:ゲーマー(Lv51) サブ職業:専門学生(Lv12)
HP:120/120
MP:99/99
【筋力】 17
【俊敏】 39
【知性】 11
【直感】 97
【器用】 17+3
【意思】 7
【魅力】 14
【幸運】 42+7
【技能】 [悪運] [調査] [一枚の壁]
【補正】 母の慈愛 父の加護 地属性20%耐性
【EXP:3621】 【次のレベルアップまで:106】
【ボーナスポイント】 426P
私の本職……ゲーマーって……orz
サブ職業が専門学生って、普通逆だよね……うん、わかってるから、誰も何も言わないで。
意思低っ!一ケタ台だし!知性も11だし!
辛うじて直感と、幸運と、せいぜい敏捷性が救いだけど、なんて微妙なんだ。
なんか、人として凄くバランスの悪いのではなかろうか。
技能が悪運って……いい、のだろうか、いや悪だから、駄目なのだろうか?
調査は、このステータスが見えることだと思う。
兄と父の時は動揺していたせいで気がつかなかったが、ボーナスポイントの下に、さらに個人専用のステータス画面が加わっている。
□ ≪ 4 ≫種類のジョブチェンジが可能
□ 称号
■ 装備
■ アイテム一覧
■ クエスト一覧
こんな妄想より先に、第56回家族会議に出席するべきなのだろうけど気になって仕方がない。
とはいえ、ゴブリン轢いたけど、どうしよう的な会話なので私の発言は必要ないだろう。
うーん、どうやって画面に移動するんだろ?
指で、ちょい、と押してみると、色の違う文字を押してみると、装備画面が表示された。
不便だし、あからさまに変な人に見えるだろう。
家族を見るが気がついていないようだ。
えーと、なになに。
【装備表示】
武器:――
頭部:――
防具:古びたパーカー、ダメージジーンズ
足元:安物スニーカー
飾品:眼鏡、懐中時計
古びたとか、安物とか、余計なおせわだっつーの。
悪かったな、衣服にはさして執着がないんだよ。
次、次―…アイテムは、さっき拾った魔石ぐらいだな。
クエスト一覧とかも、特にないけど、まさか本当にRPGみたいに、どっかの酒場とかギルドでクエストを受けることができるということだろうか?
まぁ、それも後回しにしよう。
問題は、ここからだ。
にまにましながら、私の指はボーナスポイントの振り分けボタンを押す。
すると、先ほどのステータスの数字の+-が加わった。
+を押すと、加えるで、-を押すと、加えたポイントが引かれる。
それから、下のほうには【取得可能技能】の一覧が出てくる。
ほほう。すばらしいな――って、スキルってこれだけ!?
【集中Lv1】 10P
【五感強化Lv1】 20P
【敵索Lv1】 40P
【調査Lv2】 50P
まぁ、職業ゲーマーで、サブ職業が専門学生じゃ、これが限界か…うーむ。
選べるだけ、ましだろうか。
これも後で要相談にしよう。
そして、おまちかね【転職】の画面を開く。
四つのジョブチェンジが――……
【盗賊】
【遊人】
【吟遊詩人】
【弓使い】
………え~と、私、基本戦力外ですか?
え、今のステータスからじゃ、慣れない職業の方が多いんですか。
普通ゲームの最初は、たま●ぎ剣士とか、ノーマルエッジとかじゃないんですか。
いや、剣とか持たされても、扱える自信なんてまるでないけど、それにしたって、弓とかハープとか渡されたって使えないぞ。 弦楽器は得意だから、ハープは弾けないこともないけど。
兄は8種類。父5種類。母は6種類。
あ、かろうじて、姉と同点だ。
【遊人】【吟遊詩人】【僧侶】【踊子】
っていうか、絶対【遊人】と【吟遊詩人】は誰でもなれるんだろ! 家族全員――あ、兄には音痴なので【吟遊詩人】がないらしいが――他は入っている。
【僧侶】になれるだけ、姉の方がましだ。
なにせ、これ(ステータス画面)が現実であるというなら、姉は魔法が使えるということだ!
因みに兄も【魔法使い】【僧侶】は就職できる。
う、うぅうう、ズルイ!ズルイ!
私も魔法が使いたい!魔法使いになりたい!
「―――だな。とにかく、怜二の家に行くとするか」
「そう、ですね。どの道、戻って、最寄の病院は4時間はないだろうし」
第56回家族会議の開始から早数分。
話に加わる必要が出たので、私はちらり、と荷台で横たわる青年を見やり、片手を挙げた。
「はい、雅美先生」
「なんだね、ミコ生徒」
「え~と、車走らせても、おじさんの家には着かないと思います」
「なんでよ?」
「だって、ここ叔父さん家に行く道じゃない」
「は?」
怪訝そうな顔をする両親。姉は完全にアフォを見るような目つきだ。
兄は思い当たる節が多すぎるのか、瞳を伏せた。
「なにいってるんだ、ミコ」
「手当てと、外のゴブリンで時間くったけど、どっかよっても、着いてていい時間ジャン。よくわかんないけど、変だよ、この道」
あまり相手にされていないようだったが、兄がす、と瞳を細める。
いつも緩い人だけど、それはマジな時の癖だった。
「実は俺も、ミコと同じこと考えてた」
うん。漫画や小説の中じゃ、突然異世界トリップってよくあることだよね。
いや、よくないか…っつーか、家族でってどうよ。
普通は、こう、16~18歳ぐらいの少年少女じゃないの。
資格としては、困っている人を見過ごせないとか、正義感が強い、とか、お人よしとか。
私、年齢はあてはまるかもしれないが、どっちもないし。
やっぱ年いってるけど、兄か?
それに巻き込まれた?
「さっきから、たどり着かないってのもそうだけど。彼の服装も、鎧もリアルすぎる。さっきのゴブリンだって、体温があった」
「それは、ドッキリとかなんじゃないの?」
「誰かが仕掛けてるにしては大掛かり過ぎる。この鎧とゴブリンに似た死骸を作ったとしたら、莫大な金がかかる。自給自足生活の叔父がするとも思えない」
うわー…すご。
私、そこまで考えてなかったんですけど。
怜二叔父さんは指先器用だけど、金もないのは確かだ。
「なにより、道だ」
「道、ってこの道?」
「フロントガラスから前を見ろ」
全員が前を向くので、私もつられて前を見る。
いつもと変わらないように感じるけど、微かに胸に宿る違和感。
生えている植物も雑草も似てはいるけど、何かが違う。
「叔父さんも俺たちも、交通手段は車。だったら当然、道に残ってるのは自動車の車輪の跡だよね?でも残っているのは、」
「足跡――いっぱいあるわねぇ」
母が合いの手を打つように、確かに前方の道は複数の人の足跡。
もし叔父の車のガソリンが切れていたとしても、足跡は一人分だ。そもそも、よっぽどのことじゃないと叔父は町に出てこない。
それに加えて、見慣れぬものがある。
Uの字をした跡。
「おかーさん、昔近所に牧場あったけど、馬の蹄の足跡と一緒だわ」
母の実家は、田舎で隣の家まで500メートル以上離れているほどである…らしい。
父と母は駆け落ち同然で家を出たらしく、母の故郷には行ったことがない。
それにしたって、今住んでる隣まで1メートル以内である密集生活からは考えられない遠さだ。
回覧板を持っていくのに、何分かかるんだ。
田舎は嫌いじゃないけど、昔郊外に遊びに行ったときは、街灯も1キロ以内に数本しかないし、それに蛾が群がってて超怖かった。
自動販売機なんてホラー並みの蛾で、ボタンも押せななかった。
それ以前に、お金も入れれなかったけど。
「うん。それも、一番新しいものが、叔父さんの家の方面から来ているのはおかしい」
それで、さっき地面にしゃがみこんでいたんだ。
「少なくとも、5,6人が馬を連れて走ってたってことになるけど、牧場も近くにないのに、馬がいるのはおかしいし、野生の馬は山にはいないだろうし」
父が指先でこつこつと握り締めたままのハンドルを小突く。
バックミラー越しに映る父は眉根を寄せていて、兄の話を百パーセント信じた、という顔ではない。
少なくとも、兄はよほどの確証がない限り、突拍子もないことを口にはしない。
「だが、ここらは一本道だぞ」
「そこなんだよね。俺もずっと起きてたし、いつもの順路だった」
「だろう?」
そして、車内には微妙な沈黙。
きっかり25秒で、私は耐えられなくなり、ばしばし、と後部座席を攻撃する。
「起こして、聞けば?」
とはいっても、私、起こす気ないけどね。
「あ~…まぁ、それが一番手っ取り早いんだけどな」
「ちょっと待ってよ、相手は怪我人なんだからね。アンタ、いつもみたいに、上から飛び乗るとか、やめなさいよ?」
そんなこと、赤の他人にしないし。
っつーか、何回かしかやったことないのに、めちゃくちゃ根に持ってるんだね。
内臓飛び出るからやめてっていわれた記憶はあるけど、姉さん、朝がめちゃくちゃ機嫌悪いから、一瞬で起こさないと、こっちが危険なんだよ。
誰だよ!起こした人間にアイアンクローかますやつは!
「じゃあ、擽るしかないか」
「飛び乗るか、擽る、の二択しかないのアンタの中には」
「もしもし、すみませーん」
「はや!」
そういっている間に、兄が荷台に身を乗り出して、怪我人を揺さぶった。